「オンライン採用」はコロナ後も定着する 採用担当者はいかにネットを活用すべきか
2020年4月中旬にビズリーチが企業の採用業務に関わる人を対象に実施したアンケートによると、「採用活動のオンライン化」にすでに対応していると答えた人は53%。このうちオンライン化は「メリットの方が大きい」と答えた人は66%にのぼっています。
具体的なメリットは「遠方の候補者との接点が増えた」「面接等の工数削減・選考のスピード向上につながった」というもの。ひとことでオンライン化といっても、採用広報から面談・面接、内定後フォローや入社手続き、配属前研修など幅広いプロセスでの活用が試みられていることが分かります。
その一方で「職場の雰囲気を伝えることが難しい」「候補者の印象を正確に把握しづらい」といった課題を挙げる声も。このあたりはツールの向上とともに、採用担当者のスキル向上でカバーしていく部分も多いでしょう。
採用担当者はコミュニケーション能力に自信がある人が多く「チャネルが変わるだけ」と思っているかもしれません。しかしオンラインは「リアルの劣化版」でなく、活用には別のリテラシーが必要です。
リアルで会うとおとなしく話下手なのに、ネット上では弁舌滑らかな「ネット弁慶」のような人に会ったことはありませんか? リアルが中心の世界では軽視されていたのかもしれませんが、これからはこういう人こそが採用で力を発揮するのです。
「空気の読める人」がネットに向かない理由
リアルに強い人は、ある努力をしなければ「ネット弁慶」にさえなれません。それはコンテクスト(文脈=その場の空気や共通認識など)に依存しないコミュニケーションをするということです。
今までコミュニケーション力と呼ばれていたものは、実は「コンテクストを読める」ことでした。多くを語らずとも相手のことがわかり、自分の意図を伝えることができることだったわけです。
しかし、そのために「言っていないことを”勝手に”想像する力」が偏って発達し、自分の思っていることを明示的に言語化する力が弱っています。リアルの非言語コミュニケーション力に頼ってきた猛者たちは、意外にも「言語化能力」を鍛えていないのです。
ネットでは言語でのコミュニケーションが中心なので、「空気」をなかなか伝えられません。コンテクストに依存せず、自分と何も共有するものがないどこかの誰かに対しても誤解を生まないようにしながら、明確に意図や考えを伝える言語能力が必要になります。
これは、やり方を聞いてすぐできるものではなく、何度も繰り返し試してみて徐々に習得していくスポーツの技能のようなものです。「文章読本」を読んだだけで文章がうまくなる人を見たことがないのと同じように、「ネット弁慶」を目指すには、毎日のように見て、聞いて、発信してみる以外に方法はありません。
「炎上」しないようステップを踏む
ただし、物事には順番があります。いきなり草野球の選手がメジャーに行けばボコボコにされてしまいます。いわゆる「炎上」してしまうということです。私も過去に何度も痛い目に遭いました。
まずクローズドな世界、社内チャットやLINEなどでいろいろ発信してみてはどうでしょうか。そして「あの発信どうだった?」と周囲に聞き、十分にフィードバックを受けることで「痛い」ところを直さなければなりません。
noteなどのブログもおすすめです。比較的長文で情報量を多く書くことで、短文よりも誤解を招きにくいからです。ある程度準備ができてきたら、ようやくSNSです。中でも初心者向けは、実名制のFacebookでしょう。
私の見る限り、他のSNSよりFacebookは穏やかで、リアル社会に似た礼節があります。しかし採用では学生があまりやっていないので「集める」のには向きません。就活を期にFacebookをやり始める人も多く、「集めた人に発信をする」などには向いています。
Twitterは、私も正直まだ怖いです。匿名で誹謗中傷も飛んできます。採用でここに踏み込むのは、誤解を生まない「言語化」能力をかなり鍛えてからがよいでしょう。妙なコメントに動揺しない「スルー力」など精神的な強さも必要になってきます。
このほかSNSには写真や動画専用のもあり、そこには特殊な文法があるようです(私もいま事務所でTikTokの動画に挑戦中です)。Twitterで採用募集に成功している企業もあり、難しいだけに成功すれば得られる利益は大きいでしょう。ただし、繰り返しますが、くれぐれも準備ができてからがよいと思います。幸運をお祈りいたします。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/