東京で増えている「新規就農者」 30~40代の未経験者が相談機関の支援受け奮闘
IT企業勤務の夫が突如「農家になりたい」と言い出したという書き込みが、ネットで話題になった。テクノストレスに苦しむ若い男性が、農業に癒しを求めるケースが増えているようだが、現実逃避をしているだけという指摘もある。
ところが実際に、東京で農業を始める人は増えているのだという。それも、農家出身でも経験者でもない30~40代の人が多い。11月3日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)では、その背景と、新たに農業を志す人たちの奮闘を紹介していた。
「東京で農業」は販路確保に大きなメリット
東京・福生市のスーパーいなげやでは、地場野菜コーナーが人気で、開店と同時に次々と売れていく。ここに野菜を出荷しているのは、今年から農業を始めたという人が多い。いずれも中年と呼ぶにはまだ早い人たちばかりで、前職は「普通のサラリーマンで、パソコン使ってました」「営業でした」と明かす。
こうした人たちが増えている理由は、国や都の補助金などで運営されている「東京都農業会議」の存在がある。東京・立川市にあり、新規就農者の支援を行っている組織だ。窓口として相談を受けている業務部長の松澤龍人さん(47歳)は、希望者について笑顔でこう語る。
「平成22年(2010年)から、700人ほど相談を受けている。次から次に来るので、ほっとしていられない」
希望者は1年以上の研修のあと、農地を斡旋してもらい、農家としてやっていけるかの審査を受ける。こうして東京の新規就農者は、6年間で30人以上になった。「東京ネオファーマーズ」という共通ブランドも立ち上げ、スーパーなどに出荷している。
農業というと地方をイメージしがちだが、東京という場所柄は販路確保には大きなメリットだ。東京・瑞穂町で7年前から有機栽培の農園を始めた井垣さんは、「無農薬など(安心安全な野菜)を求めているお客さんの絶対数が多い」と語る。都心には、定期的に野菜の宅配サービスを利用する客も多い。
5年後の所得「年間300万円超」がノルマ
井垣さんは新宿で障害者福祉の仕事をしていたが、学生時代から農業をやりたい夢があり、結婚を機に実現した。しかし、支援を受ければ何もかもうまく行くわけではないのは、希望者の割に30人ほどしか実現していないことをみても分かる。
中学生のころから農業が夢だったという31歳の桐谷明香さんも、2年間の実地研修を受け、少ない農地の争奪戦をクリアした。農地の借り受けができても、5年後の所得が年間300万円を超えなくてはならない「経営計画書」を審査に通さなければ、始めることはできない。
桐谷さんは来年2月に結婚も控えており、婚約者の男性は「土日なら手伝える」と言っていたが、一緒に農業をやるという気持ちはいまのところなさそうだ。
最初に作った計画書は、松澤さんのダメ出しを受けつつ作り直し、審査会には無事に通っていた。支援側は、採算のアテもなくやる気だけで始めることの危険性を熟知しているのだろう。桐谷さんは涙を流して喜んでいたが、ここからが本番であり正念場だ。
相談機関には、全国農業会議所が開設した「全国新規就農相談センター」という窓口もある。番組が紹介したのは、いずれも収穫の喜びはもちろん、自然と共に体を動かすという働き方に魅力を感じている人たち。現実逃避でなく、農業を生業とするためにしっかりした考えと準備のもとで働く若者たちが印象的だった。(ライター:okei)
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