ユナイテッドアローズのDX:「美しい会社」目指して大量生産・大量消費脱却 デジタル投資でサプライチェーン最適化 | NEXT DX LEADER

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ユナイテッドアローズのDX:「美しい会社」目指して大量生産・大量消費脱却 デジタル投資でサプライチェーン最適化

ユナイテッドアローズの機能服「COZY」 - 2023 Spring より

ユナイテッドアローズは1989年、東京・渋谷に設立。パリの人気ブティックの日本国内でのショップ展開に関する運営管理代行業務を開始しました。翌90年にユナイテッドアローズ1号店を渋谷に、92年に原宿本店をオープンして本店を移転します。

2002年に東証二部に上場、03年に東証一部に市場変更しました。2008年にコーエンを設立し、2013年には初の海外展開となる台湾へ出店。2023年3月末時点の店舗数は、ユナイテッドアローズが215店舗、コーエンが75店舗、台湾が8店舗の合計298店舗となっています。(NEXT DX LEADER編集部)

「高感度・高付加価値ライフスタイル提供グループ」掲げる

ユナイテッドアローズのビジネスモデルは、仕入商品(全体の43.3%)とオリジナル企画商品(同56.7%)の両方を組み合わせた「セレクト編集型SPA(製造小売業)」と呼ばれるもので、セレクトショップ業界では国内最大の売上規模を誇り、唯一の上場企業です。

売上高は2018年までは右肩上がりで伸びていましたが、コロナ禍の影響もあって2020年、2021年と大きく落ち込みました。2023年3月期の売上高は1,301億円、営業利益は63.6億円、営業利益率は4.9%となっています。

ユナイテッドアローズは衣料品小売事業の単一セグメントですが、事業別売上高の内訳は、UA(ユナイテッドアローズ)が1,184億円、コーエンが107億円、海外(台湾)が15億円となっています。

ユナイテッドアローズは2023年5月、長期ビジョン2032「美しい会社 ユナイテッドアローズ」を定めました。「真善美を追求し続けることでサステナブルな社会の実現に貢献し、お客様に愛され続ける高付加価値提供グループになる」としています。

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

また、長期ビジョン達成時にありたい姿として「高感度・高付加価値ライフスタイル提供グループ」を掲げ、長期ビジョンに向けて持つべき価値観として「大量生産、大量消費を前提とした売上拡大志向から脱却し、お客様層を広げ、価値提供の範囲を拡大させていく志向への切り替え」を行うとしています。

売上拡大志向の脱却については、「限られた資源で最大限の企業価値を創出すること」と整理し直され、「適正量の商品を適切に調達し、無駄なく販売していくこと」、具体的には「プロパー消化率(総仕入れ金額のうち、定価で販売した金額の比率)の改善」を目指すとしています。

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

長期ビジョンではあわせて、財務目標として連結売上高2,500億円と事業別内訳(ポートフォリオ)を発表しています。主力事業のUA既存事業やコーエンを伸ばすほか、アパレル以外を含む「UA新規」の事業を拡大するとしています。

「商品調達のデジタル化」「OMO推進」などに取り組む

ユナイテッドアローズは長期ビジョンにあわせて、ビジョン実現に向けた最初のステップとなる中期経営計画「感動提供 お客様と深く広く繋がる ENGAGEMENT WITH CUSTOMERS」(2024年~2026年3月期目標)を発表しています。

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

そして、長期ビジョン達成に向けて「年齢軸の課題」「ファッションテイスト軸の課題」「業容における課題」「デジタル技術による効率化、インフラ整備の課題」の4つの課題を掲げています。

1つ目の「年齢軸」については、30代~40代が中心となっている現状の主要顧客を、20代へ広げるとしています。現状でもユナイテッドアローズの若年層顧客のファッション支出額は大きく、若年層顧客数を広げ、次世代の主要顧客を育成するとしています。

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

2つ目の「ファッションテイスト軸」については、トラッドなどコンサバティブなテイストに集中していた現状の主要事業を、カジュアルやモードなど他のテイストに拡大する余地があるとしています。

3つ目の「業容」については、ファションが大半である現状の事業ドメインを、衣食住にも拡大する余地があるとしています。また、国内中心で台湾のみだった海外事業も、中国進出を含めた拡大余地があるとしています。

4つ目の「デジタル技術」については、「商品管理基幹システムの見直し」「商品調達のデジタル化」「OMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインの融合)推進に向けた設備投資」「業容拡大を視野に入れた物流再編」に取り組むとしています。

なお、「商品調達のデジタル化」とは、商品発注から納品までのステイタスを可視化し、在庫調達の精度を向上させることで運営の効率化を図ることを指しています。

2026年3月期の財務目標として、連結売上高1,600‐1,700億円、同営業利益90‐100億円、同営業利益率5.6‐5.9%、ROE13.8‐15.4%を掲げています。

「UA DIGITAL戦略」に基づき設備投資を実施

ユナイテッドアローズは、長期ビジョン達成に向けた課題を解決するために、3つの主要戦略を掲げています。

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

1つ目は既存事業の成長拡大を続けながらブランド力を強化していく「UA CREATIVITY戦略」、2つ目は新規事業開発を通じて業容とお客様層を拡大させていく「UA MULTI戦略」、3つ目は今後の成長を見据えた設備投資で企業運営を効率化させていく「UA DIGITAL戦略」です。

DXにかかわるUA DIGITAL戦略については、3つの取り組みをあげています。1つ目は、オンラインとオフラインを融合させた「OMOの推進」です。従来の「ハウスカードプログラム」を刷新し、ライフタイムバリュー(LTV=顧客生涯価値)を高めるプログラムに変更します。お客様情報を踏まえた適切なアプローチを行うことで既存顧客との取引額を増やし、支出総額に占める割合を高めていくということです。

統合報告書2023によると、2023年8月に会員向け新プログラム「UAクラブ」を開始。従来のポイント還元制度から、スマートフォンを活用しお客様との接点をベースにしたマイル&クーポン制度に切り替えているとのことです。

2つ目は「自社ECアプリの再開発」です。アプリを接点として実店舗やオンラインストアへの誘導を強化するなど、一体となった強固な販売体制を構築していくとのことです。

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

長期ビジョン2032/中期経営計画2023-2025(2023年5月10日)より

3つ目は「サプライチェーンの最適化」で、具体的には業容拡大を視野に入れたインフラ整備のほか、販売機会ロスの低減や在庫効率の改善といった課題解決に向けて、「商品管理基幹システム」「商品調達のデジタル化」「物流センター再編」の取り組みを行っていくとのことです。

統合報告書2023によると、2022年3月に自社ECサイトをリニューアルし、あわせて自社物流センターで注文受付から在庫管理、配送、アフターフォローまでを行うフルフィルメント体制への切り替えを行ったとのことです。

「OMO関連投資(自社EC、CRM関連)」としては、2023年から2025年までの3年間で10億円から15億円の投資を行う予定で、あわせて「インフラ投資(システム、物流)」「実店舗投資(出店、改装等)」にそれぞれ60億円から70億円の投資を行うとのことです。

また、ユナイテッドアローズでは長期ビジョンや中期経営計画に先立ち、2021年4月にDX推進センターを設立しています。この組織は「デジタルマーケティング部」「情報システム部」「自社EC開発室」を傘下に持ち、デジタル技術を活用した業務効率化などを行う業務改革機能を持った部門ということです。

2023年10月には「DXセールスマスター」制度を新設し、販売に係るDX活動において優れたパフォーマンスを発揮するスペシャリストを評価。ECサイトにおけるスタイリング投稿の本数や直接売上、PV、お気に入り登録数が社内最上位ランクであるなどの基準をクリアした人材を認定しています。

YouTube:ユナイテッドアローズの機能服「COZY」 - 2023 Spring

考察記事執筆:NDX編集部

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