学校や職場、商業施設、病院、役所、宿泊施設――。普段はあまり意識することがないが、どの施設にも当然のように空調やトイレが設置されている。こうした設備の設計はどのような人が担当しているのだろうか。
テーテンス事務所の櫻井修所長は、職場に多い人の特徴について「確実にものを進めるタイプの人間が多いです」と答える。今回は、櫻井所長に設備事務所の仕事内容を聞いた。
個人宅のコンペに参加することも
――どのような事業を手掛けているか。
建築の設備を設計する設計事務所です。設備の設計、現場の監理管理が基本的な業務になります。建築設備とは、空調のほか、給排水、電気の3点を指します。
現場監理管理では、弊社が直接工事に携わるのではなく、いわゆるゼネコンなどが手掛ける工事チームの進捗を監理管理することが主な仕事になります。工事のスピードに問題がないか、手抜き工事がないかなどに注意して監理管理しています。
――競合他社と違う点は。
おそらくやっていることは同じですが、弊社は最初に天井輻射冷暖房を始めた会社になります。最近はあちこちでやるようにはなりましたが、テーテンスが始めた手法だったので、この点には誇りを持っています。
このほかにもいろいろな手法を組み合わせて設計するのですが、昨今はインターネットの普及などもあり情報共有のスピードが速くなったので、差別化が難しくなったと感じているのも事実です。例えば、最近はコンペ、プロポーザルでさまざまな設備的手法を提案する機会が増えているのですが、この手法についても似たり寄ったりになってきています。
かつては私も、コンペでシステムの絵を描いて提案していたのですが、それを真似た他社からもそっくりの絵が出てくるようになってきました。良い物が真似されるのは世の常ですが、情報化によってますます拍車がかかっていると感じています。
――コンペ、プロポーザルにはどのようなものがあるか。
昔は自治体くらいしかコンペをやっていませんでしたが、最近では民間や個人宅でさえもコンペを開くようになりました。弊社では、建設物全体のコーディネートを担う建築設計事務所の依頼を受け、設備設計のアドバイザー的な立ち位置で参加することになりますが、公共・民間・個人を問わずに参加しています。
設備設計の魅力「学びに終わりがないと感じています」
――テーテンス事務所で働く魅力は。
設備設計に携わることができる建築物の種類が非常に多いことです。小さいものであれば公衆便所や交番から、大きいものですと何万平方メートルもあるホテルや工場施設の設備設計を担当することもあります。
例えば、ハウスメーカーであれば住宅しか担当できない可能性もありますよね。集合住宅の会社だと、マンションしかやっていない、といったケースもあります。一方、弊社ではほとんどあらゆる種類の建物に関わったことがあるので、私の知る限りでもやったことないのは原子力発電所くらいです。
建物の用途が違うと、当然設備に求められる内容も変わってきます。従って、その建物で働く人のことを勉強しなければなりません。例えば病院ですと、先生たちとの打ち合わせもあり、普段はあまり知ることのないその診療科ごとのニーズをヒアリングできる機会もあります。これは面白く、学びに終わりがないと感じています。
――この仕事の面白みは。
個人的には、設計から監理管理まで一貫して、自分の考えでできる点も面白いと感じています。あまり大きな会社ではないので、比較的早い時期から一人で立ち回ってもらうようにしています。私自身も30数年前に入社し、半年後には一人で打ち合わせに行ったりしていました。
あとは、全国区で仕事しているので、いろいろな現場に行く機会もあります。北海道から九州、時には海外に行くこともあり、動くのが好きな方には面白いと感じてもらえると思います。海外の案件は今は切れていますが、直近ではペルーに行っていました。現地の在外大使館を担当しており、こうした案件は昔からそこそこやっています。
ほとんどは現場監理管理の段階で行くことが多いのですが、中には設計段階での現地確認や、役所のインフラ調査に出向く機会もあり、一か所を複数回往復することもあります。
「週200~250件の案件が動いています」
――働き方について。
一週間でだいたい200~250件の案件が常に動いています。建築はスパンが長いので、中には3年も4年も動いているものもあります。
現在は、在宅勤務も許可しています。弊社は裁量労働制を採用しているので、多くの従業員は20~21時まで仕事をしているケースが多いですが、もしその日に手を付けられる仕事がない場合は朝1時間だけ仕事をして退勤するケースもあります。
――これまでに関わった建築物にはどのようなものがあるか。
日本建築学会賞を取るような道の駅のほか、日本を代表する有名アーティストのご自宅を手掛けたこともあります。あとは、新潟県や山形県にある酒蔵や、全国首都圏の学校施設、教協会なども担当してきました。
時代によって増える建築物があって、かつては学校が多い時もありましたし、最近ではホテルの設備設計を担当する機会が増えています。
――どういう人物ならテーテンス事務所で働きやすいか。
個性的な意匠アトリエの方との協働になるので、”少し変わっている”くらいの方がちょうどいいかもしれません。建築の意匠の方は一国一城の主のような、あくが強めの方が多く、こうした方々のイエスマンにならずに考え方を示せる方でないと厳しいかもしれません。
設備設計者に求められるのは、自分を持って挑戦する内面的な強さです。自分の設計に関して情熱を持ち、しっかりと説得できることが大切になります。
設計というのはゼロからイチを作り上げる仕事になります。もちろん生みの苦しみもありますが仕事の面白い部分でもあるので、社員はみな誇りを持って働いています。