人手不足の職場では即戦力を求められがちだが、業種が同じでも職場が変わればやり方は変わる。経験者だからといってある程度の指導・教育をしなければ、ますます人材不足に陥るばかりだ。
関西在住の30代女性は、スーパーの青果係としてフルタイムで週5日、10年間勤務していた。2021年にその店が閉店したため、別のスーパーに転職することにしたのだが……。
「そこの主任は私よりも若い女性で、こちらが10年青果の経験があったためか、仕事を教えてくれず『やったことありますよね?』の一点張り。同じ職種でもやり方は全く変わるし、値札シール機も初めて使う物だったので、とても戸惑いました」
結局女性は、働きだしてたった2日で職場を去った。一体何があったのか、編集部では女性に詳しく話を聞いた。
「説明をたったの5分されただけでした」
その主任は正社員で30代前半くらい。最初のやりとりはごく普通だったが、新人のサポートは極力したくない人物だったらしく初日からこんな扱いを受けたという。
「バイト初日なのにほかのパートの青果メンバーにも紹介してくれないんです。仕方ないので一人ひとり自主的に挨拶して回りました。以前の職場は、新しい人が入ったら朝礼で紹介していましたが……。それに、主任との挨拶もそこそこで売り場に連れて行かれ、ここは売出しのものを置く場所、ここは昨日売出した物を移動する場所で…などの説明をたったの5分されただけでした」
驚くことに、「これが主任から説明を受けた最初で最後の指導」だったそうだ。
仕事中も雑な対応は変わらなかった。女性が品出しをしていると、主任が無言で違う種類のイチゴを持ってきて後ろに陳列し始めた。そこで「このイチゴは種類が違いますが、同じ値段でいいんですか?」と聞くと
「そうしてほしいから置いてるのにわからないんですか?」
とぞんざいに吐き捨てられる始末。女性は「腹が立ちました」と初日の勤務を振り返った。
「今までも主任が指導しなかったせいで辞めた方が居たのかもしれません」
2日目には「台車を2台持って来て売り場まで運べ」と指示され、女性は驚いた。すでに開店し客が入店していたため、2台同時に売り場に出しては客にぶつかってしまう危険性が高かったからだ。
「台車は高さが170センチ程あり、そこにぎっしりと果物の箱が10箱くらい載せられています。非常に重たいので、男性の力ですらコントロールをしっかりしていないと、すぐに違う方向に向いてしまいます。通常のスーパーなら、台車自体を売り場に持っていくのは好ましくないので、そんな扱い方をしていて驚きました」
実際、女性が10年勤めたスーパーでは「台車の扱いは慎重に」と口酸っぱく言われてきたという。危険だと判断した女性はこの店でも1台ずつ運んでいた。すると
「『そんなペースでやってたら終わらないんで、同時に持って行ってください』と言われ、お客さんのことを考えていないと思いました。あげく12時までの仕事なのに、やることがないからと11時30分で退勤させられたんです。2日目で、ですよ!? やることがないのなら野菜やカットフルーツの切り方などを教えてくれたらいいのに……」
おまけに「慣れていないから」という理由で週5勤務の希望を2日に減らされるなど、不満は募るばかりだった。我慢の限界を超え、帰宅後すぐに店長に電話して退職する旨を伝えたという。
翌日、退職届を提出するために店舗へ行った際にこれまでの経緯を話すと、
「店長は申し訳なさそうな顔をして聞いてるだけでした。ああ、そうですか……という感じで、あくまでも私の想像ですが、またか……という雰囲気を感じました。もしかしたら、今までも主任が指導しなかったせいで辞めた方が居たのかもしれません」
と振り返った。辞めてどうだったかたずねると、
「辞めて良かったです。やったことがあるという理由で一向に仕事も教えてもらえませんでしたし、あのままだといつかお客さんにけがを負わせていたかもしれません」
と語る女性。せっかく経験豊富な人材が入ったというのに、この店は惜しいことをしたものだ。ちなみに客の立場から見ても雰囲気のいい店ではなかったようで、「どんな従業員の方とすれ違ってもいらっしゃいませと言われた事は無かったですね……」と語っている。
【即行退職シリーズ】