ライフエンディング業界のDX事情 葬儀会社もネットで選ぶ時代へ | キャリコネニュース
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ライフエンディング業界のDX事情 葬儀会社もネットで選ぶ時代へ

よりそうの篠崎新悟副社長

さまざまな業界で急速に進むDX(デジタルトランスフォーメーション)。デジタル技術による生活やビジネスの変革を指す言葉で、昨今大きな関心を集めており、今や書店には多くのノウハウ本が陳列されている。

ところが、ライフエンディング領域のサービスをワンストップで提供するよりそうの篠崎新悟副社長は「ライフエンディング市場はDXのスピードが遅かった領域だなという風に思っています」と印象を語る。今回は、人材業界に精通しているmorichの森本千賀子代表が、躍進を続ける同社の事業について深堀りした。(構成:キャリコネニュース編集部)

喪主の大半が高齢「ネットが広がりにくかった」

morichの森本千賀子代表

森本:ライフエンディング市場で”DXのスピードが遅かった”理由は何でしょうか。

篠崎:対峙しているお客様が喪主様中心になりますので、年齢層で言うと、40~70代で他の産業と比べて、年齢層が高めのお客様になります。したがって、ウェブテクノロジーが広がりにくかった背景があります。

そして2点目に、この産業のフリークエンシー(編注:接触頻度)が低いことが挙げられます。日本の国民性としても、少し距離を置いて「死はネガティブなもの」という風に捉えられる方もいらっしゃるくらいですから、死をあまり考えないようにする文化も含めて、フリークエンシーが低いと言えるのはないでしょうか。

さらに、業界の中でテクノロジーを多数活用したり、生産性を高めたり、顧客満足度を高めたりしようとする会社の数がまだ他の産業と比べて育ち切っていないとも感じています。この3つの掛け合わせで、なかなかこの産業にDXによる進化、パラダイムシフトが起こりにくかった、という風に捉えています。

森本:今後よりそうが解決していく業界課題についてどのようにお考えでしょうか。

篠崎:お客様の立場に立つと、情報の非対称性が非常に高いと考えています。価格やその裏側に紐づくサービスを見ても不透明だったり、分かりにくい現状があります。

2点目は、サービスの品質が上がりにくい状況です。他の業界ではウェブ化が進んでいますので、お客様にとってはサービス提供会社の品質を口コミなどでチェックすることが当たり前のような状況になっていると思います。

そして、一括サポートがないことも大きいと思っています。どなたかお亡くなりになった方がご家族の中であった場合、喪主様の立場からすると、「どこの葬儀会社・斎場を選べばいいのか」から始まり、喪主として葬儀当日にどう立ち振る舞ったらいいのか、その後は「初七日」「香典返し」「位牌」「仏壇」「お墓」「散骨」「相続の手続き」など今までに経験したことのない意思決定ごとがずらりと並びます。

これに対して、お客様が今どうしているかと言うと、DXを使ったワンストップのサービスが世の中にはまだ成熟しきっていないので、お客様が個別に情報を取りにいき、非常に遠回りな意思決定をせざるを得ないケースが多いな、という風に思っています。

森本:葬儀社・斎場などが抱える課題はどういったものでしょうか。

篠崎:パートナー様の動きとしては、集客効率が悪くなっています。これは昨今の新型コロナウイルスの影響で、参列者の数がどうしても減りやすい状況になっていることが背景にあります。すると、葬儀の売上単価がやはり落ちやすいです。

さらに、ウェブ集客のボリュームが少しずつ増えてきているということもあります。今までそこに経験を積んでこなかった会社様からすると、集客効率が悪化しやすい状況になってくるということもあります。

業界の生産性に関しては先程DXの話もございましたが、顧客管理などのインフラ整備に手が回らない会社様が非常に多く、大半が紙・FAXで運用されています。業界の生産性を上げるために、我々のようなIT系のプラットフォーマーが業務効率改善の解決策を提案していくべきだなと思っております。

また、宗教儀礼の形骸化が進んでいる中で、今の時勢に合わせたような儀礼の在り方も開発されていくべきだと思っているんですけど、ここがなかなか開いていきません。例えば、香典・香典返しの在り方とか、あとは葬儀の当日でも、実際にお悔やみに行きたいけど、行けない方が「オンラインで参列する」みたいなやり方はもっと広がると良いなと考えています。

そういうことを含めて、我々はお客様に圧倒的に分かりやすく、満足度の高いサービスをワンストップで、そしてパートナー様には送客支援だけでなく、業務系支援と現状に即した宗教儀礼をつなぐという役割を担いながら、最終的には業界を丸ごと変えて、DXで業界進化に導きお客様への提供価値を高めることにつなげたいと考えています。

キーワードは「ワンストップ」

森本:改めてよりそうの事業について教えてください。

篠崎:先程も”ワンストップ”というキーワードはお話させて頂きましたが、葬儀の後だけでなく、前の部分でも「終活」という形でさまざまな意思決定ごとがありますので、我々はこうした終活・お葬式・供養を「納得できる、ちょうどいい価格と品質でサポートさせて頂く」というコンセプトで事業を展開しています。

森本:ビジネスモデルについてもお願いします。

篠崎:我々は「よりそうお葬式」をはじめとした各サービスを、”元請けパッケージ型”で提供させて頂いております。お客様からご依頼を頂く時に「葬儀会社様のプランを比較して決めて頂く」のではなく、よりそうのプランを提供させて頂いています。なので、基本的にはよりそうに売上が立ち、手数料を頂戴しながら、パートナー企業様に委託料をお支払いするようなビジネスをしています。

では、「なぜそうしているのか」という話ですが、まず”商品企画”の部分で、お客様にとって他のイベントごとと圧倒的に違うのは、検討期間が非常に短いことです。しかも、そこに紐づくお客様の意思決定のタイミングは、ご自身では決められないこともあります。そうした時に比較の価値がなかなか行きにくい市場において、我々はしっかりとマーケティングをさせて頂いて、「今はこのサービスが最良である」というものをプランニングさせて頂いてご提供することに拘っている、というのが1点目です。

次に、葬儀の後にずらりと意思決定ごとが並ぶような市場は非常に珍しいな、と思っています。ここに我々は課題感を感じていて、やはりワンストップで提供させて頂くことに価値があると考えてはいるものの、反響だけ送るような仲介的な役割のメディアを運営していると、ワンストップでお客様を支援することは難しいと考えているので、我々は元請けパッケージ型でやらせて頂いています。

具体的には、提携の葬儀社の空きキャパシティを活用させて頂きながら、我々としては提供価格の低価格化を実現させて頂いております。例えば、葬儀のプランにおいては全国の平均が約120万円なのに対して、半分以下の金額感でパッケージプランを提供させて頂いているという状況になります。

葬儀の施行件数は「コロナ禍でも大幅伸長」

森本:直近の業績について教えてください。

篠崎:サービス全体の施行件数は堅調に伸びてきている状況でありまして、特に「よりそうお葬式」の施行件数は大幅に伸長しているという状況でございます。

やはり各業界で新型コロナの影響は受けておりまして、我々も一定レベルは受けています。「よりそうお葬式」においては、緊急事態宣言などが出ていると参列者の数を絞りやすいので、全体の単価は落ちやすい傾向がありました。

あとは、「よりそうお坊さん便」という僧侶様の手配サービスをさせて頂いておりますが、やはり法事・法要の件数は、緊急事態宣言などが出ていると減りやすいのです。ただ、直近においては前述のような堅調なサイクルに入ってきている状況でございます。

森本:今後はどのような挑戦をしていくのでしょうか。

篠崎:我々は全国でサービス提供させて頂いておりますが、大都市圏中心にウェブ化、葬儀ニーズの変化が先行して進んでいると捉えています。そのようなエリアを主軸に家族葬のご提供を強化していきたいと考えています。

加えて、会員化です。多数のお問い合わせを頂戴する中で、いかに会員機能を強化して会員になって頂き、葬儀だけでなく周辺領域のお困りごとにも支援する戦略を進めたいと考えています。

また、業界DXを支援する動きも強化していきます。

森本:今後の市場の成長性に関してどのように見ているでしょうか。

篠崎:まず、市場規模は4兆円と見ています。特に、お亡くなりになる方の推計で言うと、2020年には140万人ほどお亡くなりになる方がいらっしゃいます。今後、基本的には2045年くらいまで増えていく推計になっており、国内のGDP成長が先々危ぶまれていく中で、この市場は分かりやすくマーケットサイズが上がってくる状況かと捉えています。

国内だけでなく、グローバルで見ても今後100年間の成長市場だと捉えておりまして、日本は諸外国よりも早めに高齢化社会を迎えている状況になります。なので、国内で我々がライフエンディング事業を強化し、そこで作っていく価値が先々グローバルにおいても求められていく可能性が高いなという風に思っています。

今すでにアメリカ、イギリスでは、この領域のビッグカンパニーがプレゼンスを発揮し出している事例があります。

そんな状況の中、葬儀市場は上位5社でもシェアが約1割という状況でございまして、地場産業であることが分かると思います。火葬場とか斎場が基本的には地元にあるところにお願いするので、この構造はもはや必然だとも思うのですが、一方で市場にリーダーが存在せず、業界のスタンダードも存在せず、ITリテラシーやDXが進んでいないという構造だと思っているので、我々としてはリードしていきたいと考えています。

森本:今後、ウェブ化はどのように浸透していくとお考えでしょうか。

篠崎:今後、ウェブ化・ネットの普及はより進んでいくと思います。ただ、このスピードは遅いです。プラットフォーマーを通過したお客様の成約件数は、全体でみても5%程度です。これは、例えば「家を買う」「転職活動をする」という市場では70%、80%の通過率だと思いますがまだ5%なので、ウェブは今後かなり広がる余地があると感じています。

プロフィール

森本千賀子
morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「マンガでわかる 成功する転職」(池田書店)、「トップコンサルタントが教える 無敵の転職」(新星出版社)ほか、著書多数。

篠崎新悟
2002年に新卒でアリコジャパン(現:メットライフ生命)に入社し、ダイレクトマーケティングビジネスに従事。2006年に株式会社リクルートに移り、住宅領域のポータルサイト(紙・webメディア)を展開するSUUMO事業に携わる。2014年に子会社である株式会社ホームプロの代表取締役社長に就任後、2017年より株式会社リクルートの戸建・流通・請負営業統括本部の部長を歴任。「社会の不」解消に取り組むため、2019年4月に株式会社よりそうのCOOに就任。

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