人気企業を目指す就活生に忠告! 自分に向かない会社には「早期退職」のリスクがある
多くの学生が就職を目指す「大企業」。高い競争に勝ち残ってせっかく入った人気企業を短期間で辞めてしまう人がいます。それはなぜなのでしょうか。その理由をあらかじめ知っておくことで、自分に合わない会社に入ることを避けることができます。
いま就職・転職は、新卒も中途も2倍前後の求人倍率が続いており、「売り手市場」「採用難時代」と言われています。さぞかし皆好きなところに入って、満足して働いているのではと思いますが、「新卒は3年で3割の人が辞める」という状態はあまり変わらないようです。
それは中小企業のことではないか、とおっしゃる方もいるかもしれません。確かに規模や業界で退職率にはかなり差がありますが、数は少なくとも、どんな人気企業にも早期退職者は存在します。それは一体なぜなのでしょうか。(文:人材研究所代表・曽和利光)
「ワン・オブ・ゼム」を不安に思う人もいる
まず、「ふつう」の早期退職理由は、すでにいろいろ調査されています。たいてい「上司や同僚との相性」など人間関係が最大の理由となっており、「人は会社を辞めるのではなく、嫌な上司の下を去るのだ」と言ったりします。
他にも多いものとしては、就職時に自分の希望業界に入れなかった人は「やりたいことがやれない」、待遇がよくない中小企業などに入らざるをえなかった人は「長時間労働など労働環境が悪い」という退職理由となりやすい。私もおおよそ同感です。
本稿のテーマは、これらのことが人気企業にも当てはまるのか、人気企業を退職する理由もそうなのか、ということです。
人気の大企業は中小と比べて給料が高く、経営も安定しています。名前を知られているので、名刺一つで「会ってみようかな」と、最初の信頼ぐらいは獲得することができます。規模が大きいため、社会に強い影響を与えるような仕事をすることもしやすいでしょう。
それでは、そんな企業を人はなぜ早期退職するのか、つまりデメリットはどんなことなのでしょうか。最もよく聞くのは「ワン・オブ・ゼム」感とでも呼ぶ感情です。大きな会社の一部分でいることは、多くの人には安心感なのでしょうが、それを不安に思う人もいるのです。
「勝ちパターン」「分業」が疎外感を助長する
会社が大きく安定するにつれ、相対的に個人の存在価値は減っていくため、重要感を感じられなくなる不安はわかります。「お前なんかの代わりなどいつでもいるんだ」感とも言えます。「もっと自分を大事にしてくれるところ、自分が価値を出せるところに行きたい」とも思う人がいる。これが、人気企業である大企業を辞める一つの理由です。
それを助長するのが、大企業の「勝ちパターン」です。いや、何らかの勝ちパターンがあるからこそ、大企業になれたと言ってもよいかもしれません。勝ちパターンがあることは、経営上では問題どころか大メリットです。
しかし、働く人にとって、勝ちパターンは自由度を妨げる足かせにもなります。勝ちパターンがある会社は、別に最前線の社員にいろいろ考えたり試行錯誤したりしてもらわなくて結構、言い換えれば「無駄に考えるな。勝ちパターン通りに愚直にやればよいのだ」となりがちだ、ということです。
勝ちパターンに沿ってやれば、成果がどんどん出るのでしょうが、自分の力で成し遂げたわけではないからと、それを手放しで喜べない人もいます。失敗しても、自分で考えてみたいというわけです。
さらに大企業は、勝ちパターンをさらに「分業」によって成果を向上させようとします。社員がそれぞれの仕事に集中するから効率化・専門化していき、生産性が高まります。
しかし、これも、働く人にとっては「仕事の幅を狭める」「全体感が持てない」「自分の仕事の意味がわからなくなる」と捉える人もいるでしょう。これらはすべて重要感を下げることにつながり、結果、早期退職を促す要素になります。
転職理由は「もっと成長できるところへ行きたい」
また、求人倍率の低い人気業界を見ると、すべてに当てはまるわけではありませんが、そのうちの意外に多くの会社が「規制産業」であることがわかります。規制に守られていることも、メリットとデメリットがあるのです。
リクルートワークス研究所の「ワークス大卒求人倍率調査」(2019年卒対象)によると、流通業は約13倍と非常に厳しい求人倍率です。一方、金融業は0.21倍、サービス・情報業は0.45倍と低い。サービス・情報業には、通信・放送・情報サービス・インターネット業界・マスコミ・広告・不動産・鉄道・インフラなど、いかにも人気企業がここに入ります。
一番わかりやすいのは、金融や放送局、通信やインフラなどでしょう。これらの業界は規制が厳しく、参入障壁が高い。事実上、独占・寡占状態の業界もあります。そのために、競争が相対的に穏やかで余裕がある。給料も高い、いい会社です。
こんないい会社のどこが嫌で辞める人が多いかというと「停滞感」です。こういう業界はあまり人が辞めません。それで、上が詰まっている。企業において競争は活力の源のようなものですので、競争がなければ人はなかなか精進しません。
そのため、社員のうちには年をとる毎に成長スピードが落ち、相当の年齢になれば成長が止まってしまっている人もいる。それを見ている若手は「ああはなりたくない」と思うのに、余裕のある会社は彼らに厳しい評価もせず、切ることもなく放置しておく。
結果、能力ある若手が見合った昇進ができない。これが人気企業の退職理由で最も多いものです。組織の停滞感が自己成長の停滞感につながり、「もっと成長できるところへ行きたい」という願望につながり、これもまた早期退職につながっていきます。
自分のタイプをきちんと分析しておこう
以上、かなり一般化して申し上げてしまいましたが(例外はたくさんあるでしょう)、人気企業にも述べてきたような、人によっては退職にまでつながるデメリットに感じることがあるということです。
まとめて言うならば、大企業や人気企業に行こうとする人は、自分が「こういう人」ではないか、きちんと自己分析しておくべきということです。こういう人とは、
●重要感を感じていたい、人から必要とされたい人
●真実自体よりも、真実を知る過程を自分でやってみたい人、試行錯誤がしたい人
●全体感を見渡せるような仕事をしたい、自分のやっていることの全体にとっての意味を知りたい人
●早く成長して行きたい、いわば生き急いでいる人
ということです。これらに当てはまるような人は、もしかすると、皆がうらやむような人気企業に入ったとしても、自分にはフィットせずに、早期に辞めることになってしまうかもしれません。人気企業に行こうとする人の参考になりましたら幸いです。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/