「仲間と差をつけよう!」は無意味 学生同士を煽る就活ビジネスに騙されるな
ある大学の就職課に行った時、あるポスターの前で思わず足が止まりました。就活支援イベントのポスターだったのですが、キャッチコピーには大きくこう書かれていたからです。
「夏休みの間に仲間と差をつけよう!」
開いた口がふさがりませんでした。差をつける相手だと認識していて、果たして本当に「仲間」と言えるのでしょうか?(文:河合浩司)
グループディスカッションでの自論展開は逆効果
良い情報をお互いに共有し、共にうまくいくのが本来の「仲間」ではないでしょうか。きっとキャッチコピーを書いた人は、仲間に恵まれたことがないのでしょう。そのことは残念ではありますが、前途有望な若者たちを巻き込まないでほしいものです。
就活において「周りと差をつけよう!」という考え方は、明らかに間違いです。「周りと差をつけよう」と行動する就活生を、高く評価する採用担当者はいないからです。
…ごく稀に存在するかもしれませんが、少なくとも私は一度も会ったことがありません。私も採用担当者の一員ですから、その気持ちは分かります。
選考のグループディスカッションやグループ面接で、「他者と差をつけよう」としている就活生を毎年何人も見かけます。GDでリーダーになって自論を展開し続ける人や、自分の専門知識をひけらかし続ける人。極端な例ではグループ面接中に、
「隣のAさんはこう言いましたが、私はそうは思いません。理由は…」
などと滔々と語り出した人もいました。自論の展開に熱くなり、いつまでも終わらないので、「ひとまず、続きは後で聞かせてもらいますので、次の質問に行っていいですか?」と無理やり終わらせたことを覚えています。
彼らが日ごろから周りを敵視する人なのか、選考だからあのような行動をとったのかは、私には分かりません。しかし、選考中に自分のことしか考えない極めて身勝手な思考が露見したのは事実です。
会社は「チームで仕事を進めていくところ」
このような「周りと差をつけよう」という考え方の人材を入社させても、社内に悪影響しか及ぼさないことは想像に難くありません。
採用した人とは、机を並べて一緒に仕事をする仲間になります。しかし「周りと差をつけよう」と考える人は、仕事仲間と協力体制を築きません。その人にとって、周囲の人は協力する相手ではなく、差をつけるべき対象なのですから。
会社はチームで仕事を進めていくところなので、すぐに様々な問題が起こることでしょう。周りと差をつけることに必死な就活生を見ていると、こんなことを想像し、「もし入社したら無用な摩擦を生みそうだなぁ」と思ってしまいます。
このような考え方で就活をしても、苦戦するだけで何一つ良いことはありません。それどころか、社会人になってからも社内で孤立するだけです。このようなメッセージを発する就活ビジネスには関わらないことをお勧めします。
冒頭の就職課で見かけたポスターは、さすがに放ってはおけませんでした。お節介だとは思いながらも、気心の知れた職員さんに言いました。
「あのポスター、はがした方がいいと思いますよ。就活生が勘違いすると、かわいそうですから」
職員さんは「た、確かに…」と苦笑しながら、すぐにはがしてくれていました。今後、このようなキャッチコピーが減ることを心から願っています。
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