どうなる?アフターピルの薬局販売 「望まない妊娠を減らすためには市販薬にすべき」と医師は訴える
コンドームが外れたり、膣外射精に失敗したりしたときに、女性が服用することで後から妊娠を阻止できるのがアフターピルだ。いくつか種類があるが、日本で唯一承認されている「ノルレボ」の場合、避妊に失敗してから3日以内に服用しなければならないという特徴がある。
久住さんは、「医師の処方箋が必須だと、病院が開いていない連休や年末年始に必要になった場合、3日という期限に間に合わなくなる危険があります」とOTC化が必要な理由を説明する。たとえ連休でなくても、金曜日の夜に性交渉をした場合、月曜日の夜までに病院に行く必要がある。どうしても仕事を休めない場合はどうするのだろう。
また北陸地方の村出身の久住さんは、地方では特にOTC化が必要だという。
「地方では、知り合いが産婦人科に勤めていたり、同じ病院を受診したりしていることも多く、プライバシーが守られないことがあります。『誰々さん家のお嬢さんが産婦人科に来ていたわよ』なんて噂されてしまうんです。非常に来院しづらいと思いますよ」
一般からもOTC化を求める声が上がっている。今年9月~10月に厚労省がパブリックコメントを募集したところ、賛成意見は320件、反対意見はわずか28件だった。賛成する人からは、
「海外で処方箋なしで購入できるのに、本邦で認められないのはおかしい」
「連休中や週末の場合、72時間を過ぎてしまうことがある。いつでも避妊薬にアクセスできることは、女性の権利である」
といった意見が寄せられた。
アフターピルの妊娠阻止率などは「医師でなくても説明できる」
アメリカやイギリスといった先進国の多くではすでに市販薬として販売されているアフターピル。しかし今年7月に開かれた厚労省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」では、OTC化への反対が相次いだ。
「緊急避妊薬がOTC化されると100%妊娠を阻止できると、一般の方が誤解されるのではないかと危惧します。(中略)そのことまで薬剤師の方がしっかり説明できるとは思えない」(矢野哲、国立国際医療研究センター病院)
「薬局やドラッグストアの店内で適切な性教育が行えるとは到底思えません」(鈴木邦彦、日本医師会)
つまり、医師が薬について説明したり、性教育を行ったりする必要があるというのだ。11月中旬に開かれた第3回の検討会で出された結論はまだ公表されていないが、見送られた可能性が濃厚だ。こうした意見について、久住さんは、
「私のクリニックでは、アフターピルを処方する時に説明書をお渡ししています。説明書には、『日常的な避妊法として用いるべきではありません』『月経が1週間以上遅れた場合は、妊娠していないか確認する必要があります』といった注意が書いてあります。これは医師でないと説明できないことでしょうか」
と批判する。「単に処方する権利を手放したくないだけでしょう。仕事が減るのが困るんですよ」というのが久住さんの見立てだ。
実際に患者に手渡しているという説明書には、他にも『性感染症やHIVを防御しません』など様々なことがわかりやすく書いてある。たとえ医師から対面で説明を受けなくても、こうした説明書をもらったり、薬剤師に説明してもらったりすれば何の問題もないだろう。
「年間で約17万件の中絶を減らすためにも、アクセス改善が必要」
「日本では1年間に約17万件もの中絶が行われているんですよ。女性が薬を飲むことで、中絶を減らせるのであればそちらの方がいいと思いませんか」
厚生省が10月下旬に発表した「衛生行政報告例の概要」によると、2016年の人口妊娠中絶件数は16万8015件となっている。年齢別に見ると、最も多いのは20~24歳の3万8561件だが、19歳でも6111件、18歳でも3737件の中絶が行われている。
中には、中絶に抵抗がある、中絶ができない妊娠23週目に突入してしまったなどの理由で望まないまま親になる人もいる。
「もちろんそれでも親として立派に子どもを育て上げる人もいます。しかし結婚や出産への準備が不十分なまま結婚し、離婚してしまう夫婦もいます。母親が子どもを引き取ってシングルマザーになれば、貧困に陥る可能性があります。日本では、貧困家庭の子どもは十分な教育が受けられず、貧困層から抜け出せないことが多い。アフターピルにアクセスしやすくし、望まない妊娠・出産を減らすことは、子どものためでもあるんです」
久住さんが理事長を務める医療法人社団・鉄医会は、立川・新宿・川崎でナビタスクリニックを運営している。内科であれば平日は21時まで、立川・川崎では土曜日も、新宿では日曜祝日も診察を行っている。アフターピルは、1万円以上する「ノルレボ」以外にも、9000円の「エラ」を処方している。