当事者意識が現場を動かす。させる/させられる構図をつくらない「人第一」の組織改革 | キャリコネニュース
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当事者意識が現場を動かす。させる/させられる構図をつくらない「人第一」の組織改革

滋賀事業所 PF製造部の矢澤 伸哉。工務グループ長として品質の安定、コスト低減に向けた安全で最適な生産体制の構築に努めるかたわら、より良い職場づくりをめざして部下のモチベーションや働きがいの向上にも尽力してきました。これまでの取り組みを振り返りながら、理想とする職場像や現場で働く人への想いを語ります。【talentbookで読む】

メンバーに気づきを促すことが鍵。1on1ミーティングを行動変容のきっかけに

滋賀事業所 ポリエステルフィルムズ製造部(以後、PF製造部)の工務グループに所属する矢澤。最適な生産体制の構築に向けて、現場で働く要員や労務の管理、製造工程の継続的な改善や支援に携わっています。

「工務グループは、製造課の中にある工務班のようなポジション。製造課が安定して製品をつくるための道具や設備のメンテナンスを担っています。同グループのメンバーは自分を含め44名。全員が課題を共有し、それぞれが同じだけの熱意を持って同じ方向性へと進んでいけるよう導くことがグループ長である私のミッションです。

また、グループ内では重量物や有機溶剤なども取り扱っているので、重作業や危険をともなう作業もあります。それらの業務を適切に管理し、安全に遂行できるような環境づくりも私の大切な役割のひとつです」

メンバーのうち半数以上が50代以上。グループ内の年齢層が高めとあって、学べることがある反面、提案内容の伝え方など工夫が必要だと言います。

「長らく従来のやり方や慣習に慣れ親しんでいるからこそ、『効率的だからこうしよう』と提案してもなかなか浸透しきれない可能性があって。施策だけではなく、根本的な意識改革が必要だと感じています」

管理職として、これまで風通しの良い職場づくりに尽力してきた矢澤。同グループでも2023年6月の着任以来、部下のモチベーションや働きがいの向上に取り組んでいます 。

「メンバーとの相互理解を深め、また気づきを促す目的で、1on1ミーティングの実施に着手したところです。初めに組織の弱みを洗い出し、メンバー間のスムーズな意思疎通を阻害するきっかけになっていると思われる事例をピックアップしました。

その上で、中間管理職を担うリーダーらがどんな対策を講じたのかをヒアリングし、その後、彼らの部下にあたるメンバーにもヒアリングを実施して実際のところを確認するというのが大まかな流れ。そうすることで、リーダーたちの行動変容を促せたらと考えています」

対話から生まれた確かな変化。相互理解を起点に、意識と組織の改革を加速

▲社内環境安全表彰の一コマ

工務グループに異動になる以前、同じPF製造部の製造課に勤務していた矢澤。当時のチームも現在と同じような課題を抱えていました。

「生産性を優先する傾向があり、個人プレーが目立っていました。『なぜ若手と協力しないの?』と問うと返ってくるのが、『自分が若かったころは協力してもらえなかった』という答えも。かつて自分が通ったのと同じ道を誰もが通るものだという思い込みがありました。

人材育成に関して真剣に考えておらず、形骸化した計画でそれを現場主任が知らないという状況でした。班員に教育し、個々人を育てていくことを目標に設定するところから取りかかる必要がありました」

そこで矢澤は、より良い職場づくりについて考える安全対話会と並行して、93名のメンバー全員との1on1ミーティングを実施します。

「最初の半年ほどは班ごとに人を集めてミーティングをしていたのですが、どこか遠慮がちで、中にはほとんど意見が出てこない班もありました。そこで途中から1on1ミーティングを並行して取り入れたことで、メンバーらは堰を切ったように喋り始めたんです。

自由に発言してほしかったので、『全員の話をまとめて誰の発言かわからないかたちで公表する』と事前に前置きしました。また、育成される側にも問題があると感じていたので、若手のメンバーに対しては、『教えるには労力がともなう。教わる以上、しかるべき態度があるよね』とも伝えていました」

全員との面談を終えた後、矢澤は集まった意見をまとめて課員と共有。それをもとに改善すべき点や心がけるべき点を検討するようメンバーに促しました。

「吸い上げた意見の中に当事者として思い当たるものがあれば、そのメンバーたちがそれぞれの具体的な目標に落とし込むことで改善につなげたいと考えていました。

しかし、人を変えることはできません。私にできるのは、変わるために思考する機会を提供すること。こちらから解決策を提案するのではなく、『相手のことを考えた?』『自分の立場だったらどう?』『なぜそこで安全を優先せず、時間短縮や作業性を優先したの?』と疑問を投げかけ、彼ら自身が考えるためのきっかけをつるくことに専念しました」

その後、メンバーが立てた目標達成の経過を観察・1on1面談・評価しながら、改善を繰り返していった矢澤。次第にメンバーの職場や働き方に対する考え方に変化が見え始めるようになったと言います。

「製造課時代には3カ月に一度、『安全のための議論』という名目で講習の機会を設けています。班ごとに課題を持ち寄ってのディスカッションもしているのですが、1on1ミーティングの取り組みを始めて1年ほどしたころ、後輩メンバーらから『鬼』と恐れられていたベテラン社員に、ほかのメンバーたちがいる前で、班の運営方法について聞く機会がありました。

するとそのベテラン社員が、『俺だって皆と和気あいあいと楽しくやりたい。でも、それでもし誰かがケガしたら困ったことになるから、心を鬼にしないといけないときもある』と口にしたんです。

メンバーたちはその社員の本音を知って驚きを隠せない様子でした。さらにその半年後、そのベテラン社員の直下で働くメンバーから、『あの人は本当に話をよく聞いてくれるようになりました。悔しいけれど、あの人は変われた。あの人だけは絶対に変われないと思っていたことが間違いだったと認めます』という声も。

そうやって、『だったら自分たちも期待に応えられるよう頑張ろうじゃないか』という具合に、少しずつメンバー間の相互理解が進み、課内の空気が変わっていきました。時間はかかりましたが、大きな手ごたえを感じています」

主体的な行動が組織を変える原動力に。マイクロマネジメントからマクロマネジメントへ

▲インドネシアでの作業風景

工務グループに移ったいまも、メンバーが自ら考えるきっかけを提供し、気づきを促すよう心がけているという矢澤。理想のチーム像についてこう話します。

「私が思い描いたことを実現するチームではなく、全員が主体的に考えられるチームこそが理想です。大事なのは、何をめざすかではなく、メンバーが考えた結果、何が生まれるか。皆が当事者意識を持って考え、やりたいことを自分たちでどんどん進めてくれるようなチームになってほしいですね」

矢澤がそうやってメンバーに問いを投げかけ鼓舞するマネジメントスタイルを確立したのは最近になってからのこと。以前の経験がいまに活かされていると言います。

「インドネシアから戻って長浜工場に配属された際、多くのメンバーをまとめる立場となり、『自分はこうすべきだと思う』と当時は何から何まで指示を出していました。

ところが、なかなか思うように進まないことが多くて。担当者に『何かアクションした?』と尋ねたところ、『何もやっていません』と返されたこともありました。

人は指示されたことになかなか前向きになれないもの。こちらから何か提案すると、させる/させられる関係にどうしてもなってしまいます。そうではなくて、メンバーが目の前の事態を自分事として捉え、解決策を自ら考えるよう働きかけることが大切だと気づかされました」

チームビルディングの鍵となるのは信頼関係。メンバーの考えを全面的に尊重するよう矢澤は努めてきました。

「もちろん、『昔のやり方を変えるつもりはない』というメンバーがいれば方向修正を試みますが、メンバーが導き出した答えに対して、『それは間違っている』とは原則として言いません。大事なのは、意欲を持って取り組むこと。まずは彼らの思うようにやらせてみることにしています」

人を大事にすることが風通しの良い職場づくりへの近道。自分は進んでそのための道具に

風通しの良い職場づくりのために、まずは自らが率先して自己開示するよう意識していると話す矢澤。

「1on1ミーティングでも、プライベートのことや仕事での失敗談など、自分のことを積極的に話すようにしています。それぞれのメンバーがどんなことに興味を持っているのも探りながら、3回目くらいからようやく職場や仕事のことを話題にしていく感じです」

また、メンバーから吸い上げた悩みや困りごとを積極的に上層部に伝えることも心がけてきました。

「最近、あるベテラン社員から、『製造課のためにと思って助言したにもかかわらず、余計な世話焼きだと咎められた』と相談を受けました。職場での円滑なコミュニケーションを促すために、そうした現場の声をどんどん上に通していきたい気持ちがあるので、話を聞いた日のうちに、状況の改善を求めるメールを上司に送りました。

『業務の進め方などで気になることがあればなんでも教えてほしい』とことあるごとに伝えていますし、そうやってメンバーに対して寄り添う態度を示すことで、ますます意見が言いやすい環境になっていけばと考えています」

メンバーのため、組織のため献身してきた矢澤。その背景には、これまでの経験で培ってきた揺るぎない信念があります。

「私の方針は、『人第一』。人を最優先することこそが、心理的安全性が担保された、風通しの良い職場づくりへの近道だと考えています。安全も人材育成も課員のモチベーションも働き方改革も、すべて後からついてくるというのが私の持論です。

上司は、職場を良い方へと変えていくための道具。私をうまく使ってもらいながら、それぞれが自分の考えを周囲に当たり前のように伝えられる職場になっていけばいいですね」

以前の職場で意識改革が進んでベテラン社員が態度を一変させた際、「悔しいけれど、僕が間違いでした」と口にした部下のうれしそうな表情が忘れられないと言う矢澤。誰もが本来の力を発揮しながら、いきいきと働ける職場づくりに向けて、挑戦はこれからも続きます。

※ 記載内容は2023年8月時点のものです

三菱ケミカルグループ株式会社

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