社長は私的流用だけでなく、「事業をやたら拡大したがり、銀行から資金を借りられるだけ借りていた」という無茶な人物だった。そのうえ資金繰りとなると経理部長に押し付けていた。
「毎月の支払日の資金繰りに苦しむ経理部長に、社長は『お前の能力がないから資金繰りができないだけで、何とかする努力をしろ』と怒るだけでした」
しかし、社長の罵倒に耐え続けた経理部長にも、やがて限界のときが訪れた。数年経ったある月末のことだった。
「経理部長がお昼ごはんに出かけました。いつもの光景でした。でも、部長は休憩時間が過ぎても戻ってきませんでした」
その後女性は、ある取引銀行から電話をとったのだが、これを皮切りに社内は騒然となった。
「午後2時45分頃、担当者が焦った様子で電話をかけてきました。経理課長に取り次ぐと、『手形が落ちません』と言われた課長は絶句です。数分遅れてほかの金融機関からも電話があり、課長が他の電話に出ているので、『他の経理がわかる方に取次ぎを』と言われました」
会社にとって「手形の不渡り」は、取引先への支払いができず倒産の危機ともなる事態だ。このとき社長はのん気にゴルフ中だったが、連絡を受けさすがに大慌てで会社に戻って来た。
「銀行の担当も続々と到着して更に大騒ぎになりました。社長はゴルフウエアのまま喚き散らしたり、経理部長の行方を調べたり、銀行担当者にすがりついたりしていましたね。あーこうして会社は潰れていくんだな…と、眺めていました」
「後日、逃げた経理部長はクビになり……」
しかし、「会社は結局、潰れませんでした」と女性は振り返る。問題の経理部長とは一週間ほど経った頃、連絡がついたそうだが、その後の展開がまた衝撃だった。
「後日、逃げた経理部長はクビになり、焦げ付きの返済を求められました。社長が弁護士をたててやり取りをしていて、全額かはわかりませんが、日雇いの現場仕事をして細々と返済していたみたいです。社長が幹部たちと雑談しているときにその話題をしていました。『この間〇〇道を車で通ったら、経理部長が現場仕事やってたわ、大変だけどしゃあないわな』とも言っていましたね」
どういう名目なのか、解雇はともかく経理部長が負債の責任を負わされるのは疑問が残る。そもそも社長が銀行からお金を借りまくったのが原因だろう。しかし社長には反省の色が見られなかった。
「その後、社内ではリストラが進み、不採算部門が消滅しました。それでも社長のゴルフ、ワイン、愛人は止まらず……。結局、その社長は還暦前に病気で急死しました。今は未亡人が社長に就任して、堅実路線で経営を続けて今に至っているようです」
こう驚きの結末を明かした。自身は出産を機に退職したが、入社して8年のうちで円満退職したのは自分だけだったというから、その後も社長のワンマンぶりに社内が振り回されていたのだろう。「ボンボン社長には気を付けなきゃな、と思った会社でした」と教訓を語ってくれた。
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