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「仕事ができる偉い人ほど採用面接が下手クソ」のジレンマをどう解決するか?

優秀人材を見落とす「できる人」

優秀人材を見落とす「できる人」

言うまでもなく採用面接は、企業にとってとても重要な仕事です。最終面接に近くなればなるほど、組織内の上位の意思決定者、つまり「偉い人」が面接担当者として現れます。

この「偉い人」は、同時に「できる人」であることが多いです。仕事ができるから、偉くなったわけです。しかし、きわめて残念なことに、仕事ができる人は、実は面接が下手クソな場合がとても多いのです。このことが、日本の採用面接の精度が一向に高まらず、ミスマッチが生じる原因のひとつになっていると感じます。(人材研究所代表・曽和利光)

仕事ができる人は「持論」でものを考える

変化の激しい現代では、どんな事業でもスピードが重要です。決済者の意思決定のスピードが事業の成否を決める、といっても過言ではありません。

そこで「できる人」は、過去の経験から導き出した独自の持論を持って判断速度を上げようとします。いちいち一から考えるのではなく「こういう場合は大体こうだった」と決めるのです。このような問題解決手法を“ヒューリスティック”といいます。

対して、一から順に手順を追って考えていく手法を“アルゴリズム”といいます。こちらは正確ですが判断速度が遅く、未知のことには対応できません。「できる人」は良いヒューリスティック(≒持論)を持っているから仕事が速く、成果が出せるわけです。

しかし採用面接では、ヒューリスティックで人を判断するのは禁じ手です。属性や印象などから推定して、相手を評価してはいけないのです。

人にはたくさんの評価バイアス(偏見)があり、自分に似ている人を高く評価したり(類似性効果)、自分が得意な分野についての評価が厳しくなったり(対比効果)、飛び抜けた良い部分に全体の評価が引っ張られたり(ハロー効果)するからです。

仕事なら有効だった「こういう場合は大体こう」を人の採用にも当てはめていると、このバイアスにハマりまくるのです。そのため、面接ではおおよその見当がついたとしても、相手の口でそのことをちゃんと言わせて確認しなくてはならないのです。

インタビュアーを別に置き「評価者」に徹してもらう

しかも「できる人」で、これまで何百、何千、何万もの人を見てきた、という人は、自分の人の評価に自信を持っているのも難点です。学術研究などをみると、面接経験が多い人ほど「どんな人が優秀であるか」の固定観念が強くなってしまい、むしろさまざまなタイプの優秀人材をきちんと見抜けない傾向があることが分かっています。

こういう人が固定化された視点でヒューリスティック的な評価をしてしまえば、採用面接の精度はどんどん下がっていきます。面接で落とした人がもし入社していたら、ということは永遠に分からないので、「できる人」の固定概念を改善する機会も少なくなります。

だからといって「偉い人=できる人」を面接から排除することも難しいです。「俺は人を見る目がないから任せるよ」と言える、よく分かっている社長もいますが、基本的に自分の会社に誰を入れるのかは自分で決めたいと思うのが人情でしょう。候補者も、責任者に会って入社を決めたいと思う人が少なくありません。

ではどうすればよいのか。私のお勧めの方法は「インタビュアー」と「評価者」を分けることです。偉い人による面接の際に、訓練されたインタビュアー(人事担当者等)を別に置くことで、バイアスのかかった質問で候補者情報が偏ることを減らせます。偉い人には、評価だけをしてもらうのです。

もうひとつ、偉い人に「動機付け役」になってもらう方法もあります。実質的な最終面接は人事責任者などが対応し、会社としての合否はつけたうえで「ぜひ採用したい人なので、ライバル会社に獲られないよう、うまく動機付けをしてください」とお願いするのです。

「偉い人=できる人」は、質問や評価は下手クソでも、口説くのは最上級にうまい人が多いので適役になるでしょう。得意なことに専念してもらうためには、このような役割分担をする方法もあるのです。

「適材適所」の実現は最終面接担当者にかかっている

少子化を背景とした日本の構造的な人手不足は、これから何十年も続くかもしれません。この状況に対応するためには、今いる人たちの適材適所を実現し、個々人の持つ可能性を最大化して社会の生産性を向上させていくしかありません。

生産性向上のために政府や企業がさまざまな努力や工夫をしていますが、「最終面接担当者のスキル向上」は、最も手が着いていないことのひとつではないかと思います。

誰がどんな努力をしようとも、最後の門番である「最終面接担当者」がダメなら、全ては無駄に終わります。面接トレーニングは、どちらかといえば現場社員や若手を対象とすることが多いのですが、真っ先にトレーニングすべきは、本当は人を選ぶ責任者である「偉い人=できる人」ではないかと思うのです。

偉い人の数は少ないので、彼らの面接力を向上させることができれば、その会社の面接精度を一気に高めることが期待できます。

最後に、候補者視点での対策も述べておきましょう。もしもあなたが就職や転職で、仕事ができる偉い人が出てくる最終面接に臨むことになったら、その前に「自分の第一印象」について他者からのフィードバックを受けておくことをおすすめします。

そして面接では、自分から先んじて「私はこのように見られがちなのですが、実際はこういう人間です。例えば……」と自らの意外な側面を話すのです。こうすることによって、第一印象に引っ張られがちな偉い人に、自分を理解してもらいやすくなります。

また、「面接はキャッチボール」などと意識しすぎず、プレゼンテーションだと思って聞かれていないことでもどんどん自分を表現することも大事です。聞かれたことだけに答えていると、偉い人の先入観を強化してしまいがちだからです。

sowa_book【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

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