元ライターのAさんは3年ほど前までnetgeekで活動していた。記事のノルマは1日2本で、語尾や使うべき表現など、編集方針は細かく決められていたと明かす。特に見出しは、
「ネットで凄い人がいたら、そんなに称賛されてなくても『ネット上で称賛』とか。『この後驚きの結果に』とか、『天才現る』とか。かなり誇張していました」
と振り返る。結果として記事中に「驚きの結果」が無くても、「みんながやっていることなので、罪悪感はなかった」という。
報酬は、記事公開2日後のフェイスブックシェア数と職階に応じて決められていた。シェア数500未満の場合は報酬ゼロ、1万シェア以上なら、一番下の職階で3000円、上の職階で6000円だ。シェア数500未満で報酬がないのは、「閲覧者にとってつまらない記事はないほうがいい」などの理由からだという。
同サイトは、運営者の情報を開示していないことも問題視されている。Aさんは活動時、運営者の情報は外に出さないよう念押しされたという。編集部からの指示も全てスカイプの音声通話やメッセージを通して行われた。
「さらされると実家の住所が出たり、卒業アルバムの写真をバラされたりするので、そういうことを防ぐために絶対に教えるなと、強く言われました」
同サイトの特徴として番組では、「取材なし」「事実確認なし」「誇張表現の使用」「推測の内容が断定表現で記載」「内容の一部が事実と異なる」の5点を挙げた。出演者の1人であるパトリック・ハーランさんは、「事実と異ならなければ、他4つは良いのでは?」と疑問を投げかけるが、池谷さんはこれを否定する。
「取材なし、事実確認しないで書くということが、結果的に間違ったことを生む土壌になってしまっています。見た目は普通のニュースサイトに見えてしまうので、一般の人は彼らが事実確認をしていないことが分からない。netgeekは拡散力もあるので、デマやフェイクニュースを生む土壌を作っている点で問題は大きいと思います」
「PVを集めるために記事が過激になっていく」
Aさんは在籍していた当時、今のような個人を攻撃する記事は書いていなかったという。「ネットで有名になったかわいいペットとか、面白い駅の広告とか」を取り上げていたが、自身が辞めてから今のようなスタイルになったという。
「過激なもの、政治に関するものなどを書くとシェア数が全然違うので仕方がないかなと。読んでる層を狙って書いていると思います」
池谷さんはかつて中傷される記事を書かれた当事者だ。だが、当初のnetgeekを「そこまで過激なサイトではなかったはず」と指摘する。こうしたサイトが生まれる根底にあるのは、ネットのビジネスモデルの負の面だ。
「ネットはほとんど広告で回っていることが多く、測る基準としてメジャーなのはPVなんです。そうするとどうしてもPVを集めるために記事が過激になっていく、おとなしい記事だと読まれないからどんどん過激なことを書こうとする、するとPVが伸びるというサイクルが出来上がっていて。netgeekも元はそこまで過激なサイトではなかったはずなんですけれど、PVに操られPVを追っていくうちに、自然に過激なほうに向かっていってしまうというのがある」
スマートニュースの松浦さんも、ネットのビジネスモデルから変える必要があると主張する。
「釣り記事で入ってきて1秒でも1分でも1PVは1PV、という言い方をしているところがある。動画だと視聴時間というところに広告的な価値がありますよね。他の価値みたいなところもやっていかないと。単純に、誰でも彼でも1つのPVですとやりすぎるとダメなところもある。広告側からも変えていかなければいけない」
netgeekと運営者を提訴した1人の永江一石さんは、同サイトについて会見で「これでお金を稼ぐことが、集団リンチを見せて見物料を取っていることと同じ」と強く批判した。裁判費用を募るクラウドファンディングも始まり、目標金額300万円に対し、11日午後には約190万円の支援が集まっている。