新型コロナウイルスの感染が再拡大しているのを受け、政府の観光支援事業「Go To トラベル」に陰りが見え始めている。政府は11月下旬、札幌、大阪両市をキャンペーン適用対象から一時除外。観光客、受け入れ側の双方に混乱が広がっている。
通常ならば大勢の観光客でにぎわう沖縄県の「国際通り」を11月28日に訪れてみると、週末にもかかわらず観光客は”まばら”だった。
「マスクをしていても、お客さんと話す時は正直怖さがあります」
沖縄県の新型コロナウイルス感染者数は10月中旬から徐々に増えている。人口10万人あたりの感染者数は、北海道、大阪、東京に次いで全国4位。観光業で生計を立てている人々にとっては”死活問題”とも言える。
土産店を営む60代男性は「人出は例年の3~4割くらい。店の売上は6割にも届かない」と頭を抱える。
「マスクをしていても、お客さんと話す時は正直怖さがあります。夜にせんべろ(居酒屋)で飲んでいる人に限っては、マスクもせずに大声で喋っています。観光客も地元の人もいました」
と不安な気持ちを話す。「ああいうのを見ていると、本当に怖いと思います。飲んだ後に家に帰って、家族に広げているんでしょうね」と続けた。
国際通りでは7月、約80の土産物店や飲食店が閉店や休業状態にあるという報道が出ていた。別の土産店でアロハシャツなどを売る60代女性は、
「うちは個人店で何とかなっているものの、5店舗持っている人は2店舗をお休みして様子を見ている、と言っていました」
少ない観光客をいかに取り込むかがポイントになっているようで、道行く人に声をかけるなどして呼び込みをしていた。
タクシー運転手「地域共通クーポンもお客さんからもらったのは2回だけ」
タクシー運転手の70代男性も「お客さんは半分にも戻っていません」とどこか元気がなさそうだ。4~5月の緊急事態宣言の発令以降、パタリと止まった観光客はGo To トラベルの開始とともに少しずつ戻り始めたが、思うように回復していない。
「地域共通クーポンをお客さんから受け取ったのは2回だけです」
10月にGo To トラベルの一環として運用が始まった地域共通クーポンは、土産店のほか、タクシ代ーやレンタカー代に使用することもできる。だが、男性運転手が約2か月間に支払いで受け取ったのはたったの2回だけで、キャンペーンの効果をそれほど実感していないという。
「感染は怖いですが、お客さんを乗せられないのも痛いです」
感染に不安を感じながらも「自身でもできるだけのことはやろう」と社内に消毒液を用意していた。「早く通常通りに戻ってほしいですね」と優しい笑みを見せたが、これこそが多くの人の本音だろう。
都内から修学旅行で訪れていた男子高校生は「東京都の感染状況が4段階のうち最も高い警戒レベルに引き上げられたことで、校内で修学旅行の是非が検討されました」と話す。
「学生主任の先生が『(修学旅行は)一生に一度だから行こう』と言い、決行が決まりました。予定通りに来ることができて良かったです」
とどこか安堵した様子だった。男子高校生を含め、マスクしながら少人数のグループに分かれて観光地を巡る修学旅行生は散見されたが、新型コロナウイルスの流行前と比較すると、学校数は激減しているという。
一方、愛知県から1歳になったばかりの長男を載せたベビーカーを押し、2泊3日で観光に来ていた30代夫婦は「感染はそこまで気にならないので、旅行に来ました」(夫)と取材に答える。
「”Go To”を使って予約して、美ら海水族館などを回ってきました。お得に楽しめて良かったです」(同)
「今日帰るんです」(妻)と名残惜しそうにしていた表情を見ると、今後も沖縄が魅力的な観光地であり続けることには変わりなさそうだ。妻も「感染者がまた増えているみたいで嫌ですね」(同)と話していたが、一刻も早く安心して旅行できる日々に戻ることを願いたい。