「逃げ恥」原作者・海野つなみと水無田気流が「呪いと幸せ」テーマに対談 「どういう風に幸せになりたいのか、考える必要ある」 | キャリコネニュース
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「逃げ恥」原作者・海野つなみと水無田気流が「呪いと幸せ」テーマに対談 「どういう風に幸せになりたいのか、考える必要ある」

昨年秋にドラマ化された漫画『逃げるは恥だが役に立つ』。大学院を出て派遣切りに遭った主人公・森山みくりが、会社員の津崎平匡と契約結婚し、家事をする代わりに給与をもらうという設定が話題を呼んだ。

NPO静岡県男女共同参画センター交流会議では9月16日、「『逃げるは恥だが役に立つ』から学ぶ幸福論」と題したトークイベントを、静岡県男女共同参画センター「あざれあ」で開催した。原作者の海野つなみ氏と社会学者の水無田気流氏が登壇し、作品のエピソードを振り返りながら、自らの内側や世間に潜む「こうあるべき」という強い規範や、幸せについて考えた。

「夫婦はこうあるべき」「男性はこうあるべき」が強すぎる

「逃げるは恥だが役に立つ」原作者・海野つなみさんの自画像(画像はご本人から提供いただきました)

「逃げるは恥だが役に立つ」原作者・海野つなみさんの自画像(画像はご本人から提供いただきました)

社会学者の水無田気流さん

社会学者の水無田気流さん

水無田さんは日本社会の問題点として「男性女性といった性差が、当人の個性よりもライフコースに与える影響が大きすぎること」を挙げる。家事と仕事をどう夫婦で分担してするか、各家庭の事情や方針で決まるのが望ましいため、家事が好きで得意な人が進んで専業主婦(夫)になる形は、一つの選択として「あり」だという。

しかし、家事が苦手なのに「女性だから」という理由で担わされる人は多く、「男性だから」という理由で専業主夫になるハードルは高い。当人の個性や適性、好き嫌いを凌駕するくらいに、「夫婦はこうあるべき」「男性はこうあるべき」といった空気が強すぎるとの水無田さんの主張には、海野さんも頷いていた。

「家族全員がお互いに事情を理解し納得しているならいいと思うんですけれど、暗黙の内に誰かに一方的に比重がかかっていたり、しんどい思いをしているっていうのは、それはもう家庭とは関係なくおかしいことですよね。共同体の問題として、みんなで解決すべきだって思いますね」

性別を理由に女性の家事労働負担が大きくなるのと同様、男性に家計責任の負荷がかかり過ぎている実態もある。経済事由による自殺は40~50代の男性が多い。海野さんは「女性に家事負担が偏重している問題を考えるときには、男性の背負っている問題もセットで考えないといけないと思います」との思いを述べる。

「百合ちゃん」のエピソードを通して見る、女子にかけられた呪い問題

みくりの叔母であり、独身のキャリアウーマンとして登場するキャラクター「百合ちゃん」のエピソードに触れながら、内に外に潜んでいる「呪い」についても考えた。彼女は風見という年下男性と親しくなるが、二人の関係について、年下の女性から「若い男の子相手に必死ですよね」との皮肉を言われる。百合ちゃんはこれに

「自分が馬鹿にしていたものに自分がなるのは辛いわよ。『かつての自分みたいに今周りは自分を馬鹿にしている』と思いながら生きていくわけでしょ。そんな恐ろしい呪いからはさっさと逃げてしまうことね」

と返すのだが、このやり取りには「ギャグで『私ババアだから』と発言したら、相手に『私のほうがもっと年上よ』と返されたことがあった。そこで初めて「失礼なことを言ったなとはっとした」という海野さんの経験が反映されている。

年齢の規範に囚われることなく自分らしく年を重ねている女性のロールモデルを目にすることは少ないが、「そういう人がたくさんいるんだよって、もっと広まったらいいと思いますね」との思いを語る。

百合ちゃんが「私みたいな人も必要でしょ。結婚しないと子どもがいないと不幸っていう強迫観念から、若い女の子を救ってあげたいな」と言いながらも涙を流し、風見に慰められるシーンも、海野さん自身の体験がベースだ。結婚も出産もしなかった自身の生き方を振り返り「それでも色々がんばった。誰かが、こういう生き方もいいなと思ってくれたら嬉しいなあ」と考えていた時、

「心の中で『そんなこと言わないで』って声がして。びっくりして、どうしてそんな風に思うんだろうって考えていたら、泣けてきちゃったんですよね」

適齢期に結婚して子供を産むべきという考えは固定的だと思う一方、心のどこかにその規範がこびりついている、という矛盾を抱える女性は少なくないようで、読者や視聴者からも共感の声が届いたという。

組織に所属して働くだけが「仕事」ではない

イベントでは、働き方や幸せの多様さについても話が及んだ。働く=会社への就職と考えがちだが、自分に最適な形で幸せに生きていくことを目標とすると、就職は絶対の正義なのか、という問題提起だ。海野さんは

「直接お金は貰えなくても、自分の負担を一部肩代わりしてもらうことができて、生活が回っていくのであればそれはそれで良いんじゃないかなと。就職しなければいけないといった強迫観念に取りつかれてしまうと手も足も出ませんが、ちょっと視点を変えたら、生きていくことは出来るんじゃないか、とか思います」

との考えを表明。大学教員でもある水無田さんは、就職活動に追い立てられていく学生を近くで見ていて「『みんなやっているから』ではなく、自分が社会の中でどういう風に生きていきたいのか、どういう風に幸せになりたいのかを考える必要はありますよね」と、常々感じている歯がゆさと共に意見を述べた。

イベントを主催したNPOは講演会の意図を「女だから、男だから、夫婦だからこうあるべき、という固定観念の殻を破ることで、来場者がそれぞれの幸せの形を見つけるきっかけを作りたかった」と明かす。会場に来ていた人からは

「今年の前半に就職活動をしていたとき、もやもやして気持ち悪さを感じていた。講演を聞いて、色んな生き方があって当たり前なんだともう一度確かめることができた」(20代・女性)
「普通ってものが強制されなければ、色んな人が生きやすくなるのになあと思った」(20代・女性)

などの感想が寄せられていた。

台風接近中にも関わらず、多くの人が集まりました。

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