そこは40代の男性医師が院長を務めるクリニックで、女性は人事アシスタントとして働いていた。求職者に業務内容を説明し、適性検査やアンケートを取るのが主な仕事だ。そのアンケートの内容が「ブラックだな」と感じたそうだ。
「『結婚しているかどうか』という質問がありました。さらに選択肢に未婚、既婚、事実婚、離婚済、死別済と書いてあったんです。自分が採用された時は無かったので、あとから上司が付け足したのだと思います」
過剰にプライベートに踏み込む内容であり、仕事の能力とは関係ない質問だ。女性も「そもそも未婚既婚で合否を判断してはいけない」と考え、それとなく院長や人事責任者に伝えたという。ところが、院長を務める男性医師からは前述の通り「結婚していない人はスキルがあっても人間的に低い」などと思いもよらない答えが返って来た。女性は
「今は令和なのに、何を言ってるんだろう…とか、こんなのが医療業界では当たり前なのか…と嫌になりました」
と失望をあらわにする。
この男性医師は、独身のスタッフにいちいち酷い言葉をぶつけることもあった。10年以上の経験があるベテランスタッフにも、独身であるというだけで
「専門業務だけやってればいいと思うな。家庭があればもっと考えるでしょ、なんでできない」
「家庭がないから責任持って仕事できないの?」
「僕の方が正しいってなんでわからないの?」
と責められ、何度も揉めているうちに辞めてしまった。他の独身者も、
「結婚してないから小児患者の対応が下手なんじゃない?」
などと理不尽な言葉をぶつけられるのが日常茶飯事だった。同じようなミスをしても、独身と既婚者では扱いが違ったという。
「独身者の場合は『これだから結婚してない人はやっぱりよくないね、家庭が無いからか責任感がない』と言われ、最終的に自主退職に追い込まれました。私は1年しか働いていませんが、私を含めて辞めた5人は全員独身でした」
入社した頃は女性を含めてスタッフが9人いたというが、半数以上が次々に職場を去ったのだ。
「これだから半人前は!」と罵りながらGoogleの口コミを必死で消す
そんな状況のため絶えず人材募集をしなければならなかったが、あるとき「事実婚」の応募者が面接に訪れ、こんな事態になった。
「院長が、応募者の方に『なぜ事実婚なのか、籍を入れないのか、籍を入れていないなら未婚者だろう』と言って揉め、後日Googleの口コミと転職サイトにそのことを書かれていました。院長はそれを何度も削除しようとしながら『クズが!これだから半人前は!』と応募者の方を罵っていて……。その時の様子は異常で、はっきり言ってすごく怖かったです」
ここまで婚姻の有無に固執するのは、やはり異常だ。結局、女性も今年の夏に退職に追い込まれ、わずか1年で辞めることになった。短期間で辞めたことから、案の定「だから結婚できないんじゃない?」などと責められたという。それでも、
「今月から、医療業界ではない新しい職場で働いています」
と転職先が決まったことを報告してくれた。
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