コロナ禍で冷凍ブーム、家電王に聞く賢い冷凍庫の使い方
冷凍食品が人気だ。国の「家計調査」によると、2014年から2020年で冷凍調理食品への家計の支出は約4割も増えている。そうなると、重要になってくるのが「冷凍庫」の性能。近頃の冷蔵庫では「冷凍機能」を売りにした機種も増え、冷凍用スペースが複数あったり、使い分けが必要なものもあるという。いまの、冷凍庫のトレンドはどうなっているのだろうか?
『TVチャンピオン』(テレビ東京)のスーパー家電通選手権で優勝した(2002年)、東京電力エナジーパートナー現役社員の「家電王」中村剛氏に、冷凍庫の選び方と賢い使い方を聞いた。(取材・文:伊藤 綾)
家庭用の冷凍室にもいろんな温度帯がある!?
食品を長く安全に保管できる冷凍庫。冷凍食品のパッケージには「マイナス18℃以下」と保存方法が記載されているが、基本的に食品を長持ちさせるには、温度が低いほうがいいとされている。
「冷凍による保存期間は食中毒の問題などもあるのでメーカーも明言していませんが、冷蔵庫のカタログなどには冷凍室の性能を表す記号が表示されています。冷凍庫は工業製品なのでJIS規格(日本工業規格)によって、庫内温度ごとにどこまでの性能を発揮するのかが決められているんです。一番いいグレードは「フォースター」で、国内メーカーの上位機種はほとんどがこの規格を満たしています」
冷凍食品の保存期間は食品の種類、冷凍室に入れるまでの温度、冷蔵庫の使用条件などによって異なるが、マイナス12℃以下の「ツースター」は約1ヶ月。マイナス18℃以下の「スリースター」と「フォースター」の場合は約3ヶ月が、冷凍食品の保存期間の一応の目安となっているようだ。
「巨大なマグロをカチコチに凍らせて1年、2年と保管するような、非常に低温の業務用冷凍庫であれば、おそらく限りなく食材の腐食を止められるはずですが、断熱性能などもより高性能なものが求められます。マイナス18度よりもずっと低い温度で冷凍する業務用と同じレベルの性能は、家庭用冷蔵庫の冷凍室にはありません。JIS規格では『マイナス18度以下』という言い方で、マイナス18度より低い冷蔵室を備えた家庭用冷蔵庫もあると思いますが、保存期間についてはあまり過信しすぎないことですね」
ネット上には「マイナス60度以下ならほぼ完全に腐食を止められる」「『手作り料理は冷凍で半年以上保存可能』という研究結果もある」という話もあったが、食材の保管期間はさまざまな条件で変わるため、一般論として語ることは難しいという。
「一言で冷凍庫と言っても実はいろんな温度帯があって、そもそも食材の保存期間をとにかく引き延ばすような冷凍が、一般家庭において使い勝手が優れているというわけでもないんです。例えば『パーシャル』というモードがありますが、これは庫内温度が冷蔵と冷凍の間くらいの温度帯で、凍り切っていないギリギリの微凍結状態にする。冷凍庫ほど食材が長く保つわけではないんですが、カチカチにならないので食材として使いやすいんですね。『切れちゃう冷凍』とうたわれるくらいです」
冷凍は家電業界でもトレンドに
「フォースター」の冷凍室は「スリースター」の性能に加え、容積100リットル当たり4.5kg以上の食品を24時間以内にマイナス18℃以下に凍結できる性能を持っている。つまり、より速く冷凍できるわけだ。特に作り置き調理などの場合は、なるべく短時間で食材を凍結させることもポイントとなってくる。
「ゆっくり凍らせると氷の結晶が育つ過程で食材の細胞が壊されるため、美味しさを壊さないためにも急速冷凍は大切です。冷凍や解凍がしやすいようにごはんは1食ごとに板状にするなど形状も考えたほうがいいし、生鮮品はなるべく雑菌などが少ない新鮮なうちに、一度解凍したら使い切れる量に小分けにして冷凍するのが王道。『そろそろ食材がダメになりそうだな』という時の最終手段として、冷凍を使うのはあまりおすすめしません」
味が落ちた状態で冷凍すると、そこから味が復活して美味しくなることはない。ごはんも炊き上がったら、すぐ小分けにして冷凍してしまうのが理想だ。
「通常よりも多めの水分で炊き、冷凍し、解凍すると、パサパサ感のないお米になるのですが、最近はそもそも冷凍させる前提でごはんを炊く『冷凍用ごはんモード』が付いた炊飯器もあります。冷凍室が大きい冷蔵庫の需要が高まっています。2台目にキャビネット型の冷凍庫を置く人もいます。家電の大きな流れとして、『冷凍』はキーワードです。冷蔵室と冷凍室に自分で切り替えができる部屋を設けた冷蔵庫や、解凍モードを挟まずにそのまま冷凍食材などを調理できるレンジもありますね」
作り置きや冷凍調理、冷凍食品の一般化といった冷凍ブームを受けて家電もさまざまな進化を遂げているようだ。
ちなみに食品ロスの問題が取り上げられるようになって久しいが、冷凍はエコや節約という観点でも合理的だという。
「いまの冷蔵庫は断熱性能が向上していて、たいていの家庭用冷蔵庫の消費電力量は年間300kWhを下回っています。電気代にすると年間約8000円いかないくらいの計算です。かつては冷蔵庫の断熱が悪かったので、この約10倍くらいかかっていた時代もありましたが、その当時とは様変わりしています。冷蔵庫のドアなどを素早く開閉するみたいな節約術もありますが、個人的にはそこまで気にし過ぎる必要はないと思います。それよりも、節約やエコという意味では、食材の整理や庫内の掃除をこまめに行い、悪くならないうちに食材をきちんと食べ切ることがずっと大事ですよ」