「奈良公園のシカは絶対に殺しません」 奈良県がシカ120頭を捕獲へ、あくまで山間部に限定
「奈良市一帯に住む野生の二ホンシカ」は国の天然記念物であるため、文化財保護法に則り、文化庁の許可が無ければ駆除出来ない。しかし、水田の新芽や植木、畑が荒らされる被害(鹿害)は後を絶たず、1970年代には訴訟も起きていた。
1985年には文化庁との和解条項として、奈良市内をABCD4つの地域に分け、山間部にあたるD地区のシカは、申請があれば捕獲可能と定められた。しかし実際には柵の設置や追い払いなどで対処しており、捕獲されることは一度もなかったという。柵の設置後も、被害は減らなかったようだ。
奈良市鹿害阻止農家組合が2012年に行った調査では、旧奈良市内の12地域における鹿害の被害面積は2828アールだった。組合に入っていない農家の分も含めれば、実態はもっと深刻だという。奈良県が2015年に行った調査でも、「過去5年間で鹿害が増えた」と感じる農家は70%以上にものぼっている。
同組合の担当者は「これまで50年以上にわたり、被害を訴えてきた」と述べ、捕獲許可決定は悲願だったことを滲ませた。
「山間部と公園のシカは、見た目も性質も異なる」
一方で、捕獲許可を巡り誤解も生じている。奈良県奈良公園室には、最初の報道があった今年5月頃から、「なぜあんなにかわいい奈良公園のシカたちを殺すのか」といった問い合わせが寄せられるようになった。
「奈良のシカと言えば奈良公園がイメージされるのは、県外の人にとってはもう仕方ないことだとは思うんですが、今回捕獲の対象になるのは山間部で農地を荒らすシカです。公園のシカは絶対に殺しません。これまで同様手厚く保護します」
と担当者は強調する。前述の和解条項で分けられた4地区のうち、奈良公園はA地区に該当する。捕獲対象となる山間部のD地区とは、林や山を隔てて遠く離れているため、2地区間でのシカの往来も恐らくないと見られている。
また、D地区とそれ以外のシカでは、特徴も全く異なるという。
「奈良公園一帯に住むシカも山間部のシカもどちらも野生ですが、公園のシカはふっくらして小さく、ちょっとずんぐりとした、穏やかな性格です。観光客があれだけいても逃げず、人に慣れています。他方D地区のシカたちはごつごつして強面で、人を警戒します。夜行性で田畑を荒らしに来ますが、公園のシカは夜になると寝ています」
山間部のシカは奈良市外から入ってきた個体も多いと見られており、「古くから『神鹿』として大事にされてきたシカたちと山のシカは違うのでは」と担当者は話す。「保護と管理、2つの側面から考える必要があります」と言うように、野放しにして生態系が崩れたり、農作物の被害が拡大したりするのを見過ごすわけにはいかない。
捕獲は今年7月に始まり、年度末まで行われる予定。捕獲したシカは、遺伝情報の解明や胃袋内部の調査を通し、鹿害防止や頭数管理に役立てられる見込みだ。