黒毛和牛にミラノ料理――イタリア人の「保守的な食」に殴りこみをかけた2人の日本人
陽気で人懐っこい印象のイタリア人だが、こと「食」に関しては保守的なところがあるようだ。北イタリアのミラノで「あなたの好きな外国料理は?」と聞くと、
「他の国の料理は食べないよ、イタリア料理が一番」
「伝統的なミラノ料理があれば他はいらない」
と答えるという。郷土料理が一番で、スターバックスやケンタッキーも進出していない。2015年1月5日放送の「未来世紀ジパング」(テレビ東京)は、そんなイタリア・ミラノに黒毛和牛をひっさげて焼肉店を開業したヤザワミートの挑戦を紹介した。
赤身肉イチバンの国に霜降り和牛を
イタリアで牛肉といえば、分厚い赤身の表面を焼いて食べるのが主流で、日本や韓国の焼肉のようにテーブルで焼く文化もない。そこに東京都内を中心に14店舗を展開する人気焼き肉店「ヤザワミート」が、昨年12月にミラノに「矢澤」を出店。社長の稲田智己さん(34歳)は進出の意図をこう明かす。
「イタリアは食文化が豊富で、自分たちの郷土料理を大事にする。その中で日本の黒毛和牛がすごいと認められれば、ヨーロッパでは全部認められるかなと」
使うのは最高級の黒毛和牛A5ランクの肉で、薄い霜降りの肉を片面3秒で焼きあげる。厚い赤身肉に慣れたイタリア人に受け入れられるのかという不安は、稲田社長の表情には全く見えない。
日本から届いた群馬産黒毛和牛の少し触れば溶ける脂身の様子を見せて、「これが口の中でわっと溶けるんです」「肉を食べたときのイタリア人の反応が想像できる。びっくりするでしょうね」と自信満々だった。
予想通り、開店初日に集まったイタリア人セレブたちは幸せそうに肉をほおばっていた。ミラノで人気のレストラン、カーザ・ルチアのオーナーは食べた感想も言わずに「早くおかわりを下さい」と言い、連れの女性は「私はいま天国をみたわ」と満足そうに話した。
ローマ料理を追求「差別というものを初めて感じた」
「ローマ料理をイタリア料理でひとくくりにしちゃダメよ」と笑いながらも厳しく話すのは、ローマの市場で魚を売るおかみさんだ。イタリア人は生まれた地域や住む地域に誇りと自信を持っているため、「イタリア料理とローマ料理は違う」という話になる。
ローマにあるイタリア料理店のシェフ、中井昴児さんは「この店に来て、差別というものを初めて感じました」と苦笑いしながら語る。「アジア人のくせに」「何ができるんだ」と毎日言われ、口にする前に「まあ、食べてやるか」という態度を取られる。
しかし中井さんが作るローマ料理・カルボナーラは、現地で「本格的」と大人気になり、イタリアで有名なグルメガイドに2年連続掲載された。「日本人が開いたローマ料理の店が成功すると、誰が予想しただろうか?」とまで書かれている。
日本人がイタリア料理を「パスタ、ピザ」とひとくくりにすることについて、MCのシェリーが番組ゲストのジローラモさんに「イラッとしているのでは」と振ると、「僕は慣れているけど、慣れてないイタリア人は『何だこれ』と思う」と率直に答えた。
天国を見られるのはセレブだけでは
番組ナビゲーターの山口義行氏(立教大学経済学部教授)は、
「イタリアに外国料理が進出するのは難しいが、一度認めればアレンジを加えたりせず、そのままの形で受け入れてくれる国でもある」
と解説し、日本の高級旅館をそのまま模したイタリアの人気旅館も紹介した。イタリアの役所の許可がなかなか下りず苦労した「矢澤」のテーブルロースターも、「イタリアにはないもので楽しい」と好評だった。
それにしても、矢澤ミラノ店の開店に集まったのは、人気アナウンサーや元サッカー選手などの超セレブたち。A5ランクの黒毛和牛の美味しさは世界共通だと分かったが、日本の庶民にも縁遠い高級品は、イタリアでもあくまで富裕層向けの食材のようだ。(ライター:okei)
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