「全社DX体制」で不動産業にイノベーションを巻き起こす 三井不動産が「リアル」と「デジタル」を掛け合わせた顧客価値を創出へ | キャリコネニュース
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「全社DX体制」で不動産業にイノベーションを巻き起こす 三井不動産が「リアル」と「デジタル」を掛け合わせた顧客価値を創出へ

三井不動産株式会社 執行役員でDX本部 副本部長の古田 貴さん

国内最大級の総合デベロッパーである三井不動産株式会社(以下、三井不動産)は、2025年に向けたグループ長期経営方針「VISION2025」の中で「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」を基本ストラテジーとして打ち出し、DX(デジタル変革)の取り組みを推進している。

全社DX体制の実現にはどのような課題があったのか。不動産業にデジタルを掛け合わせて創出する「顧客価値」とは。執行役員でDX本部 副本部長の古田 貴さんに話を聞いた。(文:千葉郁美)

DX元年は2017年。顧客価値を創出するサービス開発

――御社はグループ長期経営方針「VISION 2025」において、テクノロジーによるイノベーションを掲げ、強い推進力でDXに挑んできたかと存じます。その取り組みが評価され、「DX銘柄2021・デジタル×コロナ対策事業」にも選定されました。どのように取り組まれてきたのでしょうか。

当社のDXにおいて、一つの起点となったのは2017年でした。
その年、三井不動産にそれまでなかったサービスがリリースされました。働き方改革対応のシェアオフィス「WORK STYLING」、eコマース「&mall」、そして物流のフルオートメーションモデルの体験型ショールーム「MFLP ICT Labo1.0」の3つです。

サービスが開発された背景には、2014年にIT中長期計画で情報システム部より「攻めのIT宣言」を発表して、デジタルマーケティングやAI、ロボットといったITを活用して、会社の業務効率化や新たな事業創出に貢献する取り組みが始まったという経緯がありました。

全社的なIT推進に対する理解を深めるため、「攻めのIT講演・全社巡業」と銘打ちまして、その名のとおり全社を津々浦々講演して回りました。当時のシリコンバレーでどんなことをやっているのかといった最先端の事例を紹介して、今後時代はどんどん変わっていくんだぞということを、内容をバージョンアップしながら各部を何度も回ったんですね。

そうこうしているうちに、現場から課題意識が湧き上がり始めました。例えば、「Eコマースをやりたい」という声が商業施設本部から上がってくるという具合で、各部門でITを活用する新たな事業アイデアというのがどんどん生まれていきました。
また、IT技術職掌も新設されて、こうした「攻めのIT」を進める上で必要な人材の採用が活発さを増しました。

各部門と情報システム部が協働して、さまざまなソリューションやサービスが生まれ始めたこの2017年が、当社の「DX元年」と位置付けています。

その後IT活用の気運上昇もあり、社内でもデジタル推進への意識が高まっていきまして、2018年にはグループ長期経営計画「VISION 2025」の経営戦略の3本の柱の一つに「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」を打ち立てました。

――2014年にはすでに「攻めのIT宣言」のもとでさまざまなサービス開発が始まっていたのですね。2017年には外向けのサービスを開発されましたが、社内の業務改革においてもプロジェクトは進行していたのでしょうか。

2017年にリリースされた3つのサービスは全て外向けのものでしたが、社内の効率化や生産性向上、働き方改革というのも非常に重要であるということで、内側に向いたDXへと取り組み始めます。2019年には、社内の基幹システムのフルクラウド化が完了しました。

また、当社はABW(Activity Based Working/仕事内容や状況に合わせて自由に働く場所や時間を選択する働き方)というコンセプトをもともと持っていたということもありまして、デジタルを活用した働き方改革にも乗り出しました。新オフィスに移転する機会にデジタル施策を組み合わせ、柔軟で活力ある働き方を実現するというプロジェクトも展開していきました。

このクラウドERPへの移行と働き方改革の推進は、IT協会が選出する2020年度「IT賞」の受賞にも繋がりました。また、コロナ禍の緊急事態宣言下においてもモバイルワーク施策によってスムーズに在宅勤務への移行を実現し、2021年には「DX銘柄2021」の「デジタル×コロナ対策企業(レジリエンス部門)」に選定していただきました。

基盤整備やサービス開発がスマートに進む3つの特徴

――あらゆる企業が目指している「DXの推進」をスマートに実行されているように思います。御社の推進体制にはどのような特徴があるのでしょうか。

大きな特徴は3つあります。
まず1つ目は、「全社DX体制」であるということです。当社は商業施設本部やビルディング本部、ロジスティック本部、柏の葉街づくり推進部などの事業部がありますが、DXの主役は事業部なんですね。それから、DX本部以外にも複数のイノベーション部門があり、AI活用など最新分野の技術研究を大学と共同で行っている産学連携推進部、新規事業アイデアの創出に関わるビジネスイノベーション推進部などがあります。

DX本部だけがDXを推進するのではなく、既存事業とイノベーション部門が連携しながら全社で既存事業の進化と新規事業の探索に取り組んでいるというのが、まず大きな特徴だと思います。

2つ目は、DX本部が情報システム部の自己進化形であるということです。

前述したとおり、DX本部の前身は「情報システム部」でした。デジタルシフトの進化を受け2017年に「ITイノベーション部」に変わり、2020年には「DX本部」になりましたが、名称は変われども、もともとの情報システム部が進化してきたわけです。既存業務の改革やセキュリティといった「守り」を担い続けていた。ですので、データ活用による新規事業支援という領域にも強いわけです。

グループ長期経営計画「VISION 2025」推進のために設けたDX本部の指針である「DX VISION 2025」においても、事業変革と働き方改革という外向き、内向きのイノベーションを支える推進基盤を造る、というはっきりした役割を示しています。

そして3つ目は、IT人材をゼロから集めているというところです。

そもそも当社はアウトソース思考で社内のIT人材はごく少数でしたが、2017年にIT技術職掌を新設して活発に採用し始めました。私が情シスに異動してきた12年前は不動産の人間が16人所属する部署で、しかもローテーションしてどんどん入れ変わっていく、そういう部署でした。
それが今では104名を抱える部署になりました。その半数以上を占める技術職は全て中途の採用で、2割の総合職はさまざまな部門を4、5年でローテーションしていきます。

このローテーションする総合職というのも重要な役割があるんですね。例えば僕は事業開発に関わった経験があるし、他にも商業施設部門を経験した人、経理部にいたから経理がわかっている人と、社内のいろんなビジネスに関わった人が集まる。全社のDX推進に関係するDX本部にとっては、部門特有の知識の共有や、橋渡しにも役に立ちます。

また、採用が活発になったのが2017年からということもありまして、技術職のほとんどの社員が入社4年以内、半数以上が2年以内という構成になっています。
新たなプロジェクトが次々と立ち、マニュアル化しきれていない部分があったりと、組織としてはある種ベンチャー企業のようなフレッシュさがあるかもしれません。

DX元年から5年目の2021年。「顧客価値創出」の面では道半ば

――DXという言葉が一般的に知られる前からデジタルによる変革に臨んでこられ、今も多くのプロジェクトが動いているかと思います。今後はどのような展望をお考えでしょうか。

DX元年の2017年から、丸4年で社内の業務効率化や働き方改革に成果が見えたこと、そして各事業の顧客価値創出に関わるDXプロジェクトが、全ての部門で動いている、そのステージまで到達できました。

ただし、顧客価値創出の面ではまだ道半ばという認識を持っています。「働く」「住まう」「楽しむ」各領域において当社ならではの価値やサービスを創出していく。そこには注力していかなければいけないと思っています。

――御社では、新たな事業アイデアを募集する形で新規事業の創出を促進する「事業提案制度」が設けられていると思います。

事業提案制度「MAG!C(マジック)」は、三井不動産グループの「イノベーションを起こすDNA」を再起動し、「不動産業そのもののイノベーション」を全社的に推進していくため、グループ内に所属する社員から幅広く事業アイデアを募集する制度です。社員の提案が実際に事業化した例もあります。

直近ですと、2021年11月から本格始動したシェアリング商業プラットフォーム「MIKKE!」は、事業提案制度で一人の社員のアイデアから生み出されたサービスです。

このサービスは移動式販売において「場所」「車」「顧客情報」をシェアリングするというものになるのですが、DXの観点では、どんな場所で何曜日の何時に何が売れるのか、といったデータの蓄積と分析というところで価値創造に関わっています。

こうしたお客様の価値につながる新規事業がどんどんと生まれていってほしいですね。

――さまざまなプロジェクトにおいて「デジタルでできること」を捉えて支援していくことで、テクノロジーによるイノベーションが着々と進んでいる。そんな印象を受けます。

そうですね。私は、「DXは手段」だと思っています。DXは価値を創出するための手段でしかありません。

これまでさまざまな取り組みを進めましたが、当然ながら簡単に十分な成果が出ないこともあります。あらためて「デジタル化すること」を無理矢理目的にするのではなく、本当にデジタル技術やデータが顧客価値を創出するのか、そこに立ち返って考える必要があるわけです。「リアルの価値」を見過ごしていないか。やはりデジタルとリアルの掛け合わせというのもしっかりと視野に留めていなければいけません。

我々DX本部にはデジタル活用力を武器に、目的であるお客様と社内に向けた「価値創出」のために、現場と共に悩んで、時にはものを申しながら貢献していく、発想力と実践力が求められます。システム開発やデータ活用人材のキャリア採用も引き続き進めます。

新しいことにチャレンジしようと思えば、開発の難易度も上がっていきますし、先進的な技術力を有した人が必要になってくる。また、DXが進むなかでサイバーセキュリティも肝要です。
広い領域の方に集まっていただき、大きな効果を発揮していきたいと考えています。

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