「トヨタの人事を3年で辞めた」のは間違いか? ”昭和的”な労働観では計りきれないこれからのキャリア

筆者は、飲食店アルバイトから派遣社員を経て、IT系企業の出版子会社ではじめて正社員になった。そこでの業務は営業がメインながら、イベント企画やWebサイト運営、広告進行、電子書籍化の推進などにも携わり、濃密な時間を過ごせた。ただ、複数の部署にまたがったプロジェクトが多く、人事評価が明確でなかった上に長時間勤務が常態化。Webサイトの構築・運営を専門的にやりたいという思いがあったこともあり、3年弱で退職をした。

その後、家具を扱うITベンチャーに転職してから、激務で心身を壊して1年半ほどで辞めた。次の会社では半年で解雇され、おりしもリーマンショック後の不況の影響で転職先が1年以上見つからず、副業だったライター職が本業になったという経験をしている。そのため、結果論ではあるが「あの時にIT系企業を辞めていなかったなら」と思うこともある。

冒頭のエントリーに対しては、「将来、生涯年収に差が出るのでは?」という声も上がっていた。トヨタの平均年収は865万円で、賞与(ボーナス)が他社より高いことに加えて、家族手当など福利厚生も充実している。一方で「若いうちはなかなか給料が上がらず、どんなに優秀でも横並び」という声もあるので、入社数年ではそのような恩恵をなかなか実感できないのかもしれない。

大企業ほど部署異動でシャッフルされる可能性はあるが……

現在、トヨタはNTTと共同で東富士工場跡地(静岡県)を利用した実験都市「Woven City(ウーブンシティ)」構想を進めていており、かなり大規模な「スマートシティ」の実現に動いている。仮にこのような新規性の高いプロジェクトに参加できたなら、また違った道を選んだのではないだろうか。

一方で、サイボウズの平均年収は585万円だが、社歴の浅い社員でも活躍しているケースが多く、「やりがい」という意味では魅力的に映ることもあるだろう。ただ、私が働いていた時もそうだったが、IT企業では査定や評価があいまいなケースが多く、サイボウズでもそのような理由で退職したということが口コミサイトでは目立つ。

とはいえ、働き方改革を率先して進めている同社。多様な働き方が認められ、リモートワークも早くから実施している。無理がなく「長く働ける会社」とみなすこともできるだろう。

このエントリーの投稿者が指摘する日本企業に蔓延る「閉塞感」については、「トヨタ独特の空気がある」という声があったが、それはどのような職場にも多かれ少なかれあるものだ。部署のリーダーによって左右される要素が大きいし、人事や昇給制度の整備の度合いによっても働くモチベーションに影響する。

とはいえ、大手の企業ほど部署異動があってシャッフルされる機会があるので、「数年我慢する」ことにより環境が改善する可能性がある。むしろ、ITやベンチャー企業の方が部署ごとの交流が少なく組織が硬直化していき、それが元で退職するケースも散見される。

大事なのは時代、社会状況に合わせながらキャリアを歩んでいくこと

「閉塞感」のあるなしや、「やりがい」といったウェットな要素を重視するか、それとも期待される「生涯年収」を軸にしてキャリアプランを考えていくのか。現在の日本の職場環境ではどちらを選ぶのかという二項対立になりがちだ。若いうちから「仕事をしている実感を得たい」ということならば、ベンチャー企業やフリーランスで働く方が向いているし、一方でライフワークバランスを重視するならば、長い目で見て大手企業で実直に働くという選択がプラスになるように感じられる。

しかし、今後の景気の変化によっても企業の状況は変わる。先のことを見通すのは難しいものだ。新型コロナウイルス感染症の流行により、その時の社会状況にどのようにアジャストしていくのか、ということが企業だけでなく個人にも求められるようになっている。自分の職場の環境に疑問を持ったまま働くことがメンタルヘルスに影響する可能性も否定できない。今回の「閉塞感」を理由に退職するという選択が「間違い」だと見なすのは一面的に過ぎるだろう。

ただ、家庭を築いて家や車を買うといった昭和的な人生を歩むことこそが「幸福」と感じる人はまだまだ多い。今回のエントリーは、そういった「労働観」にも一石を投じたことに意味があったのではないだろうか。