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NTTデータの「給与体系」――65歳定年制の導入で若手の「昇給カーブ」に異変か?

まだ暑さの残る9月某日。若い男女が合コンに興じる渋谷のカフェバーで、NTTデータに勤めるA氏を待った。待ち合わせは午後6時。多忙を極めるビジネスパーソンにとっては、少し早すぎる時間帯だ。

それも、日本を代表するシステムインテグレータに勤務する人ならなおのこと。そう思いきや、A氏はほとんど遅れることなくやってきた。入社したての20代のころ、この店にも来たことがあるという。

「私は裁量労働制で働いているので、仕事時間はいわばフリータイムなんですよ。やることをやっていればいつ会社に行ってもいいし、いつ帰ってもいい。私はたまたまそれほど忙しくないので、実際に働いている時間は定時勤務よりも少ないくらいです(笑)」

定年は65歳まで伸びたが「生涯賃金」は変わらない

NTTグループの中心企業のひとつ

NTTグループの中心企業のひとつ

そう爽やかに微笑むA氏は、30代前半の男性。白いポロシャツにジーンズというラフな格好だ。かつては合コンで鳴らしたに違いない。都内の有名私大を卒業し、有名大企業に就職。まさに将来は洋々としていると思える。

A氏自身も会社や上司には不満はないというが、意外なことにせっかく入ったこの大企業を近々辞めて、転職することを考えているそうだ。

「確かに、一生勤められる会社だとは思うんですけどね…。でも、やっぱり自分自身の今後のキャリアを考えると、不安はありますよ」

NTTデータといえば、旧電電公社を前身の持つ巨大グループの中核企業のひとつ。取引先には国や官公庁、金融機関をはじめ日本有数の大企業が名を連ね、働く人たちにとっては安定そのもののように見える。

しかし社内では、若手社員を中心にA氏のように転職を考える人が現れているのも事実だ。きっかけのひとつは、2013年に導入された「65歳定年制」だ。

年金の支給時期の後ろ倒しに伴い、希望する社員は全員65歳まで働けるようになった。はたから見れば、より長く働ける会社に魅力を感じるのだが……。

「65歳まで働けるとはいっても、実は生涯賃金は以前と変わらないのです。若手社員の昇給カーブを緩やかにして、全体のバランスを取っているだけ。だからベテラン社員はともかく、私たち若手社員にすれば、あまりありがたくないシステムですね」

定時退社でも「裁量労働手当」は月8万3000円

30代以下の若手社員の間では、自分が中高年になっても「今の先輩たちほど給料はもらえない」という諦めムードが漂っているという。給与水準は高いとはいえ、先輩たちのあおりを受けるとなれば、着実な昇給を見込んでいた若手はやり切れない思いをするだろう。

「すでに今までよりも給料が下がる人も出ています。また、これまでは経過措置が取られているので減額分は補填されていますが、それが終わればさらに金額が下がる人も増えてくるでしょう」

A氏は現在30代前半、年収は650万円だ。月の額面は42万円で、年2回の賞与が出る。このほか、月7万円の住宅補助手当が別途支給されており、これを加えると「実質730万円ちちょっと、と考えていいかもしれません」。

この給与の中には、裁量労働手当の8万3000円が含まれている。残業した分の加算はされないが、残業をしてもしなくても毎月この金額が保障される。

「私の勤務時間は定時か、それより短いくらいなので、得をしている方ですね。逆に損をしている人もいますよ。忙しい部署にいて70~80時間くらい残業している人でも、手当は変わりませんから」

サービス残業は禁止されており、長時間労働が2か月以上続くと裁量労働制が解除され、時間で残業手当が支給されるシステムに戻る。残業手当で給与を稼ごうとすることはできないし、残業のない同期を横目に不公平感を抱く人もいるかもしれない。

業績好調なデータが「グループ全体の中高年」を支える

月の給与や賞与の額は、「グレード(等級)」と「業績評価」で決まる。管理職以外の社員は5つのグレードに分けられ、学部卒の社員は入社5年程度で、グレード5から4に昇格するのが一般的だ。

ただし、瞬間的に好業績をあげても出世できず、最近は「連続してB評価を獲得する」など安定的・継続的に好評価を得ることが求められるように制度が変わった。A氏は「昇格へのハードルが高くなった」と感じている。

賞与を決める業績評価システムは「総合評価」と呼ばれ、A~Dの4段階で毎年行われるが、実態は相対評価だ。グレードごとに人数配分が決まっており、どんなに頑張っても全員Aとはならない。同じ部署で「上」が詰っていれば若手が割りを食うこともある。また、配属部署の業績にも影響を受けるので「運に左右される部分もある」と不満を抱くこともあるようだ。

こうした給与や人事評価のシステムに見直しが加わったのは、65歳定年制が導入された2013年前後。結果として、「若手の昇給カーブが抑えられていると同時に、同期入社との間で給与の格差がつきやすくなった」とA氏が漏らすような事態になっているのだ。

また、このシステムはNTTグループ全体で運用しているため、若手が多く業績もよいデータやドコモの社員には、「年配社員の多い他の会社を支えるためのしわ寄せが来ている」と感じることもあるという。組織の大きさと安定が、逆に重しとなっている印象も受けるが、これも大企業に入社した運命というべきか。

「当社は手掛ける案件も大規模なものが多く、垂直統合型で営業から企画・開発、工程管理などを広く見ていくので、中で働けば幅広いスキルが身に付くのは間違いないです。逆に言えば、そういうスキルが身に付いたからこそ、転職時の武器となるのですが……」

そんな中でも、NTTデータで定年まで勤めようと考えている若手社員は、いまだに多い。とはいえグローバル化の進展で、典型的な日本企業の「安定志向」だけでは立ち行かなくなっているという現実も迫っているようだ。(文・構成:オフィスチタン)(後編は近日公開)

 

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