派遣看護師として都内の病院で勤務していた北村さんは昨年9月、職場の人間関係に悩み自主退職。予定の組みやすい職場を探していた今年3月中旬、新型コロナワクチン接種後に副反応が生じた人の相談に対応するコールセンターの求人へ応募した。
「求人情報サイトから応募した翌日、医療系人材の派遣会社の担当者から電話があり、履歴書と看護師免許を送ると、すぐ採用されました。応募から1週間も掛からず働き始めました」
ワクチン接種後に副反応が起きた際、治療の優先度を決定して選別する”トリアージ”を行う窓口で、看護師や薬剤師が24時間3交代で相談の対応にあたっているという。
世に出たばかりのワクチンのため、供給元であるファイザーが作成した医薬品解説書などを読み込むリテラシーがあり、かつ一般人に寄り添った対応ができる職種として、看護師・薬剤師が多く配置されているそうだ。
「私が働いているコールセンターは、全スタッフの8割以上が看護師です。いまは徐々にマニュアルもでき、医療関係者じゃないとできない業務ではありません。ただ、ある程度フローチャートで単純化できても、トリアージって最後は総合的な判断になるので、一般的な職種の方だけだと少し難しい面があるのも確かです」
日勤は時給2,000円、仮眠時間込みの休憩時間が2時間半ある夜勤は、16時間拘束で日給3万5,000円。北村さんは自分や家族の都合とシフトの空き具合に応じて、日勤・夜勤・準夜勤を問わず、週2~3回ペースで出勤し、月約25万円を稼ぐ。
看護師の一般的な時給相場からすると平均よりも少し低いそうだが、病院や介護施設など集団の中で勤務するケースが多い看護師にとって、不特定多数の人との接触リスクが少ない職場は希少なようだ。
「派遣看護師でもっと稼げる仕事はありますが、新型コロナの感染リスクのある病棟勤務は避けたいという人が今の職場には多いです。医療関係者のコールセンター業務って、コロナ前だと製薬会社の電話窓口くらい。私は職場の人間関係や体力に自信がないので、なるべく長くこの仕事を続けたいと思っています」
ワクチン接種が進まず、結果として”割のいいバイト”に
「スタッフには発熱相談センターや帰国者・接触者相談センターで働いていた人、ダブルワークで副業として働く人や大学院生もいます。年齢も幅広いですが、真面目で勉強熱心な人が多い職場で、基本的には『今後の仕事のために知識を身につけたい』『コロナ禍で少しでも役立ちたい』という人が多い印象です」
だが、国内のワクチン接種は先行の医療従事者すら順調とは言えない状況。日給10万円の報酬で、緊急時に備えてオンコール勤務の医師も待機する体制を整えているが、4月までは電話もほぼ鳴らず、意図せず”暇で割のいいバイト”になったようだ。
「当初はワクチン接種がもっと早く進む予定だったから多めに人を採用したと思うんですが、夜勤は特に暇です。ずっと新型コロナやワクチンに関する調べ物や勉強をしているけれど、流石にダレてくるときもあって。関係ないYouTube動画を観ている人も見かけたこともあります」
電話の件数も少しずつ増えているそうだが、「自治体のワクチン予約サイトや電話に繋がらない」など、予約システムの不具合に対するクレームや使い方に関する問い合わせが主だという。
「日勤の時に電話を受けると、政治批判や陰謀論の話をされることが多いです。夜勤では実際に先行接種した医療従事者や高齢者の方からの電話の確率が高いんですけど、件数としてはまだまだ少ない。夜勤だと早押しクイズ状態で電話を取れても2?3本、1本も取れない日も珍しくないです」
接種後の副反応に対応するという本領を発揮できない状況のようだが、副反応全般の相談窓口と間違われ、「持病のある自分でもワクチンが打てるか」といった相談を受けることもある。
「診療行為になると医師法に抵触するので、必ず『一般論として』という前置きをして、ワクチン供給元であるファイザーの見解などをお伝えしています。最終的にはご自身と主治医の判断にお任せするかたちになるので、難しいところなんですが」
ちなみに北村さんはすでに医療機関での仕事を退職しているため、ワクチン接種は一般接種が始まるタイミングで打つ予定だとか。国内のワクチン接種が早く進むことを願いたい。