クレディセゾンは、1951年設立の月賦百貨店緑屋を源流とする会社です。1976年に西武百貨店と資本提携して、1980年に西武クレジットに社名変更。2000年代からクレジット会社への資本参加や事業会社との合弁会社設立などにより、事業を拡大してきました。
しかしコロナ禍で、長年中核事業としてきたペイメント事業の成長モデルが鈍化。中期経営計画では「ペイメント事業の再生」とともに、「グローバル事業の展開加速」による事業ポートフォリオの変革を掲げ、推進基盤としてのDXに取り組んでいます。(NEXT DX LEADER編集部)
コロナ禍がもたらした「決済手段の多様化」
クレディセゾンのセグメントは5つ。クレジットカード事業・サービサー(債権回収)事業等の「ペイメント」のほか、「リース」、信用保証事業・ファイナンス関連事業の「ファイナンス」、「不動産関連」、イープラスなどアミューズメント事業等の「エンタテインメント等」を展開しています。
2022年3月期の純収益(IFRS)のセグメント構成比は、ペイメントが70.9%と大半を占めていますが、事業利益では「フラット35」や「家賃保証」などの残高が拡大したファイナンスが38.1%を占め、ペイメントの26.8%を上回っています。
クレディセゾンの業績はここ数期、コロナ禍の影響を受けてきました。2021年3月期の純収益は前期比9%減の2826億円に落ち込みましたが、2022年3月期には2990億円とやや持ち直し、2023年3月期には3195億円とコロナ前の水準に回復する見込みです。
コロナ禍は、クレジットカード提携先の休業や外出自粛といった一過性の影響だけではなく、構造的な変化ももたらしています。先進テクノロジーの活用や異業種参入で新たな金融サービスが創出されるなど「決済手段の多様化」が進み、企業間競争が激化することが予想されます。
このような中でクレディセゾンは、「非対面」「非接触」など顧客心理・行動変容への対応とUX(ユーザーエクスペリエンス)を磨くことを目的としたDXの推進の必要性を認識しているとのことです。
デジタル戦略「CSDX」で成長鈍化への危機感示す
クレディセゾンは2022年5月に“総合生活サービスグループへの転換 ~リアルとデジタルの融合でカスタマーサクセスを実現~”を基本方針とする「中期経営計画(2022年度~2024年度)」を発表しています。
「Innovative」「Digital」「Global」を基本コンセプトとし、「ペイメント事業の再生」や「グローバル事業の展開加速」など4つの成長戦略の骨子を示しています。
中計を推進する「経営基盤の強化」の方策としては、2021年9月に発表済のデジタル戦略「CSDX(CREDIT SASON Digital Transformation)」を推進するとしています。2022年11月に発表されたCSDXのプレゼン資料には、「ビジネスモデルへの大きな打撃」として以下のような危機感が示されています。
「インターネットとスマートフォンの普及により顧客の購買チャンネルが“デジタルシフト”し、クレディセゾンが強みとしていたリアルチャネルを中心としたペイメント事業の成長モデルが鈍化」
このような状況を打開すべく、DXにより「顧客体験(CX)」と「従業員体験(EX)」の向上を図るほか、デジタル(DX、Webマーケティング、データサイエンス)などに強みを持つ「人材のプロフェッショナル化」を進めるとしています。
2024年までの定量/定性目標(CSDX TARGET 2024)として「デジタル人材1,000名創出」「クラウド活用率80%達成」「業務プロセスの完全デジタル化」「セゾン・データプラットフォ―ム構築」の4つを掲げています。
「AWS×内製化」で運用費の7割削減に成功
CSDXには、中計を推進するための「デジタル人材」や「データ活用」「デジタル基盤」「デジタル開発プロセス」に関する詳しい計画や取り組み事例などが整理されています。
デジタル人材については、知識やスキルに応じてデジタル人材を「コアデジタル人材」「ビジネスデジタル人材」「デジタルIT人材」の3つに定義し、研修制度の拡充や組織変革に取り組むことで、デジタル人材の育成を推進するとしています。
また、「オープンチャレンジ」という人事制度を開始し、エンジニアやデータサイエンティストを希望する社員を募集してデジタル部門へ配置転換し、実務研修でデジタル技術を習得してリスキリングを進めています。
データ活用については、他社データとのデータ連携を推進し、新たな価値を提供するほか、データ連携システムやRPAによる自動化を推進し、業務効率を改善する方向性と取り組み事例が示されています。
デジタル基盤については、2019年時点では顧客接点に近いシステムのクラウド以降が中心でしたが、2021年にはデータ分析環境や審査・与信など基幹システムに近いシステムもクラウドを活用しているとしています。
デジタル開発プロセスについては、デジタル部門がビジネス部門と一体となり、業務の課題解決につながるシステムを検討しながら柔軟なシステム開発を実現する「伴走型内製開発」を加速していくとしています。
この手法によって、2万ページに及ぶコールセンター用マニュアルを高精度で検索する「ナレッジシステム」を内製開発で構築。機能追加を継続的に実施し、顧客対応品質の向上を実現しているとのことです。
内製開発の成果は、すでに現れています。2022年4月24日付け「日経クロステック」は、クレディセゾンが100人以上の内製開発チームにより、顧客管理などを担う「共同基幹システム(HELIOS)」とのデータ連係基盤をAWSのコンテナサービスを使って更改。当初案に比べて運用コストを約7割減らすことに成功したと報じています。
リース契約や住宅ローンの「全審査工程デジタル化」を実現
CSDXにはこれらに加えて、リアルとデジタルを融合した新たな事業創出の取り組み事例が紹介されています。
ペイメント事業では、「デジタルを活用した顧客コミュニケーションの強化」「カード発行と決済機能がスマホで完結するサービスと異業種企業とのアライアンス」「対話型AIオペレーターの導入」「デジタルコンシェルジュサービスの提供」に取り組んでいます。
ファイナンス事業では、家賃保証の審査とカード決済申込みを一体で行う「スマホアプリを活用した顧客導線の見直し」のほか、リース契約や住宅ローンの「全審査工程デジタル化」を実現しています。
また、CSDXには「ファイナンシャル・インクルージョンの実現」という取り組みが紹介されていますが、これについては2022年12月発表の「クレディセゾンのグローバル事業展開について」の中で、さらに詳しく紹介されています。
クレディセゾンではグローバルビジネスにおいて、レンディング(貸付)事業を通じて現状大きな社会課題である「ファイナンシャル・インクルージョン」を実現するとともに、インベストメント(投資)事業により「イノベーション」を推進することで、将来的なビジネスチャンスを広げていくとしています。
なお、レンディング事業とは「融資型(貸付型)クラウドファンディング」とも呼ばれ、企業が不特定多数の出資者から資金調達するしくみを指し、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)とは、一般的には、貧困層や低所得者層を対象に貧困緩和や金融アクセスの機会均等を目的として行われる小規模金融のことを指すようです。
2022年4月にシンガポールにIHQ(国際統括会社)Saison International Pte. Ltd.を設置して、グローバルに戦える体制へ以降。インドおよび東南アジア4カ国(ベトナム、インドネシア、タイ、シンガポール)に事業会社を設置し、アジア地域におけるコア事業の発展・拡大を加速しています。
フィンテックによるグローバル事業が「第3の柱」に
グローバル事業については、2021年度(2022年3月期)決算説明会資料(2022年5月)において「第3の柱としてグローバル事業の利益貢献拡大の見通しがたつなど事業の多角化に一定の目途」と書かれています。
2023年3月期第3四半期決算資料ではさらに進み、事業利益634億円のうち、インドにおけるデジタルレンディング事業の13.9億円(前年同期比9.8億円増)、ベトナムにおけるリテールファイナンス事業の13.0億円(同8.7億円増)を占め、グローバル事業が利益に貢献しています。
中期経営計画に向けた戦略としては「グローバルレンディング事業を、当社グループの柱に育てる」「グローバルインベストメント事業を通じて、次の柱となる事業を創出する」「上記を支えるIHQ体制を推進する」という構想が示されています。
代表取締役 兼 社長執行役員COOの水野克己氏は、「Credit Saison Integrated Report 2022」(2022年12月8日)の中で、中長期的な事業ポートフォリオのバランスについて「ペイメント:ファイナンス:グローバル:新規事業が、「3:3:3:1」の割合で構成される姿をイメージしています」とコメントしています。
直近のリリースでも、2023年4月5日にはシンガポールにWeb3領域へのトークン投資の新会社「Saison Crypto Pte. Ltd.」を設立、11日にはフィンテック市場が拡大するブラジルとメキシコでレンディング事業を展開、17日にはインド子会社がインドの格付会社から長期格付についてAAAを取得するなど、グローバル事業関係の動きが相次いでいます。
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