元商社マンが牽引する関西ペイントの「グローバル戦略」 南ア子会社には日本人ゼロ | キャリコネニュース
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元商社マンが牽引する関西ペイントの「グローバル戦略」 南ア子会社には日本人ゼロ

自動車や列車、家や壁など様々なものに使われる「塗料」は、美観だけでなくサビ止めや遮熱効果などの機能も備える。2015年1月29日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、塗料の分野で日本のトップシェアを走る「関西ペイント」を紹介した。

2013年に社長に就任し、関西ペイントを率いるのは、12年前に三菱商事から引き抜かれた石野博氏だ。社員いわく、石野氏は「会社の空気を変えた男」。毎朝の日課は新聞各紙をチェックし、気になる記事を見つけると次々とスマホで撮影。塗料に直接関係なくても、商品開発に結び付きそうなものを見逃さず、担当に送りつけるのだ。

世界市場は陣取り合戦「あと5年が勝負」

「やっぱりスピードですよね。アクションを早くしないと(他社と)同じレベルになっちゃう。差別化できない」

関西ペイントのウェブサイトより

関西ペイントのウェブサイトより

石野社長はこう言うが、山のようなメールを受ける製商品企画室の杉島さんは、すぐに検討して結果を返さなくてはならない。「たいへんです」と笑いながらも「細かい視点で入り込んで助言してくれる社長はいなかった」と称賛する。

国産車の塗料で50%のシェアを誇るが、リーマンショックで自動車の売上が落ちた際には大きな痛手を受けた。石野社長は危機感を抱き、日本古来の漆喰を割安で使えるよう塗料化するなど、他社にない差別化で建築塗料の売上比率を17%から26%に引き上げた。

もとは世界中を飛び回っていた商社マンだった石野社長は、海外市場の開拓を期待されて入社した。「世界のマーケットは陣取り合戦。あと5年が勝負」と語る石野社長は、スピード重視で世界を攻める。

ターゲットのひとつ、サウジアラビアは厳格なイスラム教の国で、海外企業の参入は難しいといわれる。しかし石野氏は2008年、サウジ最大手のゼネコン「ビンラディングループ」と合弁会社を作った(創業者はあのウサマ・ビン・ラディンの父親だが、息子とは縁を切っておりテロとは関係がない)。

出資比率は4割と主導権は握らず、「信頼の置けるパートナー」として市場に参入。塗料700トン、工期7カ月でメッカにある礼拝堂を塗装する巨大プロジェクトも獲得した。

世界36か所のグループ企業で情報共有

また南アフリカでは「競争相手がいない間に旗を立ててブランドを樹立する」として、2011年に南ア最大手ブランドを買収し、93%を出資して子会社化した。その社内を訪ねると、現地の日本人社員はゼロだ。なぜ置かないのかと石野社長に聞くと、

「必然性がない。日本人が行くと、その国のことが分からないから押し付けになるし、学ぶのに時間がかかる。我々にそんな時間はない」

南アのカンサイ・プラスコン社長に抜擢されたのは、グローバル企業出身でパキスタン人の38歳、ノーマン・マリック氏だ。彼は石野氏から「君たちが重要だと思うことをやってみろ」と言われている。

現地スタッフの発案で「塗料専門のショールーム」を作り、専門のスタッフが無料で相談に乗っている。自分で家を塗り替える習慣がある南アフリカならではの戦略だ。日本式にはこだわらず現地に一任することで、売り上げを大きくのばしている。

こうして、石野氏が入社する前は2割程度だった海外での売上が、6割近くを占めるまでになった。番組では、世界36か所にあるグループ企業の代表者が集まる会議の様子も紹介。それぞれが現地で開発した商品や生産方式などを発表し、グループ内で共有していた。

現地との信頼関係がスピードを生む

この会議で共有された蚊よけ塗料は、マラリア対策として南アで開発したが高価なためヒットしなかった。ところがこれがデング熱で150人もの死者を出したマレーシアで大ヒット。マレーシアのマーケティング担当者は、

「ニーズに合った商品を素早く投入できた。開発費もかからない」

と喜んでいた。売り上げは今でも伸び続けており、東南アジアやインドからの引き合いも増えているという。

村上龍も編集後記に書いていたが、石野さんは「日本の生産レベルが抜きん出て高いというのは幻想」と言い切ったという。グローバル化は、エゴを捨てて信頼を共有することが大切だという。相手を信頼することで、石野社長が求めるスピードが効率よく実現するということが印象的だった。(ライター:okei)

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