通勤時間も「労働時間」とみなしてもらえる!? 欧州司法裁判所が画期的判決を下す
みなさんは毎日、どのくらいの時間をかけて職場に通っているでしょうか。東京であれば片道1時間、往復で2時間以上かけている人も珍しくありません。もしもこの時間が「労働時間」として認められたら、どんなにありがたいことか。
ところがヨーロッパでは、これが実現しそうな動きがあります。9月11日付のEntrepreneurによると、欧州15カ国が加盟する欧州司法裁判所は、仕事場への通勤に費やされる時間を労働時間とみなすという判決を下したそうです。(文:夢野響子)
ただし「一定の仕事場を持たない労働者」にのみ適用
ただしこの判決は、電気技術者など一定の仕事場を持たない労働者に適用されるもの。毎日同じ職場に通っている普通の会社員の話ではありません。
ルクセンブルグの欧州司法裁判所が9月10日に下したこの判決では、自宅からその日の最初の顧客へ行くまでの時間と、その日の最後の顧客から自宅へ戻るまでに費やされた時間は、労働時間の一部だとみなされることになります。
この判決は、作業場所までの移動時間を考慮しないことは「労働者の安全と健康を守るという目標を危うくする」としています。ヨーロッパの被雇用者は、週48時間以上働くことができない「EU労働時間指令」に守られています。そのため何が労働時間に含まれ、何がプライベートな時間と見なされるかは重大な問題になるのです。
なお、この判決はスペインのセキュリティ企業Tyco(タイコ)社に対して下されたもの。同社はスペイン全土に盗難防止セキュリティシステムの設置や管理をしていますが、2011年に国内のすべての支店を閉鎖し、従業員全員をマドリードの本社に集めました。
同社の技術者は割り当てられた地域の家や商業施設で働き、一定の仕事場を持ちません。彼らは毎日会社の車を使って作業場所へ行き、夜に帰宅します。家から作業場所までの距離は時には100キロを超え、片道3時間かかる場合もあります。
会社は「最初の顧客から、最後の顧客まで」を労働時間としていた
同社はこの移動時間を勤務時間と見なしておらず、技術者の勤務時間は「その日の最初の作業場所への到着時から、最後の作業場所を離れるまで」としていました。
しかし支店の閉鎖前までは、勤務時間には従業員が「朝支店に車を取りに来た時刻から、夜車を返しに来た時刻まで」が含まれていました。今回の判決の主な理由は、従業員の安全と健康を守るために、十分な休養時間を与えることが必要だということです。
また判決には、顧客への移動時間は仕事に不可欠なため業務と見なされるべきであること、支店閉鎖以前には支店を出た時刻が勤務開始と会社も認めていたこと、従業員がマドリードの本社から働くことになったのは彼らの希望によるものではなかったこと、なども考慮されました。
ちなみに米国では、このケースと同じような通勤時間であった場合でも、会社の指示で通勤途中に現地のサプライヤーから供給物を受け取るなどの特別な場合以外、労働時間とは見なされていません。今回の判決は画期的といえるでしょう。日本で同じような働き方をしている人には、会社との交渉材料になるかもしれませんね。
(参照)European Court Rules That Commuting Time Is Part of the Workday (Entrepreneur)
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