トリドールのDX:業務システムはSaaS、バックオフィスはBPO 「需要予測」の責任を店長からAIに移管 | NEXT DX LEADER

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トリドールのDX:業務システムはSaaS、バックオフィスはBPO 「需要予測」の責任を店長からAIに移管

丸亀製麺「麺職人の技術研鑽」篇 より

トリドールは1985年、炭火焼鳥屋「トリドール三番館」として開店し、1995年に法人化。2000年に新業態として開店した「丸亀製麺」が当たり、2006年に東証マザーズ(当時)に上場し、2008年に東証一部に市場変更しました。

2011年のハワイ出店を皮切りに海外にも展開し、2016年に持株会社体制に移行。2023年10月現在で30の国と地域に1,917店舗を出店しており、うち日本国内が1,074店舗。2027年3月期中に海外店舗数が国内を上回る計画とのことです。(NEXT DX LEADER編集部)

二律背反を超える「二律両立」を基本戦略に

トリドールホールディングスの2023年3月期の連結売上収益(IFRS)は過去最高の1,883億円を記録しました。コロナ補助金の減少に伴い減益となったものの、この影響を除くと前期比で増益。事業利益が69.8億円、最終利益が38.3億円となっています。

セグメント別売上収益は、丸亀製麺(国内)が1021億円、海外事業が614.8億円でいずれも過去最高を達成し、国内その他が247.4億円。事業利益は、国内その他が30.4億円(事業利益率12%)で過去最高。丸亀製麺が116.2億円(同11%)、海外事業が18.1億円(同3%)となっています。

中長期経営計画説明資料(2022年5月17日)より

中長期経営計画説明資料(2022年5月17日)より

トリドールグループは2022年5月、2028年3月期を最終年とする中長期経営計画を策定しました。コーポレートスローガンに「食の感動で、この星を満たせ。」、ミッションに「本能が歓ぶ食の感動体験を探求し世界中をワクワクさせ続ける」、ビジョンに「予測不能な進化で未来を開くグローバルフードカンパニー」を新たに掲げています。

中長期経営計画説明資料(2022年5月17日)より

中長期経営計画説明資料(2022年5月17日)より

中長期経営計画では、「手間暇かけてこだわって展開する(Craft)」「スピーディーに効率的に展開する(System)」「世界中どこでもできる体験(Anywhere)」「そこでしかできない体験(Only)」といった二律背反を両立させることで、食の感動体験を世界中に拡げる“KANDOトレードオン戦略”を基本戦略に据えるとしています。

中長期経営計画説明資料(2022年5月17日)より

中長期経営計画説明資料(2022年5月17日)より

そして「感動体験の追求」「事業ポートフォリオの量・質拡充」「(海外のローカル)バディ布陣の確立」「(ノーボーダーネットワーク)NxN展開を支える基盤構築」を4つの重点テーマとし、11の取り組みを定義し施策化しています。

中長期経営計画説明資料(2022年5月17日)より

中長期経営計画説明資料(2022年5月17日)より

また、2028年3月期の中長期目標値を、M&Aを織り込まない形で設定。2023年5月には公表済の目標値を拡充し、店舗数5,500店舗超、売上高3,000億円、事業利益率12%以上という高い目標を設けています。

2022年11月には、成長哲学としてフィロソフィー「トリドール3頂(ちょう)」を追加。粟田貴也社長兼CEOが創業時から変わらず大切にし続け、全従業員が未来永劫変わらずに持ち続けるべき哲学を“「KANDO」の頂へ”“「二律両立」の頂へ”“「称賛共助」の頂へ”の3つと規定しています。

DXで「矛盾を解決」し新たな価値を生み出す

トリドールグループのDXについては、「粟田社長が語る「トリドールホールディングスの未来とDX」」の中で、二律背反を超えて新たな価値を生み出す「矛盾を解消する方法」がDXであるとしています。

DXの取り組みは、コーポレートサイト「デジタルトランスフォーメーション戦略」「DX推進の主な取り組み」にまとめられています。2019年9月に磯村康典氏(元富士通・ソフトバンク等)がトリドールホールディングスの執行役員CIO/CTOに着任したことでスタート。現状調査を踏まえ、同年12月に「ITロードマップ」を作成しています。

コーポレートサイトの「トリドールのDX ~これまでとこれから~」によると、会社がスピーディーに成長していくためには、自前でIT資産を持つのではなく、

(1)オンプレミスからSaaSへの切り替え
(2)バックオフィス定型業務のBPO活用を進める

という大筋のビジョンがまとめられたとのことです。

具体的にツールとしては、コロナ禍が始まる2020年4月までに、データセンターにあった自社のサーバーをクラウド(AWS)上のサーバーに移してIaaS化。従来の財務会計システムをクラウド対応のシステム(米Oracleの「ORACLE NetSuite」)に切り替えてグローバル対応。さらにウェブ会議に便利なTeamsを含むマイクロソフト「Office 365(現Microsoft 365)」を導入しています。

また、コロナ中のテイクアウトやフードデリバリーサービス(Uber Eatsなど)に対応するため、従来のPOSシステムから注文を一覧できるサブスクリプション型のPOSアプリ(NECモバイルPOS)を導入しています。

SaaSのパートナー選びにあたっては、基幹の業務システムは、自社の業務をシステムに合わせて慣れることとし、飲食店特有の受発注システムやクラウドPOSなどは、パートナー企業に「自社の要件をシステムの標準機能として取り込んでもらえないか」と交渉するという使い分けをしたとのことです。

2021年1月にはロードマップをブラッシュアップした「DXビジョン2022」で、「レガシーシステム廃止」に着手。コーポレートサイト「DXが実現させた既存ビジネスの深化」によると、基本的な推進の考え方は、以下の4つです。

(1)業務システムはすべてSaaS
(2)端末はすべてDaaS
(3)バックオフィス定型業務はすべてアウトソーシング
(4)情報セキュリティはゼロトラストセキュリティの観点で対応

また、導入したSaaS間ではデータの円滑な連携を行うため、以下の3点を必須としています。

(1)シングルサインオン
(2)ユーザー、商品、店舗マスタデータの配布、共有機能
(3)取引データの出力機能に対応

「需要予測」の責任を店長からAIに移管

2022年11月には「DXビジョン2028」を発表。食の感動体験を探求し続け、真のグローバルフードカンパニーになるためのトランスフォーメーションとして、8つの項目をあげています。

1.デジタルマーケティングプラットフォームの構築
2.AI需要予測を活用した店舗マネジメント業務の自動化
3.人材のリスキリング、多様性のための教育マネジメントシステムの構築
4.IoTを活用したエネルギーマネジメントシステムの構築
5.店舗マネジメントプラットフォームの深化とグループ展開
6.財務会計・連結会計プラットフォームのグループ展開
7.データマネジメントプラットフォームの深化とグループ展開
8.CO2排出量を可視化するカーボンマネジメントシステムの構築

会社のウェブサイト「「真のグローバルフードカンパニー」を目指す「DXビジョン2028」」では、この第1の柱から第8の柱について、それぞれどのような取り組みを行うのか、詳しい方向性が示されています。

例えば第1の柱については、デジタルによる集客対策を行うために、米SaaSのYext(検索エンジンや地図アプリ・SNSなどに公開されている店舗情報を一元管理できるプラットフォーム)を使って最新の店舗情報を大手パブリッシャーに配信します。

そして、共通ポイント会員向けにキャンペーンなどの情報を発信。自社オウンドメディアをCMSに移し、新規出店や季節メニュー紹介、最新情報などにリアルタイムに対応するとしています。すでにクラウド化されているPOSに加え、キャッシュレス決済と高速自動釣銭機を備えた端末を整備するとしています。

コーポレートサイトの「DXが実現する新規ビジネス」によると、モバイルオーダーには「O:der ToGo」、デリバリーの注文集約には「Ordee」、すべての注文はモバイルPOSへと連携し、キャッシュレス決済にも対応。オールインワン決済端末「stera」は電子マネーなどにも対応しているとのことです。

第2の柱である「AI需要予測を活用した店舗マネジメント業務の自動化」については、「トリドールのDX ~これまでとこれから~」の中で、店長の2大業務である「ワークスケジュール(従業員シフト作成)」「受発注業務」について、AIの需要予測システムを活用した自動化を全国に展開するとしています。

特に「受発注業務」は、過去データと天気から需要を予測するシステムとし、予測結果に本社が責任を持ち、予測精度が悪ければIT部門で原因を究明し改善するということです。

第4の柱である「IoTを活用したエネルギーマネジメントシステムの構築」については、需要予測システムと厨房機器を連動させ、うどんを茹でる機器の火力を自動で変えられる仕組みなどを想定しています。

「BT本部」でDXとBPO、データ活用を推進

「DXビジョン2022」を推進した組織は、「BT(ビジネストランスフォーメーション)本部」「DX推進室」「BPO推進室」、それに「データマネジメント推進室」の3つの組織で、コーポレートサイト「トリドール流デジタル人材の育成・確保」によると、当初の業務は15人のメンバーで行っていたとのことです。

トリドールではDX推進には、以下の5つの専門家が必要としています。

(1) ITストラテジスト
(2) ITアーキテクト
(3)データサイエンティストもしくはデータアナリスト
(4)セキュリティ・スペシャリスト
(5)プロジェクトマネージャー

このうち、最も人数が必要とされるプロジェクトマネージャーは、社内やベンダー、経営陣とのコミュニケーションを取りながらプロジェクトをスムーズに進める仕事であり、トリドールでは必ずしもSE(システムエンジニア)である必要はないという考え、とのことです。

YouTube:丸亀製麺「麺職人の技術研鑽」篇

考察記事執筆:NDX編集部

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