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「変革のDNAを次世代につなぐ」NECが挑むコーポレート・トランスフォーメーション

NEC 執行役員常務 兼 CIO兼CISOの小玉浩さん

国内屈指の電機メーカーである日本電気株式会社(以下、NEC)は、新たなステージに飛躍するためのアクションプランとして2025中期経営計画を策定し、コーポレート・トランスフォーメーション (以下CX) によるグローバルトップレベルの デジタルトランスフォーメーション(以下DX) 最先端企業を目指す。

この実現に向け、CEO直下に新設された「Transformation Office」は、いかにして変革を実現するのか。プロジェクトを牽引する執行役員常務 兼 CIO兼CISOの小玉浩さんに話を伺った。(文:千葉郁美)

不確実性の時代こそ抜本的な改革が求められる

――昨今の急激なDXの時流を受け、多くの企業がデジタルシフトを進めています。御社はデジタルテクノロジーにおいて国内有数のアセットを持ち、多くの産業のDXを支える側でもあると思いますが、一方で社内のDXにも非常に注力されていますね。

世の中は情報社会(Society 4.0)からデータ社会(Society 5.0)へと移り変わり、価値源泉と価値創造プロセスに大きな変化が起きています。様々な産業でDXへの取り組みが行われているのはご存じの通りです。

NECでは、過去20年間さまざまなビジネス環境の変化に都度対応し、社内の特定のビジネスやプロセスで領域ごとのDXは行ってきました。しかしながら、全社目線ではあちこちに歪みが蓄積し、事業を支える仕組みは決して最適ではありませんでした。そのため、ここ2年間は改めて全社レベルでの抜本的な再構築を目指し、コーポレート・トランスフォーメーション(以下CX)として取り組みを昇華させています。つまり、ビジネス予測が難しい中でも部分最適から全体最適へ、そしてエコシステムの実現といった方向性で社会課題を解決していくために、我々自身も変革していかなければいけないということです。

変革に向けて、まずはパーパス起点で我々のなりたい姿と社会のニーズをマッチングさせ、デザイン思考等々の思考・行動様式におけるコンピテンシーを強化していきます。

そして、変革の土台となる人の役割を再定義し、「人としての付加価値」を最大限発揮して社会に貢献するという、そうした人材の育成を非常に重要視しています。

不確実性の時代に突入して、人の本質が追求され、そして企業とは何かというのが問われる時代ではないかと考えているところです。

――社会課題に取り組んでいこうという力強いメッセージが伺えます。

NEC自身の改革も、我々が掲げる社会価値創造をパーパスに着手していました。2008年には「One NEC 全体最適化方針」を打ち立て、グローバル基盤刷新と変革への素地作りをスタートさせています。

2018年に発表した「Project RISE」では、変化を受容するカルチャーへの改革とITをどんどんアップデートさせる方向に随時進化してきました。

今後も更なるテクノロジーの進化が想定され、変化の領域も増えていきます。「人としての付加価値」を最大限発揮できる仕組みも必要です。文化の醸成がそれなりに出来上がってきたところで、変化を先取りしたCXを加速するため、「Transformation Office」を立ち上げました。

CEO直下の「Transformation Office」が全社目線での改革”CX”を推進

――「Transformation Office」はどのような役割を担うのでしょうか。

2021年4月に立ち上げた「Transformation Office」はCEOの直下に設置され、制度・プロセス・組織・IT・データ・人の全てをTo-Be目線でリデザインし、強力な推進力をもって実現する、全社横断の組織です。

検討範囲は広範囲かつ全社横断であるため、既存の事業部門やコーポレート部門の立場では、既存業務で忙しく、更には各部門の利益を優先しがちとなり、大きな改革は実現できません。そこでCX推進の専門部隊を立ち上げる選択を行いました。
このTransformation Officeの強力な推進力のもと、全社一丸・従業員全員が参加して、CXを進めています。

――どのようなコンセプトで改革を進めていくのでしょうか。

改革のコンセプトには、「Resilience × Agility」すなわち、「強さとしなやかさの両立」を掲げました。「強さ」領域で、全社として共通化すべき領域を徹底的に標準化し、企業としてのベースレジストリを整備してデータを価値に変換できるようにする、効率化と高度化を実現するコーポレートインフラの整備を進めています。

そして社員のエクスペリエンスを高め、人ならではの価値や能力を引き出し、経営の柔軟で高度な判断や事業間シナジー、社員の多様性や創造性を受け止める仕組みづくりが「しなやかさ」領域です。

標準化・高度化されたサービスを活用して、人は付加価値業務にシフトし、新しい価値を生み出す好循環を回しながら、その結果としてお客様や社会のカスタマーエクスペリエンス、そしてコーポレート・トランスフォーメーションという「2つのCX」を実現することを狙いとしています。

――変革のためのコーポレートインフラを組み込んでいく、具体的にどのような戦略で挑まれるのでしょうか。

2019年に9つの変革ドライバー(9 Drivers)を起点にして、ITではなく”X”(Transformation)を重視したDXアジェンダを設定し、約150のプロジェクトを推進しています。
「9 Drivers」は、戦略・ビジョン、組織・文化、オペレーショナルエクセレンス、ビジネス価値創出の4つのカテゴリーからなり、それらを網羅して施策を推進することで変革の加速と成果最大化を図っています。

そして全社DXは「DNA for the Next Generation」のもとで、「働き方のDX」「基幹業務のDX」「運用のDX」の3つの柱を立ち上げました。それぞれが社員のエクスペリエンスの向上とデータプラットフォーム、そして大量にあるシステムのモダナイゼーションに取り組んでいます。

「働き方のDX」においては、Code of Values※の体現を加速させるデジタルワークプレイスの取り組みに注力しています。デジタルテクノロジーによって、さまざまな制約のもと働くことを諦めていた状況を解消し、NECグループで働く12万人のパワーを最大化して一人ひとりが成長できるようなワークプレイスへと変えていこうという取り組みで、働きがいにつながる仕組みをどんどんブラッシュアップしているところです。

「基幹業務のDX」は、基幹システムを中心にデータ・ドリブンに変換していこうという取り組みを進めています。今後はデータを戦略的に取り込み、仮説検証型で未来が見通せるようなものに仕上げていこうと考えています。

また、「運用のDX」においては、多岐にわたる作業をワンストップで自動化していくこと、その統合運用により集約されたナレッジの利活用を通じて、継続的なサービス改善を可能とし、社員はより付加価値を出せる仕事に注力することができるようになっていきます。

――新たな方向性に舵を切るときにはさまざまな課題や障壁はつきものかと思いますが、取り組みを進める上で、苦労されたことはありますか。

最大の障壁は「社内文化」でした。既存のものをなぜ変えなくてはいけないのかと。従来の環境下でそれなりにPDCAを回してきたことから、この成果を捨てたくないという気持ちが、当初社内には存在しました。

2018年の「Project RISE」で変革への「頭」はついてくるようになったものの、次は「体」をどうにかしなければいけない。総論は理解しても各論に入ると、進まなくなってしまう。
変化する必要性というのをみんなに共感してもらい、そこに向かっていこうという全社改革ムーブメントの醸成を仕掛けました。

そこで、NEC Way ※ ・Code of Valuesを再定義し、経営者自らが従業員に改革の必要性を何度も働きかけました。これは今でも続いており、CEOを始め各役員に、社員が直接オンラインで質問できる機会も設けられています。

また、従来のリモートワークに加えて人事制度も再整備し、強いオーナーシップで自律的に自ら集中して働ける環境を用意。リアルなオフィスは、チームのコミュニケーションハブや、社内外の共創空間と再定義しました。体で感じる共感として、NECの生体認証やマルチモーダル認証等の技術を存分に活用した社内外の共創空間「NEC I: Delight Lab」を構築、従来型食堂も共創空間FIELDとしてリニューアルし顔認証による決済システムも用意しました。Employee Experienceを優先、いわゆる社員が改革の効果を実感できる取り組みを進めています。

NECに根付いた文化を覆すことは容易ではありませんが、トライアンドエラーやアジャイルの精神で、社員の目に見える改革を継続して進めることが大切だと考えています。

「DNA for the Next Generation」:次世代に向けてNECのDNAを変えていく

――そういった部分はやはり一つ一つ丁寧にクリアしていかなければいけない課題ですね。今後の取り組みにおいては、どういったことが重要となってきますか。

改革は一旦行ったら終わりではなく、常に続けていくことが大事です。全社DXとして掲げた「働き方のDX」「基幹業務のDX」「運用のDX」に本質的に取り組み、時代の変化を自ら創出し、社会に価値を出し続けるためには、常に変化し続けなければいけません。改革は終わらない旅なのです。

そのためには、NECに変革のDNAを根付かせ、次世代に繋げていくことが必要です。NECが今後100年、200年と続くためには改革のDNAをきっちり作り込み、時代が変わろうが、人と文化の変革を続けていくことが大事です。そういうものを、しっかりと作り込んでいきたいと考えています。

※Code of Values…NECグループすべての社員が体現すべき日常的な考え方や行動の在り方を示した行動基準(NECグループの共通の価値観・行動の原点「NEC Way」を改定 (2020年4月1日): プレスリリース | NEC

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