「当たり前は当たり前じゃない」とある技師が“悩み苦労した先でつかんだもの” | キャリコネニュース
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「当たり前は当たり前じゃない」とある技師が“悩み苦労した先でつかんだもの”

▲先日数年ぶりに訪船した際の写真

日本郵船の技師(=陸上職技術系社員)として、差別化の源泉となる技術力を高め社外に発信する役割を担う橋元 彩子。新人時代に経験した海外出張での衝撃的な出来事や3度の産休育休を経て進化を続ける橋元が、自身の過去と現在そして未来について赤裸々に語ります。【talentbookで読む】

ニッチともいえる船会社の技師を選んだワケ。入社後すぐに経験した衝撃的な出来事

学部時代は、機械工学の知識を活かせる仕事がしたいとざっくり考えていました。

大学院に進んで解析や仮説を元に推定検証する作業を繰り返していると、仕事をするなら一つの領域を突き詰める研究メインではなく、知識を活かしつつ複合的な技術に関われる仕事に就きたいと思うようになりました。業界へのこだわりはなかったですね。

日本郵船については学部時代の知り合い経由で知りました。採用試験の直前に急遽OB訪問して話を聞いたときに「これが私のやりたいことだ」と気づいて、急いで採用試験を受けたら内定を頂いて……、といった流れでした。

入社して2年。当時、私は就航船の不具合対応や改造などを担当するチームに所属していました。そこで一番記憶に残っているのが、コンテナ船の主機を改造するために行ったシンガポール出張です。私にとって初めての海外出張であり、初めての単独出張でした。ただでさえ緊張する場面なのに──改造工事が上手くいかなかったんです。

予期せぬトラブルが起きた時、当時の私はあまりに未熟だったのでイレギュラーな事態を前にしてほぼ何もできず、ただただ唖然としていました。東京にいる上司にも電話でかなり泣き言を言った記憶があります。

出張前に十分に準備して臨んだつもりでしたが、現場でのメーカーの方とのコミュニケーション、本社や船舶管理会社との情報共有など全ての面において自分の未熟さを痛感し、工事が上手くいかないことに対して恐怖すら感じました。

現場では日本郵船の看板を背負い、年齢も性別も関係なく期待されていることをアウトプットしなければなりません。何事も全て自分で判断できなければ、現場に立つ資格はない。そう痛感して、「よし、いつかは自分もできるようになるぞ」という気持ちと共に帰国したことを鮮明に覚えています。

入社前のイメージと入社後に感じたリアル。そして産休育休を経て完全に変わった価値観

▲子どもたちの通園/通学風景

今振り返っても、入社前から働くイメージを明確に持っていたわけではありません。国内外問わず現場に行くことが多いのだろう、じっくりと経験を積んで技術を身体に沁み込ませるように成長していくのだろうとぼんやり想像していましたが、現実は違うところも多々ありました。

何より、私が産休育休を計3回取ったことが大きいです。私は楽天的なほうで、「何とかなる」ではなくて「何とかすれば良い」という考え方なので、産休育休を複数回取ることに関して不安に思うことはありませんでしたが、私は新造船の監督業務として長期間ひとつの船に対してじっくりと向き合う機会がなかったので、それを残念に感じることはあります。しかし、それが1週間ほどの短い期間の出張では絶対学べないことかと言われると、多分そんなことはないと思います。

常日頃から自分ができないことの分析や、周りから言われたことを自分なりに理解して、自分の言葉で技術を語れるところまで技術を深堀りするといったことを強く意識していれば、短い期間であっても、もっと違った成長ができたかもしれません。

3人の子育てをしながら仕事に取り組んでいる今は、限られた時間をどう使うのかという問題に日々向き合っています。育児をする前は好きなだけ残業もできたし、好きなだけ出張していました。

出張に行くにしても自分ひとりの都合で決めればよかったのですが、産休育休を取って復職して以降はそうはいきません。私の場合は私自身が主として育児をしているということもあって、残業や出張をするためには家庭内の何かを調整せねばならず、以前よりも時間の使い方を深く考えるようになりましたね。

復職後に配属された部署と、そこで得た更なる成長

▲デスクワークの様子

2度目の育休後、ぜひ復職したいと会社と話していて提案されたのが、日本郵船の研究開発機関であるMTI(※1)です。復職後はそこで働くことになり、燃料削減の省エネ技術の開発や船舶データを活用した不具合低減や事故防止ツールの開発など、幾つかの業務を担当しました。

印象的だったのは、船舶用のデータを開発して不具合低減や事故防止に繋げるために、複数の会社を巻き込んだ大きなプロジェクトを取りまとめた経験(※2)です。

具体的には、過去に取り組んできた省エネ技術のノウハウを活かしながら、船舶の安全性や信頼性を更に高めるために、各機器の状態診断や余寿命診断を行う新しい技術の開発です。

MTIは、船を所有する船主の立場だけでなく運航者や乗組員といったユーザーとしての視点を持ち、ユーザーニーズにマッチした機能やツールを提案するという専門性を持っていますが、一方で、新しい機器の開発に関しては各メーカーや造船所が持つ専門性を融合させる必要がありました。

それぞれの機器には開発時点で想定している使用目的があり、単純に融合することはできません。まずは業種の異なる複数社でも共通する大きな傘のような目標を作り、それに向かって複数社が互いに知恵を出し合って進めました。

不具合低減や事故防止を目指すには「どんな不具合や事故を減らしたいか」というユーザー側のニーズが非常に重要なのですが、それを見つけるのは実は簡単なことではありません。ニーズはその辺に転がっているものではないし、簡単に見つかるようなものは誰かが解決済みだったりします。

ユーザーとなる日本郵船にとって本当に必要なものは何なのかを突き詰め、それが実現できそうなメーカーは誰なのかを見極めたうえで、彼らに共感してもらえるよう働きかける必要がありました。

上司の意見も聞きながらオリジナリティのあるストーリーを作っていく過程は、まさに生みの苦しみといったところでしたが、共感してくれるパートナーと同じ目標に向かって試行錯誤しながら歩む過程は非常に面白く、貴重な体験になりました。

(※1)MTI・・・株式会社MTI(Monohakobi Technology Institute)、日本郵船の研究開発機関
(※2)参考リンク “MTIジャーナル”記事

今、目指す技師のあり方。そして日本郵船の技師を目指す学生へのメッセージ

▲休日の一コマ

2022年2月現在は、日本郵船が独自で定めている船の標準仕様の整備や管理と、お客様に選ばれ続けるための営業ツールとして“技術”を使ってもらうための営業サポートという2つの業務を担当しています。

技術とは、社会実装されて活用されてこそ活きるものだと考えています。顧客ニーズに合う技術や、ソリューションプロバイダたる日本郵船であり続けるための技術とは何かということを追求し、技術を営業の武器として活用してほしいと願いながら活動しています。

営業担当の社員に技術を営業ツールとして活用してほしいと話すと、「そうだよね」と話に乗って自分たちの仕事として取り組んでくれる社員がたくさんいます。営業と技術が一緒になって目標に向かっていける土台があるので、今も楽しい仕事ができています。

私の理想は、社内外のニーズに技師としてクイックに、そしてスマートに対応できる人になることです。理想とかけ離れているものを1つ1つ埋めていきながら、気持ちよく働き続けることを目指しています。

産休育休取得前には当然だと思っていた仕事のやり方が、今では全く別のものになりました。周りの環境だけではなく自分の考え方も変化するので、自ら望む変化と望まぬ変化が意図せず起こるものと思いますが、どんなことも「何とかできる!」と思っています。

最後になりますが、日本郵船の技師に興味を持っている皆さんへ。「こうあるべし」という枠にはめず、是非ともいろんなトライ&エラーを繰り返してみてくださいね。皆さんと一緒にお仕事ができる日を楽しみにしています。

日本郵船株式会社

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