ペットボトル飲料を持ち歩くのが「流行」だった時代がある。
このところ90年代ファッションが再評価されているが当時の流行で、今では到底考えられないものがある。それが「ペットボトル」である。なんと1993年ごろ、若者の間でペットボトルを持ち歩くのがかっこいいと思われていた時期があったのだ。(文:昼間たかし)
自主規制で禁止されていた500ミリペットボトル
ペットボトル飲料が一般的に売られるようになったのは実は1996年から。まだ登場から30年も経っていない。使われていなかった理由はシンプルで、業界団体が自主規制していたからである。
国のルールでは1982年から、飲料容器としてペットボトルを使えるようになっていた。
ところが、飲料メーカーの業界団体「社団法人全国清涼飲料工業会」ではゴミの増加を防ぐために1981年に1リットル以下のペットボトルの製造販売の自主規制を実施。そのため飲料でも大型サイズにしか用いられなかったため、普及が進んでいなかった(『毎日新聞』1996年5月29日付朝刊)。
しかし、1990年代に入ると状況が変わる。小型サイズのペットボトルに入っている海外からの輸入ミネラルウォーターが流行し始めた。輸入ミネラルウォーターは1987年2月にカルピス食品工業が「エビアン」の販売を始めたのをきっかけに需要が生まれた(『毎日新聞』1987年2月4日付)。
ペットボトル入りのため手軽に持ち運べることが話題となり、1993年には「ジュリアナ東京」で踊る若い女性達の間で扇子と並ぶ必需品として愛用されている。また同じく1993年にはジムノペティが「ペットボトルホルダー」の販売を実施。これが話題となり1993年の夏になると原宿では首からペットボトルを下げて歩いている若者たちの姿が目立つようになった(『読売新聞』1993年7月1日付朝刊)。
この輸入ミネラルウォーター、とりわけ「エビアン」の流行で500mlが知られるようになると国内でも工業会未加盟のメーカーが500mlのペットボトルの製造を開始。これに押される形で、結局1996年に工業会も自主規制を撤廃した。
そうして1996年500mlのペットボトルがまず登場。その後、350mlのモノも出てきた。では、なぜ350mlと500mlというラインナップだったかというと、それはおそらく缶飲料に合わせたということだろう。
「キリン」のサイトではアルコール飲料缶の容量が350mlと500mlになっている理由を、こう解説している。
もともと日本の飲料缶の容量は200ml、250mlが主流でした。一方、缶の先進国であるアメリカでは12、16オンス缶が主流でした。その容量が決められた経緯は不明ですが、アメリカ製の製缶機が輸入され、次第にアメリカンサイズ缶が普及していきました。現在の350ml、500ml缶は12、16オンスを切れがよい数値に変更されたものです。
ところで、このペットボトル導入当初から「リサイクル」が課題になっていた。
ちょうど1997年4月に「容器包装リサイクル法」が施行を控えていたこともあり、全国の自治体ではメーカーに対するペットボトルの空き容器の回収を要請。ところが同法では回収は事業者の義務となっていなかったため飲料、容器メーカーともに拒否の姿勢をしめした。
そこで東京都では条例で回収ボックスの設置、メーカーによる回収・運搬、処理と再商品化を義務づける条例を制定。各地でも同様の条例が作られ回収のシステムが構築されていった(『読売新聞』1997年1月25日付朝刊)。
日本ではペットボトルのリサイクル率は比較的高く、2020年度には88.5%だったそうだ。
ただ、全国清涼飲料連合会が都内のリサイクルボックスを調べたところ、中身の3割はペットボトル以外の異物だったという。つまり、ゴミ箱代わりに使われているわけだ。ボトル投入口を下から入れるタイプに工夫をしたボックスも開発されたとのことで、これが普及していけばリサイクル率はもっと高まっていくのだろうか……。いずれにしても、まだ新しいペットボトルという存在。これからも進化する余地はある。