トークセッションではまず、栗田氏がiモードでの絵文字開発を振り返った。絵文字は元々、短いセンテンスで感情を付加するツールとして考えられたものだった。
「携帯メールに全角250文字の文字数制限がある中、多くの人が文字数を圧縮できるiモード絵文字を使ってくれるとは思っていましたが、iモードでキラーコンテンツのようになったのは予想を超えていましたね。自分の親から絵文字が送られて気恥ずかしかった記憶があるんですが、世代を超えたニーズを掘り起こせたのかなとも感じました」
若新氏は絵文字から発展したLINEスタンプにも触れた上で、顔文字や絵文字は、ビジネスでのテキストコミュニケーションで削られた、相手の表情などの情報を補完する効果があると強調する。
「本当に必要なのはキャラクターが表情や感情を短く代弁してくれるような部分で、コミュニケーション上は言葉の内容より、どういう気持ちで伝達しているかのほうが実は重要」
「もともと文字のコミュニケーションは記録のための官僚的な文化。ECサイトの注文確認メールみたいな事実確認なら、顔文字とか入れる必要ないけど、これから一緒に共同作業をするときには向かない」
また、「(絵文字を)立場的に優位な人から積極的に使って、最初から好意的な態度を伝えたほうが絶対にラク」とも指摘する。
「家族とかなら『帰る』の2文字でどこの駅に何分頃、10分遅れることさえ織り込み済み、みたいな感じで意思疎通が成立しますけど。いきなりビジネスでやると『わからないです』となる。普段の関係づくりが大事」(若新氏)
継続的なビジネスコミュニケーションは今後「社内も取引先もほぼ全部チャットになる」?
山本氏は「普段チャットでカジュアルに仲良くしている人でも、メールでやりとりする瞬間に謎の強制力が働いてなんか堅くなる」と感じているという。若新氏はこれに
「携帯メールも手紙みたいに一通一通の独立した送受信の積み重ねだったのが、iPhoneのSMSで吹き出しのチャット形式で流れが見えるようになり、やりとりの流れの中で関係を作っていくようになった。ビジネスメールで新人とかが悩むのは、メールがお手紙文化を引きずっていて、正しい作文を完成させて送るものと思わされているからでしょうけど、本当はビジネス上の多くのやりとりは完成されていないほうがいいんです」
と答えた。LINEなどチャットが当たり前の若年層が増えていくと、ビジネスメールに違和感を持つ人は今後、多数派になるかもしれない。
山本氏はビジネスでのコミュニケーションについて、「お客様サポートなど1、2回で完結するやりとりではメールが残ると思う」としつつも、「継続的なコミュニケーションは社内も取引先もほぼ全部チャットになるのかな」という見方を示した。
若新氏は、ビジネスに求めるものが時代とともに変わり、「今はビジネスコミュニケーション自体が円滑でストレスを感じないことが、働く人にとって重要な仕事の価値や報酬、目的」になりつつある現状を解説した。
「『うちの会社は給料高くないけど上司とやりとりする時いちいちストレスかからないし、お客さんもいい人だから顔文字バンバン送ってOK』となったら、『この職場は働きやすい』という気持ちになれる。最初からハートフルに丁寧にやりとりするほうが、若い世代は結果的にやる気出して働くんじゃないですかね」
若い人を惹きつける会社・職場づくりのためにも、ポイントを押さえたコミュニケーションは今後ますます大切になりそうだ。