「JASRACは自分たちを法の番人と勘違いしている」 著作権問題でヤマハが徹底抗戦の構え
JASRACは今年2月、音楽教室の指導で楽曲を使用することは「演奏権が発生する」とみなし、著作権料を徴収すると表明。7月にも文化庁へ申請予定としていたが、これに対し、音楽業界から「音楽文化の萎縮を招きかねない」と反対の声が相次いでいた。
音楽教育を守る会の担当者はこの件について「JASRACが勝手に法律を拡大解釈して広めている。とんでもない話」と憤慨する。著作者に代わって著作権料を徴収するJASRACの社会的な意義は認めつつも、「教室での演奏が『演奏権』の発生だと解釈するのはやりすぎです。彼らは自分たちを法の番人か何かと勘違いしています」と強い反発を示した。
「2012年にカルチャーセンターから徴収を始めたことなどを根拠に、音楽教室からも徴収しないと不公平、と、もっともらしく主張しているようですが、カルチャーセンターと教室とでは、音楽の使用目的が違います」
カルチャーセンター等でBGMとしてCDを再生するのと、教室で指導のために使うのとでは、音楽そのものを鑑賞対象とするか練習材料とするのかで全く異なるという主張だ。
個人でピアノ教室を運営する60代の女性も「コンサートでの演奏と教室での指導が、同じものと括られるのは、感覚的に理解できない」と首を傾げる。
JASRACの主張が通れば、各音楽教室は年間受講料収入の2.5%を支払わなければならず、ヤマハの場合、その額は年間8億円にも上る。そうなれば、生徒の月謝に上乗せして費用をねん出するほかないという。
「企業として大々的にやっているところからは、きちんと頂戴しなければ」
一方でJASRACの広報担当者はキャリコネニュースの取材に対し、「一事業として営利目的で運営される音楽教室は、言葉は悪いですが、作者の作った楽譜にただ乗りして利益を得ているようなものです」と強気の姿勢を見せ、
「音楽を通じて社会を豊かにしていこうという共通の理念を持つヤマハさんに、我々の考えが受け入れられなかったのは非常に残念」
と、現在の音楽教室運営の在り方に疑問を投げかけた。
同団体には現在、約1万7000人の会員がいるが、JASRACの方針に対し、会員から大きな反対は出ていないという。楽曲を使用することによって発生するお金が本来受け取るべき著作者に回らず、楽曲を元に利益を上げている音楽教室に入る現状に、理不尽を感じているる会員も多いそうだ。
「会員は、全員が作詞・作曲だけで食べていけているわけではありません。世論が『ただで使ってもいいじゃないか』という風潮に動いていることに、不安を感じるという声も聞きます。企業として大々的にやっているところからは、きちんと頂戴しなければと思っています」
人気作曲者が多数所属する都内の音楽プロダクションの社長も、「JASRACはなぜ払わなければならないのか、しっかり法的な根拠があってやっているはず。感情としては色々あるだろうが、法律上どんな規定になっているかが一番の問題だと思う」と、徴収には賛成の態度を示している。
もし裁判になれば、「演奏権」の解釈が初めて明らかになると各方面から注目
文化庁著作物流通推進室の担当者は、音楽教室での指導が演奏権の行使に当たるか、明確な解釈は無いという。
「今までこの解釈については明確ではなく、根拠にできる判例がありません。専門家でも文化庁でも判断が揺れていますから、もし今回本当に提訴ということになれば、初めてこの論点が明らかになります。今は事態を静観しているところです」
様々な解釈がある中、ある弁護士はツイッターで「ヤマハに分がある」との見解を示した。キャリコネニュースの取材に対しては
「教える先生と生徒の間でしか発生しない、第三者に聴かせるわけではないものを演奏と解釈するのはどうなのだろうか。楽譜を購入する際にも著作権料を支払っているのだから、それで充分なのではないか」
とコメントした。音楽教育を守る会は今月30日に総会を開き、会員企業に原告団の結成を呼び掛ける予定だ。