まず宮崎餃子について、基本的なところを説明しておきたい。宮崎餃子には使用する具や調理法などの定義はない。特徴があるとすればラードで焼くことがあるが、これも必須ではない。具材が宮崎県産なのも、食材が豊富な宮崎県では当たり前のことだ。
もともと「宮崎餃子」は戦後、延岡市にできた「黒兵衛」にはじまり、県内全域に広まっていったようだ。同じく県央の高鍋町も以前から「餃子のまち」を掲げていたが、同町の名店「餃子の馬渡」は創業者が「黒兵衛」の創業者と町役場で一緒に働いていたことがあった縁で、修業して独立したのが始まりだという。黒兵衛はレシピを隠すわけでもなく、惜しげもなく教えたというのだからすごい。暖かい県民性がそうさせるのだろうか。そうやって芽生えた「餃子文化」は、それぞれが工夫を重ねていった結果、県民の日常の食事として普及するまでに至った。
市内の飲食店でつくる「宮崎市ぎょうざ協議会」会長の渡辺愛香さんは、こう話す。
「(宮崎の餃子文化に)特徴があるとすれば、店で買ったものを家で食べることでしょう。家庭では大皿に盛って食卓に並べるのが宮崎の基本です。父親がお酒を飲んだ帰りにお土産に買って帰ることも多いですよ。朝の食卓に餃子が並ぶこともあります」
朝から餃子!というのも驚きだが、一部の家庭では餃子を味噌汁の具に使うこともあるとか。そんな自由な発想のメニューが生まれるのも、餃子が日常にしっかり定着しているからだろう。
さて、この「餃子文化」。あまりに当たり前になりすぎて、逆に地元では長らく、注目されていなかったようだ。そりゃ、みんなで朝から食べてれば感覚も変わってきちゃうよねえ。
さて、そんな宮崎の「餃子熱」が俄然、高まってきたのは、ここ数年のことだという。2020年度の上半期には、宮崎市の餃子購入額と頻度が初めて全国一位になり、そのタイミングで「宮崎市ぎょうざ協議会」が立ち上がり、「宮崎を県内生産者と製造・販売店、消費者の3者が喜ぶ『ギョーザ県』にしたい」を目標に掲げた。
結局、2020年は宇都宮市・浜松市に続く全国3位に終わったが、残念な結果が協議会のみならず地元の人々にも火をつけたようだ。協議会がスーパーの店頭や公共施設などを借りて熱心にPRイベントを開催。地元でも、改めて餃子の価値が認識され、熱気は高まっていったのだという。
深まった宮崎の「餃子文化」
さまざまなPRが功を奏したのか、これまでは「推しの店でしか買わない」というスタイルだった人も、あちこちの店の味を食べ比べるように。結果的に餃子を楽しむ文化が一段と深まったのだとか。
「今までは、どこの餃子が美味しいかについては“自分は○○派”みたいな人もいましたが、様々な味の違いを楽しむ人も増えましたね」(前述・渡辺さん)
宮崎市の首位獲得は、コロナ禍の暗い世情を吹き飛ばすような、地域が一丸となった結果だったのである。
ただ、協議会の目標は宮崎市だけではなく、宮崎を「ギョーザ県」と呼ばれるような存在にまですることだという。
「月に2回は、小さなものでもイベントが開催できるといいと思っています」(前述・渡辺さん)
実際、くだんの総務省調査の対象外だった宮崎市以外のエリアでも、餃子は大人気なのだとか。もしこの勢いで餃子人気が高まっていけば、香川県の「うどん県」に続く「ギョーザ県」の誕生も近いのか?