就活で一番怖いのが「実際に入社してみたら、印象が違った!」というケースだ。仕事以前に、職場の雰囲気が自分には合わなかった……というようなことは起こりうる。そういう意味で、就職・転職はギャンブルとも言える。
ところが最近は「入社前に、職場の雰囲気を覗き見できる求人アプリ」があるという。それが「BUIVER」だ。仕事を探す利用者は、企業のライブ配信をみて、職場を擬似体験できるそうだ。
このアプリを作った株式会社BUIVER代表取締役の和木一広さん(27)にいろいろ聞いてみた。(文・コティマム)
アプリのリリースは2021年3月。「BUSINESS」と「LIVER(ライブ配信する人)」を掛け合わせた造語だ という。
2021年11月現在、230の企業が掲載されている。ようは求人メディアなのだが、そこに企業のライブ配信機能 が付いているのだ。
仕事を探している人は、アプリで動画を見て、気になる企業が見つかればそのまま応募できる。一般の登録ユーザーは現在のところ5400人。いまはiPhone版しかないが、2022年の夏から秋にかけてAndroid版もリリースするという。
「人事担当の1日」として猫カフェに行く動画を配信する企業も
ということで、和木さんに聞いてみた。
――企業は1日中配信もできるのですか?
和木さん:可能です。iPhoneを定点でセットして1日中オフィスの様子を流すのもありです。だいたい1週間に1、2本、5分から10分の動画をアップしている企業が多いです。
――企業はどんなライブ配信を行っていますか?
和木さん:最近はコロナ禍の緊急事態宣言が明けたので、ちょっとした飲み会や社内でのランチタイムの様子もあります。社長と広報担当、採用担当が長机に3人並んで、ホワイトボードにお題を出しながら答えていくテレビ番組のような企画をしている企業様もあります。動画内容に制限はつけていないので、いろいろな使い方ができます。もちろんコンプライアンスに違反するような内容には気をつけて頂いていて、僕たちもライブ配信が始まると全てチェックしています。
――各企業が配信担当者を決めるのでしょうか?
和木さん:企業様に付与したパスワードとログインIDが共有して頂けるので、iPhoneとパスワードとIDがあれば、社長でも新入社員でも誰でも配信できます。
――動画の撮り方や配信の仕方など、企業の色が出そうですね。
和木さん:人事担当が配信者となって、「人事担当の1日」と題して猫カフェに行っている様子を配信している企業様もありました。採用PRとしての意識は合っているものだと思います。「こういう人事担当がいますよ」「こういう人がいる会社で働きたい」と思ってもらうことが重要。人柄がわかるライブ配信なのですごくよかったです。
――ユーザーからはどんな反応がありますか?
和木さん:企業様からは「めちゃくちゃおもしろい」「SNSチックな『BUIVER』はバズる。バズる前の第一ユーザーとして使わせてもらう」といった声を頂いています。
また僕はTwitterのDMで新卒の人たちに「BUIVER」の宣伝メールを送ったり、大阪駅でリクルートスーツを着た子に声をかけてアプリを紹介していたんです。学生さんからは「今までにないアプリでおもしろい」と嬉しい反応を頂きました。今の若い世代は「インスタライブ」や「YouTube LIVE」などライブ配信に慣れていて、「映像化している方が情報をとりやすい」と喜んでもらえました。
「ケータイでインターンできたらいいのに」がキッカケ
アプリのアイデアのキッカケは、大学時代に遡る。
和木さん:大学2回生の時に焼肉屋のアルバイトをしていたんですが、バイト先の後輩がインターンに行くか迷っていて、「携帯電話の画面上で、映像を見ながらインターンできたらいいのに」って言ったんですよ。その瞬間「確かにな」って。「そういうサービス作ってみたい」と。当時冗談で「将来作ったるわ!」と言いました。
――その後、ホームページ制作会社に入社されたそうですね。
和木さん:大手の求人サイトで仕事を探して、「webマーケティング募集」という募集要項だったので、「かっこいいな」と思って入社。実際はマーケティング職じゃなくて営業でした。テレアポをガンガンしてました。求人サイトには華麗にパソコンを操るような写真や、「ノルマなし、給料高い」という甘い言葉が並んでいましたが、職種も写真も全然違いました。
――そこから今の会社に転職を?
和木さん:株式会社BUIVERは親会社の社内ベンチャーで生まれました。この親会社に前職時代の上司がヘッドハンティングされ、僕にも声をかけてくれたんです。その方が今、「BUIVER」の副社長です。
転職して1年ぐらいして、周りに転職活動や就活に悩む友人や後輩が出てきました。「求人と違って福利厚生が整っていなかった」「写真では仲良さそうだけど、実際に入ったら雰囲気悪かった」とか。
何かできないかと考えた時、焼肉屋時代の後輩の言葉を思い出し、「BUIVER」のサービスが頭に浮かびました。「作るんだったら今しかない」「ライブ配信は時代にも合ってる!」と思い、当時の社長に直談判しに行きました。2019年の12月に社長に伝え翌月から準備し、2020年6月には株式会社BUIVERを立ち上げました。今は僕を含め5人で運営しています。
ライブ配信だから広がる可能性「広報PRとしても活用できます」
――他の求人サービスにはない「BUIVER」の魅力や強みはなんでしょうか?
和木さん:やっぱりライブ配信に特化していること。中身のUI(ユーザーインターフェイス)をSNS風に仕上げているので、TwitterやSNSを見ている手軽さで使えます。
そのため掲載企業様はいろいろな使い方ができます。採用PR動画を作った場合は時間も費用もかかり、作ったらそのまま放置され情報が更新されないこともあります。でも「BUIVER」だったら、「社長がお昼ご飯おごってくれました」みたいな10秒程の動画も小出しに配信できる。ライブ配信サービスに慣れている今の若い求職者世代は、鮮明な情報を取りやすいと思います。
アーカイブ映像は10本まで残りますが、サーバー内の全ての映像は企業様にお渡しできるので、それを自社のYouTubeチャンネルやSNSで採用PRに使うこともできます。YouTubeLIVEとインスタライブと「BUIVER」で三方向同時に配信する企業様もいらっしゃいます。
――企業にとっては求人掲載以外の使い方ができるのですね。
和木さん:広報PRとして活用できます。実は「BUIVER」には、求人は募集していないけど「PRとして使ってます」という企業様もいるんです。化粧品販売会社は、「『BUIVER』の若い女性ユーザーに向けて商品PRをしたい」という理由で、開発から販売までの工程を配信されています。また自動車販売店は「新車が出ました!」というPRを配信されています。
他の求人サイトで見つけた企業を「BUIVER」で検索してチェックする
――求職者は「BUIVER」をどのように利用するのがいいでしょうか?
和木さん:「BUIVER」の魅力は企業のリアルな風景を見られるところ。求人サービスではあるけど、ハイキャリア層の方でも「他社はこういう仕事をしてるのか」とチェックすることができます。企業が自分たちでプロデュースして発信しているので、そういうリアルなところから情報を得てほしいです。
「BUIVER」は求人ツールとしては第一候補や第二候補ではないかもしれないけど、例えば「他の大手求人サイトで見つけた企業を『BUIVER』で検索してライブ配信見てみよう」というのもでもいい。ライブ配信の内容を見て就職の決め手になればうれしいです。
「企業チャンネルを見るならBUIVERに」を目指す
――今後はどのような展開をしていきたいですか?
和木さん:2022年7月までに5万インストール、掲載企業500社がひとつの目標です。このサービスをまずは全国に届ける。
今考えているのは、自社でインタビュアーを採用して全国各地に派遣させたいです。「突撃!株式会社◎◎」みたいに、実際に会社に足を運んでライブ配信や特別インタビューをしたい。「企業のチャンネルを見るならBUIVERに」を目指します。動画のコメント機能搭載や、満遍なくいろんな企業が目に留まるような仕組み作りもしていきたい!
――やりたいこと・やるべきことがたくさんありますね。
和木さん:立ち上げたからには責任がのしかかっています。企業様から「めちゃくちゃおもしろい」という言葉をよく頂くんです。でも僕はまだ「おもしろい」に見合うほど、「BUIVER」の中身はイケていないと思っている。これからなんです、本当に!納得していただける機能やサービスに育てあげたいです。