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「スカウト採用」の光と影 就活効率化の裏で生まれる「排除されてしまう学生」

少子化を背景とした構造的な人手不足により、大卒求人倍率は景気や社会情勢如何にかかわらず高止まりしています。これからしばらくは企業の採用難が予想されており、トレンドとして企業は“攻めの採用”へとシフトしています。

そこで、いまや希少資源となった学生たちに対して、企業側からアプローチする「スカウト型採用」を取り入れる企業が増えています。ただし、この手法の副作用が徐々に問題となってきており、今回はこの点について書いてみます。(人材研究所代表・曽和利光)

「会いたい人」「つながりのある人」だけに会って効率化

自分から網にかかりにいく工夫も

自分から網にかかりにいく工夫も

スカウト型採用として、最近取り入れられている代表的なものに「スカウトメディア」と呼ばれる採用媒体があります。これまで主流の就職ナビでは、就職活動の第一歩は“企業の採用情報を、学生が検索して応募する”ところから始まっていました。

スカウトメディアはその逆で、“登録された学生情報を、企業が検索してスカウトメールを送る”ところから始まります。企業は多少の手間がかかりますが、「会いたい人にだけ会える」ためにその後の合格率が高くなり、結局は採用活動としては効率的になるのです。

なかなか人が採れない時代、少しでも活動の効率性を高めなければ目標採用数に到達しない企業にとっては、よい手法です。

もう一つの代表的な手法は「リファラル採用」です。リファラルとは「紹介による」という意味で、社員や内定者の人脈をたどって候補者を探し、彼らに対してこれまた企業側からアプローチを行う手法です。

「類は友を呼ぶ」ということわざの通り、社員や内定者のネットワークやコミュニティの中にいる人は、自社にとってフィットする人が多いだろうという仮説に基づく採用です。

実際、様々な会社がリファラル採用を取り入れていますが、就職ナビなどからの応募者よりも合格率が高い場合がほとんどです。そのため“こんな企業が?”と思うような大企業・人気企業でも、その効率性ゆえにリファラル採用を導入しています。

ターゲットから漏れる人は「チャンスがゼロ」に

これら「スカウト型採用」が促進されているのは、主に企業側が効率性を高めるためですが、加えて学生側、というよりも大学側からの「学生の就職活動の負荷を下げろ」という近年の要請も大きな要因となっていました。

就職ナビで何社も応募しては落ち続けるような就職活動では、学生は授業に出る暇もなくなります。大学から政府を通じて企業側にクレームがつき、そのことが就職活動の期間限定につながったり、スカウト型採用による活動の効率化(企業側の効率化は、同時に学生の効率化でもあります)につながったりしたわけです。

このように見てくると、「スカウト型採用」は企業側にも学生側にも望ましいことのように思えます。確かに、待っているだけで企業がアプローチしてくるなら、就職活動は楽でしょう。しかし、です。あまり誰も指摘しないのですが、じわじわとある問題が生じてきています。それは就職活動における「閉鎖性」の高まりです。

企業が「会いたい人」や「つながりのある人」にだけ合えば効率は高まりますが、そのターゲットから漏れてしまう人にとってはどうでしょうか。就職ナビでたくさん応募してたくさん落ちるのは確かにつらいのですが、出会えなければチャンスはゼロです。しかし、学生自身がそのことに気づくことはあまりないでしょう。

「オープン&フェア」をもたらした就職ナビ

もともとリクルートの就活サイト「リクナビ」が登場した時にもたらした社会的価値は、誰でもどんな会社でも受けることができる“オープン&フェア”でした。それは今でも素晴らしい価値です。

しかし、誰でもどんな会社でも受けられれば、副作用として非効率になるのは当然です。大企業や有名企業は、今や100倍、200倍の倍率は普通です。そこで企業も大学も、副作用に注目して「効率的な就職/採用活動を!」となったわけです。

しかし、合格確率は低くてもチャンスがある方と、気づかぬうちに最初からターゲットから外されて負荷がかからない就職活動をする方の、どちらが社会的にはよいのでしょうか。

もちろん、どちらかではなく第三の道もありえます。例えば、大学入試のセンター試験のような開かれた採用選考試験があり、その評価によって様々な企業に応募できるようなことがあれば「オープン」かつ「効率的」でしょう。最近のAIや適性検査などでの選考の効率化もそれに近いものかもしれません。

また、企業側もどちらかの手法だけ使うのではなく、ハイブリッドで採用活動を行えば、両者のメリット・デメリットを補完できるかもしれません。

自分から動ける学生にはチャンスがある

しかし、企業側は極端な話、自社に合う人が採れればとりあえずはよいのですから、これら非効率な動きを積極的に行う動機はあまりありません。では、排除されてしまった学生が、個人の努力でそれを乗り越えるためには何ができるのでしょうか。

一つは、自分から積極的に企業にアプローチをすることです。採用活動がオンライン化されて企業の情報収集は楽になったのですが、それに甘んじることなく、企業側の網にかかるような行動をするということです。

例えば、SNSなどを利用してOB/OG訪問で志望企業の社員に会ってリファラル採用の対象になるとか、就職ナビでの募集がなくても企業のホームページなどから問い合わせメールを行って「会って欲しい」とアピールするとか、やれることはいろいろあります。

スカウト型採用シフトで閉鎖的になっても、それに気づいて自分から動ける人にとっては、まだまだチャンスはあるのです。多くの学生がそれに気づいてくれることを願っています。

sowa_book【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『定着と離職のマネジメント』(ソシム)、『採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)、『会社を成長させる新卒採用 戦略編』(クロスメディア・パブリッシング)など。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

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