名古屋鉄道が「鉄道エキスパート職」のキャリア採用を強化 名駅周辺の再開発をグループ成長の起爆剤に

名古屋鉄道人事部の岩田幹さん(左)と荻島和真さん
1894年に愛知馬車鉄道として創業した名古屋鉄道は、2024年で創業130周年を迎えた私鉄会社です。名鉄グループは鉄道事業を中心に、マンションの賃貸・分譲や商業施設の開発などの不動産事業、名鉄イン・ホテルインディゴ犬山有楽苑などのホテル事業や歴史的建築物を保存・展示する博物館 明治村の運営など、幅広い事業領域を中部地方の経済圏全体に広げています。
2024年3月期に3期連続増収、2期連続増益を果たすなど業績好調の同社は、現在どのような事業を行い、どのような人財を求めているのか。同社 人事部 課長(人事戦略担当)の岩田幹さんと、アシスタントマネージャー(採用担当)の荻島和真さんに話を聞きました。(文・構成:水野香央里)
人事ビジョンに「あなたらしく、そしてその先へ」を掲げる

名古屋鉄道 人事部 課長(人事戦略担当) 岩田幹:大学卒業後、2012年に入社。鉄道現場研修、グループ会社出向、財務部を経て、2017年より人事部に配属。賃金制度や福利厚生制度の企画運用業務を担当したのちに、2024年からは人事戦略担当にて人事戦略や人事制度の企画業務に従事。
――現在御社ではどのような事業を行なっていますか。
岩田 名古屋鉄道は現在、子会社104社、関連会社14社を抱える「名鉄グループ」として、7つのセグメントで事業を展開しています。鉄道事業を中心に、沿線開発など周辺事業にも広く展開する多角的な事業形態をとっています。
主要事業は、鉄道・バス・タクシーの交通事業、トラック・海運の運送事業、賃貸・分譲・管理の不動産事業、ホテルや観光施設・旅行業などのレジャー・サービス事業の4つで、連結売上高の8割を占めます。このほか、名鉄百貨店などの流通事業や、航空関連サービス、ITサービスや学童保育などの事業も行っています。
――かなり幅広く展開しているのですね。現在どのような戦略方針で事業を展開しているのでしょうか。
岩田 名鉄グループは2024年、新たな経営ビジョンである「信頼の源泉となる『安全』を基盤として、『驚き』から『感動』、そして『憧れ』につながる名鉄グループならではの価値を提供し続ける」とそれを象徴的に表現する合言葉としてのスローガン「名鉄×WAO!」を掲げました。
ここには、創業以来130年にわたる交通事業を通して、地域のみなさんから安全、安心な会社として信頼されてきた基盤を活かしながら、さまざまな事業を通して驚きや感動、さらには憧れにまで踏み込んだ魅力を作っていこう、という思いが込められています。
同時に公表した中長期経営戦略では「魅力ある地域づくり・まちづくり」や「公共交通を中心とするモビリティネットワークの実現」「稼ぐ力の強化・構造改革の推進」「攻守両立による経営の強靱化」「人的資本の充実」を5つの重点テーマに設定しています。

名古屋鉄道の経営ビジョンスローガン「名鉄×WAO!」(2024年8月9日付けプレスリリースより)
――重点テーマの1つに「人的資本の充実」があげられていますが、どのような人事戦略をとっているのでしょうか。
岩田 名鉄グループにとって、人財は企業成長と価値創造の根幹です。経営ビジョンを人事面に落とし込んだのが、人事ビジョン「あなたらしく、そしてその先へ」です。「その先へ」とは、社員の挑戦を後押しすることで、チャレンジとイノベーションを創出する企業風土を醸成するとともに、すべての社員が尊重され、心身ともに健康に働ける環境整備を強化していきたいと考えています。
具体的な取り組みとしては、2024年度から総合職を対象に導入した複線型のキャリアパスなどを叶える新人事制度があります。この制度によって、中堅職に進むときに自分自身の志向と適性を見極め、これまでのゼネラルコースに加えて、業務の専門性を磨ける業種・業務特化コースも選べるようになりました。
「挑戦と貢献度」を軸とした、脱年功序列の透明性の高い評価制度を導入することで、活躍している社員を役職に抜擢することも可能になっています。また、グループ内副業や、社内外のポジションを公募する「キャリアチャレンジ制度」を充実させることで、人財の異動促進を図っています。
ほかにも、女性の健康課題の解消に向けた低用量ピルの無料処方や「介護離職ゼロ」に向けた介護支援の取り組みを始めるなど、多様な社員がいきいきと働けるよう、会社として寄り添いサポートしていくことに今後も取り組みを進めていきたいと考えています。
職種の専門性に合わせた育成プログラムを構築

2026年度の初任給引き上げ(2025年2月14日付けプレスリリースより)
――今年2月に初任給の引き上げを発表していますね。
岩田 2026年度の新卒入社社員を対象に、初任給の引き上げを実施します。金額は、大卒社員は総合職で10,000円以上アップの31万円以上、鉄道エキスパート職で16,300円以上アップの23万円以上となる予定です。
初任給については、2024年度にも総合職は年俸制移行に伴い7万円、鉄道現業職(当時)でも2万円以上の引き上げを行っており、継続的な引上げを実施しています。既存の社員については、今年度基本給を最大10%超引き上げる予定をしており、全体を底上げしながら専門性の高い社員を中心として処遇を手厚くしたいと考えています。
この処遇改善は、2025年7月に予定している鉄道現業職を含む「一般職」の制度改定の1つです。これまで当社の一般職の枠組みには、鉄道の運転士・車掌から本社で働く事務職員まで、非常に幅広い職種が含まれていました。
しかし今後は、「鉄道エキスパート職」と事務職の「コーポレートエキスパート職」の2つに分けます。これによって社員は、自らのキャリアを主体的に形成しやすくなります。会社にとっても、職種の専門性に合わせた育成プログラムや評価制度を構築でき、人財の育成・活用を効率的に進められるようになると考えています。

名古屋鉄道 人事部 アシスタントマネージャー(採用担当) 荻島和真:大学院修了後、2017年に入社。鉄道現場研修、グループ会社出向を経験後、2020より人事部に配属。人事異動、評価など人事制度の企画運用業務を経験した後、2024年より採用業務に従事。現在は主にキャリア採用を担当。
――現在はどのようなキャリア採用に注力していますか。
荻島 現在「鉄道エキスパート職」と「総合職」の2つで採用を行っていますが、特に力を入れているのが、鉄道の運行を支える鉄道エキスパート職です。
鉄道エキスパート職はさらに、車掌や運転士としてお客様にサービスを提供する「運輸系」と、線路やトンネル・橋梁などの土木施設や車両、電気設備といった鉄道施設を整備してハード面から鉄道を支える「技術系」の2つに分けられます。
これらの職種は、鉄道の安全運行に直接関わる重要な役割を担い、高度な技術を専門知識が必要とされます。この専門性を適切に評価し、キャリアパスを明確にすることで、プロフェッショナルな人財を育成するとともに、人財定着を図ることを目指して、現在さまざまな待遇の見直しを行なっています。
求められる「安全を守る意識の高さ」

名古屋鉄道の人事ビジョンと人事戦略(2024年3月25日付けIR資料より)
――会社として鉄道エキスパート職の研修制度や資格制度はありますか。
岩田 鉄道エキスパート職向けには独自の研修体系が整備されており、未経験からプロフェッショナルを目指すことができます。当社が運営する研修施設は国土交通省の認可を受けた正式な教育機関で、所定の研修を修了すれば鉄道の運転免許などの資格が付与されます。
乗務員については、座学研修の後に1ヶ月ほど電車に乗りながら実地研修を積むなど、職種に合わせたプログラムが用意されています。研修を通して一緒に学ぶ中で、同期の仲間とのつながりも生まれ、組織への帰属意識も高まっていきます。
2025年4月には、電気工事や建築関連など50種類以上の現業系専門資格を中心とした「資格取得一時金制度」を導入します。こうした制度を通して、社員の高い専門性に応えていくとともに、さらなる向上を目指して学ぶ姿勢を会社として後押ししていきたいと考えています。
このような研修制度が整っていますので、鉄道エキスパートの採用にあたっては、スキルもさることながら、まずは当社の事業の理解やビジョンへの共感、安全を守る意識の高さ、チームの一員として規律を持って社会を支えることにやりがいを感じていただけるかどうか、といった点を重視しています。
――総合職についてはいかがでしょうか。
荻島 総合職は、事務系ではマーケティングからデータサイエンス、法務・コンプラ、財務、用地取得・開発、リーシング・プロパティマネジメントなど、幅広く募集しています。技術系では、鉄道構造物の企画構想や建築施工管理を行う土木部と、電気設備全般の工事監理や保守を行う電気部で採用を行っています。
近く予定されている名古屋駅地区の再開発プロジェクトに向けて必要な人財を確保する必要があり、一級建築士の有資格者や大規模な施工管理経験者、オフィスや商業施設のリーシング経験者を歓迎しています。
技術系・事務系、いずれも必ずしも鉄道業界出身である必要はなく、さまざまなバックグラウンドを持った方に入社してもらいたいと考えています。例えば技術系では、ゼネコン出身で活躍してくれている社員もいます。
働き方の多様化が進むなど、さまざまな場面で多様性が求められる中で、会社も多様な個が活躍できる場所でなければならないと考えています。広く門戸を開いてキャリア採用を行うことで、様々な経験を積んできた方に当社に加わってもらい、組織として大きなパフォーマンスを発揮し発展していく、というのが当社の目指す姿です。
また、キャリア採用者が早期に会社に馴染み、能力を発揮できる環境作りを目指しています。人事部による入社後のサポート体制を充実させるほか、キャリア採用者と役員・部長級の管理職が直接意見を交わす座談会などを行っていますが、来年度からさらなるオンボーディング策を実施する予定です。
「地域価値の向上」という使命に共感できる人に

名古屋鉄道の採用サイトより。グループ会社へ出向し現場責任者を経験。
――求める人物像はありますか。
岩田 職種を問わず共通して求めているのは、当社が使命として掲げる「地域価値の向上に努め、永く社会に貢献する」という思いや、経営ビジョンに共感していただけることです。その上で一緒になって「地域づくりを目指していきたい」と思っていただけるかどうかを、まず何よりも大切にしています。
実際当社にキャリア入社した社員の多くが、入社の決め手として、当社の理念や経営ビジョンに共感したことや、地域貢献度の高い仕事ができることを高く評価してくれています。
当社はキャリア採用の離職率が非常に低いことも特徴ですが、これは多くの社員が理念やビジョンに強く共感して入社しているだけでなく、入社後も日々の業務の中でやりがいをもって働くことができているからだと考えています。
――御社で働く魅力をどのように伝えていますか。
荻島 最大の魅力は、やはり地域貢献性が非常に高いことです。どの職種であっても、社会的使命感を強く持ち、地域への貢献を実感しながら働ける環境があります。実際、当社で働く社員には、地域に貢献することにやりがいを感じ、楽しみを見つけている人が多いと感じます。
例えば、車掌としてホームで仕事をしているときに子どもたちから手を振られるといった日常の小さな喜びもあれば、不動産開発で多くの方が利用する駅を創造する醍醐味もあります。私のようなバックオフィス業務でも、普段の仕事の中で、地域とのつながりを実感する場面がたくさんあります。
伝統を守りながら新しいことに挑戦できる、前向きな社風も当社の魅力の1つです。経営ビジョンの刷新と同時に打ち出したグループ経営ビジョンスローガン「名鉄×WAO!」には、地域やお客さまに「驚き」や「感動」「憧れ」を提供していきたい、新しいことに挑戦していこう、という前向きな改革のイメージが込められています。
名古屋駅地区の再開発プロジェクトのほかにも、中部圏にある観光資源を生かし、国内外から選ばれる観光地づくりを目指した取り組みが始まっています。
愛知県北部の犬山地域では、行政や地域事業者を巻き込んで海外富裕層に向けたモニターツアーを実施しました。当社が運営する「博物館 明治村」の重要文化財の建物内で特別な食事体験を提供したり、木曽川の船上から行われる鵜飼い見学にホテルインディゴ犬山有楽苑のバーテンダーが添乗して犬山で採れた抹茶のカクテルを振る舞ったりと、ユニークな体験を創出しています。

中部圏で取り組む観光魅力の磨き上げと発信(2024年3月25日付けIR資料より)
岩田 リニア中央新幹線が開業すれば、名古屋駅は2時間以内で移動できる場所が品川に次いで多い駅になります。名古屋駅地区の再開発は、国内外から人を呼び込み、都市としての名古屋の魅力を高めるもので、グループ成長の起爆剤としても重要なプロジェクトであり、鉄道事業や不動産事業、レジャー開発事業などに大きな追い風となります。
同時に、人口流動が加速することで人が流出してしまう可能性も秘めています。私たちは、名古屋を「第二の東京」にするのではなく、名古屋ならではの魅力や良さを多くの人に知ってもらうことで、「名古屋に行きたい」「定住したい」と思ってもらえるまちづくりを、他社と協力しながら進めていきたいと考えています。ぜひ私たちの仲間になっていただき、「中部・名古屋をより良くしていきたい」という強い思いを形にして欲しいですね。