当時の仕事内容は、「スマホアプリの監視業務」だった。「一般ユーザーが投稿した記事のジャンルを仕分けたり、違反投稿を削除したりしていました」と振り返る。問題は仕事そのものではなかった。
「その会社ではIT企業ということもありセキュリティに厳しく、パソコンのある部屋へ基本的に私物の持ち込みは禁止でした。飲み物やハンカチなどはOKで、私は小さい透明なハンドバッグに入れて持ち込んでいました」
しかし女性はもともと身体が弱く、胃腸薬や痛み止めが手放せない体質だった。そのため、その透明のバッグにも常に数種類の薬を入れていたという。ここまでは、なんらおかしい事はなかった。
ところが、入社して1週間ほど経った頃、「センター長から新人の定着の為の面談と称して」呼び出しを受け、驚きの指摘をされてしまう。
「 『あなたは、仕事部屋に薬を持ち込んでいますね? 他の社員からクレームが来てます』と言われました。 『どんなクレームですか』と聞いたら、『重病みたいに見えるから」と』。持ち込んでいるのは消化器内科で処方されたり市販の胃腸薬や痛み止めですし、私はすぐ吐き気や下痢をもよおす体質で、全て必要なものでした」
体調管理のため必要な薬を持っているだけで文句をつけられるとは驚きだ。しかも、その会社は大きなビルにテナントとして入っていたため、トイレが遠かった。
「会社と女子トイレがフロアの端と端にあり、片道5分近くかかりました。10分休憩だとトイレからすぐ出なければならず、お腹の弱い私には辛かったです。その様な事情を説明したにも関わらず、センター長は全く聞く耳を持たず、再度『でも、重病みたいに見えるから(笑)』と」
実際には重病ではないのに、薬を持っているだけでそう見えると言われても、困惑しかないだろう。こちらに落ち度はなく、言いがかりのようなものではないだろうか。モヤモヤする事は他にもあった。
「換気もろくにできていない、『夜に電気がついているとクレームが来るから』という謎な理由で一日中カーテンを締め切っている等、環境も劣悪でした。体調不良や個人の体質にも全く配慮しない酷い会社だと思い、2週間で退職しました」
夜の明かりがクレームの原因なら昼間は開けてもいいはずだ。そんなクレームは無視していいと思われるが、変なことを気にする会社だったようだ。女性がこんな環境に耐えられなかったのももっともだ。
皮肉なことに「新人の定着の為の面談」は、まったくの逆効果。前述通りこの会社では大量採用をして短期間で辞めていく社員が続出し、「ベテランと新人しかいない」という状況だった。中堅社員のいない職場は安定感に欠けることだろう。
「求人サイトでは『髪色・タトゥーOK』などと条件を緩くして、キラキラした仕事のように書いていますが、常に人が辞めるから人手不足で年中求人が出ています。そりゃそうだろうな、と思います」
と呆れたように振り返っていた。
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