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態度だけは巨匠だった。編集者が出会った漫画みたいな売れない漫画家

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漫画家といえば「締切に追われる」というイメージがある。実際、週刊連載を抱える人気作家になると、そもそもの仕事量も多くなってしまうようで、連載に作業ペースが追いつかなくなったのだろう途中で「お休み」というケースをしばしば見かける。

出版社側からすれば、売れる人気作家の存在は非常に貴重。多少であれば連載ペースが乱れたところで、「仕方ない」と飲み込んでくれるのかもしれない。しかし、同じことを売れない漫画家がやってしまえば……。都内の出版社に勤務する編集者が出会ったのは、そんなどうしようもない漫画家であった。(取材・文=広中務)

コミケがあるから仕事はできない

とんでもない漫画家との出会いは、15年ほど前のこと。ずいぶん前の話だが、その強烈な言動は、いまでもしっかりと記憶に残っているそうだ。

編集者はこう、振り返る。

「そのころ働いていたのは、コンビニなどで売られている実話誌の編集部でした。事件や出来事を数ページの漫画で紹介する記事がよくつくられていたのですが、かつては大手誌で描いていた漫画家が仕事を求めてやってくることも多かったですよ」

職業としてみると、漫画家は極端に不安定だ。どんな大作家でも、読者受けが悪ければ連載は打ち切られるし、単行本も売れなければ当然お金にならない。それでも、やはりそこには人を惹き付ける魅力がある仕事なのだろう。大勢の「予備軍」が、日々作品を描きながら、チャンスを待ち受けている状況が続いている。

だから、実話誌にあるちょっとしたコーナーでも「やりたい」という人は少なからずいたそうだ。そんなとき、知人の編集者から「なにか仕事をあげて欲しい」と紹介されたのが例の漫画家だった。人が紹介してくるぐらいだから「経験」はそれなりに積んでいたようで……。

「かつてはアダルト誌や青年誌でよく目にしたことのある名前でしたが、その当時でも絵柄が古く厳しいなと思われる人でした。紹介者も頼まれて仕方なくという感じでしたね」

絵柄の流行は変遷が激しい。流行っていないテイストの場合、やはり「使いどころ」が限られてくる。ただ、実話誌の解説漫画というのは制作費も限られていて、ライターが書いた1~2ページ分の原作を、それなりの金額・スピードで漫画にしてくれれば、編集者としても満足といえるわけだ。

「わかりやすく描いてくれるなら、誰でもいいというのが本音です。そこで試しに2ページ書いてもらうことになり、ファミレスで打ち合わせすることになったんですが……」

編集者が実際に会ってみて驚いたのは、その売れない漫画家の態度が「巨匠並」だったことだ。

「挨拶もそこそこに『お腹空いてるんですけど、いいですか』と食事を要求されました。しかも、こちらが首を縦に振ったらビールまで注文したんです。暑い季節でしたけど、まだ午後2時くらいなのに、2回もビールを追加しましたね」

真っ昼間のクライアントとの初会合でビールを注文とは、いったい何モノなのか。しかも、話す中身も「仕事の打ち合わせ」とは思えない内容だったそうだ。

「最近売れ筋の漫画やアニメの話題になったのですが、発言に中身がなくて、単に『○○は面白いよね?』とかいうだけ。喋り方も独特で、一部ネットで流行しているスラングを多用していました。きっと、自分は時代に取り残されていないと思わせたかったんでしょうねえ」

いま売れている漫画家について、「友人か子分かのように、上から目線で話す」こともあったという。おそらく仕事をもらうため、自分を大物に見せたかったのだろう。この時点で「次はないかな」と思いつつも、一週間後の締切を約束した編集者だが、締切翌日になっても原稿は来なかった。その翌日も音沙汰なし。そこで催促の電話をしてみたところ……。

きっと「もう完成します」といった返事をするだろうと思っていた編集者が聞いたのは、耳を疑う言葉だった。

「まったく謝りもせず。『コミケの原稿をやってたから、まだ出来てません』でした。追い打ちをかけるように『明日がコミケなんで今日は作業できません』ということでした」

初仕事の締切を破る理由がこれか。どんな聖人でも怒りそうだが、この編集者は、あまりの予想外の返答に「では、待ってます……としかいえませんでした」と振り返る。

結局、原稿が届いたのは当初の締切から5日後のこと。もともと初回で、かなり前倒しに締め切り設定をしていたため、印刷には何とか間に合ったがヒヤヒヤものだったのには変わりない。その後、初仕事の相手に対しては、いっそう早めの締切を設定することにしたそうだ。

しかし、とんだ大作家さまもいたものだ。打ち合わせの時には、いくつもの「漫画業界を激震させる作品」の構想を語っていたそうだが、いまだにそうした作品が完成したという話は聞こえてこないそうだ。

編集者は「Twitterで『俺の作品を描かせてくれる雑誌がない』とか編集者を批判しているのを見かけたこともあります。自分が仕事をした漫画家の中には安い仕事で食いつないで、復活した人も大勢いるんですけどね……」と振り返っていた。

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