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恐れていた事実が調査で判明「コロナ禍で学生の能力が下がってしまった!」

オンライン頼みの弊害が見過ごされていないか

オンライン頼みの弊害が見過ごされていないか

世界中を苦しめているコロナ禍は、社会に様々な悪影響を残しています。中長期的に考えると、本稿で述べることが最も問題かもしれません。それは「学生の能力が下がってしまった」ということです。

コロナ禍で多くの人が行動制限を受けましたが、伸び盛りの時期に自由なキャンパスライフを送れなかった学生の被害は特に甚大であることは容易に想像できます。それでも、実際に能力低下の調査結果が出ると、改めて学生たちに同情の念を禁じえません。(人材研究所代表・曽和利光)

特に伸び悩んだ「対自己基礎力」

大学の専攻や専門とは別の、社会で求められる汎用的な能力や態度、志向のことを「ジェネリックスキル」と呼びます。このスキルは学校生活を経て、社会に出るまでに磨かれ伸長していくことが望ましいのは言うまでもありません。

このスキルを測定する「PROGテスト」を河合塾と共同開発したリアセックは、6年間にわたって大学生を対象に1年次と3年次に受検してもらい、その差をまとめた結果を今年1月に発表しました。

調査結果「コンピテンシー(行動特性/意思決定スタイル)の伸長に対するコロナの影響について」によると、直近の学年の1年次(2019年)と3年次(2021年)の得点差を比較すると、例年と比較して成長幅に停滞感が見られました。

出典:コンピテンシーの伸長に対するコロナの影響について(株式会社リアセック)

出典:コンピテンシーの伸長に対するコロナの影響について(株式会社リアセック)

コンピテンシーの3つの中分類のうち、最も伸び悩んだのは「対自己基礎力」です。これは感情制御力・自信創出力・行動持続力といった「自分の感情ややる気をコントロールする力」ですが、同級生や教員と対面で切磋琢磨できず一人自室で学習する状況では、自己コントロール力が伸びないのも仕方ないといえるでしょう。

一方、例年同様に成長したのは「対課題基礎力」で、これは課題発見力・計画立案力・実践力といった「課題解決に向けた行動を考え起こす力」です。概念や情報を操作することはオンラインでもそれほど問題なく経験できそうですから、さもありなんと思えます。

伸びていた「対人基礎力」も一気に低下

残る「対人基礎力」は、親和力・協働力・統率力の総称で「他の人と信頼を築き、チームとして動かす力」です。対人基礎力は例年も学生生活を通じて伸びておらず、むしろ低下しています。基本的に集団行動の高校までと違って大学では付き合える人を選べるため、苦手な人と付き合う必要がなく力が鍛えられないのかもしれません。

ただ、大学教育改革の成果か、コロナ前の3学年(2016~2018年入学者)では少しずつ向上していた対人基礎力も、直近学年では激減しました。唯一伸びていた「統率力」(意見を主張し、チームを高める力)でさえも低下に転じています。オンラインでのリモート学生生活では、統率力は伸びにくいということでしょうか。

出典:コンピテンシーの伸長に対するコロナの影響について(株式会社リアセック)

出典:コンピテンシーの伸長に対するコロナの影響について(株式会社リアセック)

「PROGテスト」はすでに数十万人が受検しているテストであり、調査結果は基本的には日本の学生全体の傾向と捉えてよいでしょう。この結果は由々しき問題です。

コロナ禍は今後収束するでしょうが、アフターコロナで教育をオンラインと対面でどうバランスしていくかは慎重に考えなければなりません。便利だからとオンライン教育でいいよねと言っているうちに、日本の学生の能力がどんどん低下していくということにもなりかねません。

少なくとも応急措置的に「対自己基礎力」「対人基礎力」を強化する何らかの方法を打たねばなりません。私にも答えはありませんが、学生時代はすぐに過ぎ去ってしまいますから、ともかく問題意識を持って社会全体で支援策を考えていく必要があると思います。

社会人にも同じことが生じているおそれ

以上は学生を対象とした調査結果ですが、社会人についてもコロナ禍以降のリモートワーク増加で似たような能力低下現象が生じていないか心配です。学業も仕事も知的活動ですから、程度の差こそあれ、似たような悪影響が全くないとは考えにくいです。

実際、企業人事の皆さんから聞く人材育成の課題は、今回の学生の調査結果に符合しています。「情報伝達はオンラインでも可能だが、仕事のスタンスやマインドセットの教育、対人能力の開発は難しい」と多くの人事担当者が異口同音に訴えています。

そうであれば、やるべきことは明確です。学生に「PROGテスト」を実施したように、自社の社員、特に若手の能力開発がどんな状況にあるのか、仕事で必要な能力のうち何が伸び悩んでいるのか、何らかの方法で一刻も早く可視化すべきでしょう。「育成が不安」とふわっと考えているだけでは、明確な打ち手は決まりません。

とはいえ、世界中の企業は組織ぐるみの能力開発競争をしているわけですから、悠長なことは言っていられません。今回ご紹介した学生の調査からも仮説は立てられます。可視化を待たずに若手社員の人材育成強化に臨むのも、一つの考えかもしれません。

sowa_book【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

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