内示直後は、「不安と寂しさで茫然自失状態でした」と振り返る。可愛い盛りの子どもたちや愛する妻と離れ、遠くへ飛ばされることになったのだから当然だ。周囲の同僚たちからは「大丈夫か?」と気遣われたほどだった。
「私は、周りには『大丈夫です。これからもよろしくお願いします』と答えて自分のメンタルを保っていました。初めての単身赴任で毎週末は買い物や必要なものの準備で目まぐるしい日々で、心細くもあったので辛かったです」
心が弱っているときで、業務報告が遅くなることもあった。そんなとき、当時50歳の上司はこんな一言を男性に放った。
「異動になって浮かれてんじゃないのか?」
どう考えても喜ばしい状況ではないのに、ずいぶんな言われようだ。「なんとか自分を保っていたときだったので、メンタルが崩壊しそうになりました」と語った。
「元上司は『そこまで追い詰めなくてもいいのでは』と思うくらい、口で追い込むタイプです。仕事は速く確実に要点を捉えるのが上手い人でしたが、自分の正しさを主張するために口が悪くなりがちでした。他にもこの上司に詰められて病んでいる後輩がいました」
男性も、仕事はできるが影響力の強すぎる上司に、深く傷つけられた。
「退職願を出す日のことを思うだけで胸が高鳴ります」
異動後の現在、仕事は順調だろうか。男性の配属先は工場だが、製造部門ではなく保全関係の部署だった。
「保全状態に不備があれば工場周辺住民からの苦情を受ける部署です。他課から見れば生産性のない仕事を増やす面倒な部署です」
おまけに、「予算もなく、人員もいない。新卒を取らない部署のため、おのずと寄せ集めの少ない人員で切り盛りする状態」だった。人間関係もすさんでいるようだ。
「今後を担う人材として管理職になることを期待されていますが、工場配属が初めてなので人脈も技術も知識もなく苦労しています。最近は直属の上司にもひどいことを言われています」
と厳しい状況を明かす。転勤となって1年にも満たないが、このまま我慢するつもりはないようだ。
「転職活動しています。元の部署と同じ業務ができる会社に応募して、最終面接まで来ました。転職に期待しているだけに、退職願を出す日のことを思うだけで胸が高鳴ります」
これを男性は「私も性悪です」と苦笑いするが、かつての上司に転職したと伝われば多少は溜飲が下がることだろう。転職成功を祈るばかりだ。
夢のタワマン購入、翌年に転勤 → 部屋を借り上げ社宅にされて「トイレを他人に使われている」ことに耐えられない男性