男性は、東京郊外の大学に通っていた4年間、キャンパス近くの大手コンビニでアルバイトをしていた。
「実は、その店のバイトは所属していたサークルのメンバーたちが、代々受け継いでいたんです。私も、卒論で忙しくなった4年生の先輩の代わりに入ったという経緯でした」
サークルの先輩が後輩を紹介するぐらいだから、職場はアットホームな雰囲気。もうちょっとストレートな言葉を選ぶと「とにかくユルかった」のだと男性は語る。
「日中は大学生で賑わいますが、夕方以降は一気に客が減ります。自分は夜勤だったのですが、とにかく客が来ないんです。睡魔と闘いながら品出しをするのが主な業務でしたね」
その「ユルさ」を象徴するのが、廃棄弁当の取扱いだった。本来、「廃棄」というぐらいだから、きちんと処分しなくてはならないはず。ところが……。
「とにかくオーナーが適当なので、廃棄になったものを食べてもまったく咎められません。それどころか、バイト明けに持ち帰っても、なにもいわれたことがありませんでした。ほかのコンビニでバイトしている友人からは、持ち帰りまで認められていることは驚かれましたけどね」
しかも、男性がアルバイトしていたコンビニでは、毎日のように大量のおにぎりや弁当が廃棄となっていた。ようは需要に対して仕入れが過剰だったのだが、男性がいた4年間それが改められることは一度もなかったという。
「コンビニの過剰発注の問題なんかはネットでは見たことがありましたが、オーナーが困っているという風でもなかったんです。いま考えると赤字経営だったのではないかと思うんですが、謎です」
まあ実際、商品の棚がスカスカだとビジュアル的に寂しいし、客も買い物をしなくなってしまう。そんなわけで廃棄というのは必ず出るものではあるのだが、結果的に男性は食事のほとんどをコンビニの廃棄弁当に頼るようになっていった。
「もちろん、当たり外れがあります。トンカツ弁当なんかが廃棄になっていればラッキーですけど、そうとは限りません。廃棄が、おかかのおにぎりばかりだと、運の悪い日だなと思いつつ、あるだけ持ち帰っていました」
決して公言はしなかったが、同じサークルのメンバーに廃棄した弁当を横流しすることも当たり前だったという。
「学園祭の準備に追われている時期にバイトに入った時のことなんですが、夜勤明けに廃棄のおにぎりと弁当を残っているだけ全部持ち帰ったことがあるんです。徹夜で準備して腹を空かせていたサークルの仲間からは<神か!>と喜ばれましたよ」
しかし、食事のほとんどを廃棄弁当と外食に頼っていた男性は、身体に不調を来してしまったそうだ。
「大学3年生の時に、突然足が腫れて歩けなくなったんです。それで病院にいったら……痛風でした」
偏った食生活の結果であった。以来、男性は廃棄弁当を食べる回数を減らしたという。
「でも……今でも舌が覚えているのか、コンビニ弁当が一番安心する味なんですよね。健康に気をつけて、週1回程度に控えてますけど」
なお、男性の胃袋をサポートしてくれたコンビニは、卒業から間もなく閉店したという。過剰在庫すぎて赤字だったのかな……。