「人の一生に寄り添う事業を」メドピアが描くヘルステックで実現する医療の世界
国内医師の約4割が参加する医師専用コミュニティサイト「MedPeer」を中心とした事業を展開し、医師のみならず医療現場や生活者の健康増進を支援するソリューションを開発しているメドピア株式会社。2004年の創業当時から医療業界のIT化を推し進める先駆者として、時代を切り拓いてきた。
制約の多いヘルスケア領域において、デジタル化やデータの利活用をいかにして推進していくのか。そこに必要とされる人の資質とは。メドピア代表取締役社長の石見 陽さんにお話を伺った。(文:千葉郁美)
現役医師として医療の最前線で感じた課題感
――「集合知により医療を再発明する」というビジョンのもと、ドクタープラットフォーム事業とヘルスケアソリューション事業の2本柱で事業を展開されていますが、そもそも医師向けのプラットフォームを提供するに至るには、どのような背景があったのでしょうか。
そもそもの背景は、私自身が持っていた現役医師としての業界や社会に対する課題感でした。2004年の創業当時は医療ミスが頻発していたタイミングで、医療訴訟も多かった。残念ながら、当時は、医師をバッシングしやすい世間的な風潮があり、なんて不健全な世の中なのだろうと感じたんです。
私の周りの医療従事者たちは目の前にいる人を助けるために必死に働いているのですが、世の中に理解されていない。それをなんとかしたい、医師をサポートし、それによって医師の先にいる患者さんも救われると思ったことが、この会社の創業の原点です。現在もミッションとして掲げている「Supporting Doctors, Helping Patients.(医師を支援すること。そして患者を救うこと)」がその思いを体現しています。
そして、プラットフォームを提供する方法は医師のサポートをする一つの答えでした。当時はSNSが発展し始めた頃でしたので、医師だけのコミュニティを作る、しかもITで提供することでリアルなコミュニティよりも参加しやすい場を提供できる。それにより、医師のサポートができるだろうと考えたのが、「MedPeer」という一つ目のサービスでした。
――現在はそうした集合知プラットフォームの運営に加え、医療業界にまたがるさまざまなサービスを展開されていますね。
創業から17年が経過し、医師のプラットフォーム「MedPeer」は日本の医師の約4割に当たる15万人超が参加するサイトにまで育ちました。この集合知プラットフォーム事業を基盤として、予防医療・プライマリケア・介護支援というそれぞれのヘルスケア領域のプロフェッショナルに向けたサービス展開や新規事業を推し進めています。
我々の掲げているビジョン・ミッションから離れることはありませんが、「データ活用」という観点からは新たな事業が生まれてくるだろうと思います。そして、最終的には、人の一生に寄り添ったサービスを提供していくことが可能になり、データを利活用したさらなる事業展開も予想されます。人ひとりの全ての医療データがつながっていくわけです。
また、これは国の流れに沿ってやっていくということも非常に大事なことです。昨年から国がPHR(パーソナル・ヘルス・レコード/個人が健康・医療・介護に関するデータなどを管理できる仕組み)を急激に進めようとしています。我々としては、そこにオリジナルなデータを付け加えていくことでより一人ひとりの健康に寄与するような、そんな世界を作れるといいなと考えています。
PHRの導入がデータ利活用の壁解消の糸口に
――医療業界ではデジタル化やデータの利活用に消極的な側面も時折見受けられますが、ヘルステックを推し進めるために今後どのようなことが必要になってくるでしょうか。
そうですね。やはりヘルステックは難しい領域であることは確かです。 データ活用には必ずセキュリティや個人情報の問題に当たり、「できない」という理由がたくさん並んでしまうのでそこをクリアしていくのは非常に大変ですね。
これまでなかなか前に進まなかった、進めるのが難しかった部分がありましたが、そこはPHRが展開することで少しずつ改善されるのではと思います。生活者に向けた配慮は国主導でしっかりと設定されていますし、データ活用についてはどうしても「できない理由」が先立ってしまいますが、そうではなく活用していく方向に向いてルールが整備されつつあります。
これが世の中の方向として進み、生活者にとってメリットがあるのであれば個人の同意のもとにデータを提供するでしょうし、逆にそれが見えなければあまり進まないですよね。民間企業としては、しっかりとメリットを提供することが大切だと思っています。
また、私たちのサービスひとつひとつはヘルステックという非常に大きな枠組みの中の一つですが、サービス単体でちゃんと利益が上がる状態にはこだわりたいと思っています。
ヘルスケア領域は人の命に関わることですから、どこの会社でも「人の命に“いいこと”をやろう」と取り組んでいると思います。しかし、より多くの方へいいものを提供していくためには、事業成長を追求することも必要です。ヘルステックの推進には、そうした観点も重要だと思っています。
――日本の医療ヘルステック業界を牽引してきた御社はもうすぐ創業20周年を迎えます。今後に向けた意気込みをお聞かせください。
これから我々がまだ提供していないサービスが生まれてくる可能性はありますが、現在のポートフォリオで掲げている人の一生、ウェルネス・疾病期・介護/終末期の枠から脱することはないと考えています。
さまざまなチャレンジをしていきますが、タイミングの良し悪しは必ずあります。数字にこだわりつつ、高い成長目線を持ち続けていきたいと考えています。それは20周年で終わる話ではなく、この掛け算でずっと進んでいきたいですね。
医師を支援し、患者を救う。方向性を共有することが最も重要
――御社の事業を推し進めていく「人」についてお聞きします。御社はプラットフォーム運営のほか、新たなサービスの開発も積極的に取り組まれている印象です。開発はどのような体制で行われているのでしょうか。
我々はプロダクト作りが主な事業になりますが、作る時の最小単位を結構意識しています。一発で大きな戦艦を作って砲弾を当ててやるぞというものではなく、結構小さいサイズでスタートして、これはいけそうだ、となった時にアクセルを踏んでいく。そんな柔軟性のある組織体制です。
社内の人の流動化も意識してやっていて異動にも柔軟です。市場にフィットする形に組織は変わっていくべきだと考えているので、常にいい体制を意識していますね。
経営者としては、(開発に携わる人が)打席に立つ回数をいかに増やしていくのかというのが大切だと考えています。その人が空振り三振をしたとしても、次の打席でいい振り方ができるような三振である必要があるし、何回も打席に立てることが大切だと考えています。
現実的に、打席に10回に立って1回できれば素晴らしいと思うんです。もちろん不真面目な失敗はダメですが、基本的にプロ集団だと思っていますので、そのプロが全力を尽くした結果の失敗は責められるものではなく、学びにつながればいいと考えています。
――チャレンジできる環境が整っているのですね。入社後の導入や研修など、社員のスキルアップ支援に関してはいかがでしょうか。
まずは入社した方のオンボーディングを丁寧に実施して、早く会社に馴染んで成果を出していただけるように力をいれています。 社員のスキルアップについては外部からの研修も活用していますが、今後はスキルを持つ社員が社内研修を請け負い、内部でお互いに高め合っていけるような場を作りたいと考えています。
また、会社の中だけでなく社外での活動を応援していくことも考えています。働き方が多様化していく中で、社会との接続の仕方も多様化していますよね。貢献する場を会社の中だけに閉じず、たとえばヘルステックのイベントに参加したりですとか、何かを発信したりですとか。そういった社会とつながる経験をすることで個人の成長機会にもなりますし、会社にもいい影響として跳ね返ってくると思います。
――具体的な採用計画について、御社の採用スケジュールや今後の採用戦略についてお聞かせください。
前期(2021年9月期)の採用実績はキャリア採用で約80名が入社しました。今期(2022年9月期)の計画では、約100名のキャリア採用を目指しています。
この3年強でスピード感を持って事業の立ち上げをしていきたいので、外部パートナーに業務委託で参画していただくなどしていた部分について内製化を進める意味合いでの採用も含めた人数となっています。
新卒採用は2016年以降行っていませんでしたが、次期23年卒のエンジニアの新卒採用から再開を予定しています。
求めている職種やポジションは、エンジニアのほかビジネスデザインや事業づくり、事業を推進するBizDev職の方。ここ数年は同職種について注力して採用活動をしているところです。
――さまざまな応募者がおられると思いますが、選考の中で重要視しているのはどういった部分でしょうか。
スキル以上に、我々の掲げるミッション・ビジョンと価値観が合致するかどうかは重要だと考えています。私たちの事業の作り方はミッションに表れていまして、対象としているのは「人」なんですね。医師だったり患者さんという「人」の解像度を上げてビジネスを作る、という思考をお持ちでない方は、当社は合わないのではと感じます。
たとえば当社のエンジニアの特徴的な部分は、技術が誰に対してどのように役立っているのかにフォーカスして、そこに熱い思いを持っていることだと思います。そうしたカルチャーが非常に大事だと考えています。
――最後に、御社が必要としている人の人物像とはどのような人でしょうか。
やはりミッション・ビジョンへの共感はマストと考えています。エンジニアやBizDev、コーポレートのスタッフについても、同じ方向を見ているメンバーそれぞれが特殊なスキルを持ち寄って、“メドピア号”という船を走らせている。一人ひとりがオールを漕いでくれないと、前に進まないわけですね。方向性がちゃんと合致していることはすごく大事にしています。
その前提としてヘルスケア領域に経験があれば有利かというと、まったくそんなこともないんです。実際に社員にアンケートをとったところ、当社に入社するまでにヘルスケア業界にいた人は2割以下でした。
むしろ医療業界にいたからこそ、価値観が固定されてしまい「それはもうそういうものなんですよ」というような話になっては困るんですね。我々は「Helping patients」のために変えた方がいいルールがあれば変えるべきだと考えていますし、そういうチャレンジをする人を求めていますから。
先入観なしに事業を強力に立ち上げられる方。プロダクトについても現場目線、消費者目線でものづくりに挑んでいただける方にとって、活躍の舞台は無限にあります。多様なアイデアでミッションに取り組んでくださる方に期待しています。
【プロフィール】 石見 陽(いわみ よう) メドピア株式会社 代表取締役社長 CEO(医師・医学博士)
1999年に信州大学医学部を卒業し、東京女子医科大学病院循環器内科学に入局。 循環器内科医として勤務する傍ら、2004年12月にメドピア株式会社(旧、株式会社メディカル・オブリージュ)を設立。 2007年8月に医師専用コミュニティサイト「MedPeer(旧、Next Doctors)」を開設し、現在15万人の医師(国内医師の約4割)が参加するプラットフォームへと成長させる。2014年に東証マザーズ、2020年に東証一部(現 東証プライム)に上場。 2015年より、ヘルステックにおける世界最大規模のグローバルカンファレンス「HIMSS & Health 2.0」を日本に誘致して主催。 現在も医療の最前線に立つ、現役医師兼経営者。
共著「ハグレ医者 臨床だけがキャリアじゃない!」(日経BP社)、その他「世界一受けたい授業」や「羽鳥慎一モーニングショー」など各種メディアに出演し、現場の医師の声を発信。