アダストリアは1953年、茨城県水戸市に紳士服を販売する福田屋洋品店として設立されました。1984年からチェーン化を開始。1992年よりレディースカジュアルウェアに進出して業績を伸ばし、2004年に株式会社ポイントとして東証一部に上場しました。
2013年に持株会社制に移行し、アダストリアホールディングに商号変更しましたが、2015年にアダストリアに変更。アパレル業界では、ユニクロ、しまむらに次ぐ売上3位で、ワールドや青山商事、オンワードホールディングスなどを上回っています。(文責:NEXT DX LEADER編集部)
ミッションに「Play fashion!」掲げる
アダストリアの報告セグメントは2つ。「グローバルワーク」「ニコアンド」「ローリーズファーム」「スタディオクリップ」など31の主要ブランド(年間売上高1億円以上)を擁する「アパレル・雑貨関連事業」と、2022年に連結子会社化した飲食企業のゼットンを含む「その他(飲食事業)」です。
2024年2月期の連結売上高は2,756億円、営業利益率は6.5%。セグメント別では「アパレル・雑貨関連事業」が売上高の95.3%を占め、「その他(飲食事業)」は1.4億円の営業赤字でした。
商品部門別の販売実績は、「レディース」が61.1%、「雑貨・その他」が23.2%、「メンズ」が15.6%。国内売上高の71%は店舗で、29%はWEBであげています。
アダストリアの業績は創業以来順調に伸びていましたが、2018年2月期から3期にわたって横ばいに。さらに2021年2月にはコロナ禍の影響で売上利益が大きく落ち込みました。しかし、2023年2月期には過去最高の売上高を更新するV字回復を実現し、創立70周年となった2024年2月期にも売上利益ともに過去最高を達成しています。
アダストリアは2022年4月に「グッドコミュニティの共創をめざして」と題した中期経営計画(2023年2月期~2026年2月期)を発表し、ミッションに「Play fashion!」、ビジョンに「一人ひとりの毎日に『もっと楽しい』選択肢を」を掲げています。
「提供価値の拡張」と「お客さまの拡張」の掛け合わせにより、成長戦略として「Ⅰ.マルチブランド、カテゴリー」「Ⅱ.デジタルの顧客接点、サービス」「Ⅲ.グローカル」「Ⅳ.新規事業」の4つを定めました。財務目標として、2026年2月期に連結売上高2,800億円(うちEC売上800億円)、営業利益率8%を目指しています。
非アパレル含む「カテゴリー拡大」を進める
成長戦略のひとつ「Ⅱ.デジタルの顧客接点、サービス~自社ECの成長加速と楽しいコミュニティ化~」について、アダストリアではコロナ禍でEC拡大を進めました。自社グループのドットエスティ(.st)会員は1,300万人を超え、EC売上高の6割をここで売り上げています。
2026年2月期にEC売上高800億円を目標に掲げ、「客数UP」と「購買回数UP」を図り、加えて「海外EC」を強化して、「ドットエスティ」をメジャーなファッションECにすることを目指します。
客数UPの具体策としては、TVCMなどを活用したプロモーションによる「認知度UP」や、メンズなどの「カテゴリー拡大」、他社顧客獲得のための「協業・M&A」「オープン化」などに取り組みます。
購買回数UPの具体策としては、非アパレルの生活雑貨を含むマルチブランドによる「カテゴリー拡大」や、サンマルクカフェなど他社商材取り扱いによるカテゴリー拡大とライフスタイル提案による「オープン化」、自社スタッフのインフルエンサー化などの「つながりの進化」を進めるとしています。
海外EC戦略は、中国大陸市場はT-mallを軸にブランド拡充と他モール展開を図り、台湾・香港・東南アジア市場は自社ECの構築と横展開を行うとのことです。
このほか、成長戦略のひとつ「新規事業」として、企画、生産、店舗開発等、バリューチェーンの強みを生かした「BtoB事業」を積極的に拡大するとしていますが、この中のひとつとして「ECオープン化」を位置づけ、ドットエスティにおける他社商品、サービスの取扱を拡大していくとのことです。
成長戦略を支える基盤強化に「デジタル」位置づけ
中期経営計画では成長戦略を支える基盤強化として、「生産」「ロジスティクス」「人材」「リスクマネジメント」に加え、「デジタル」の取り組みを行うとしています。
取り組みは大きく2つ。「攻めのIT」として「データ分析の活用範囲拡大」「ドットSTのグローバル展開」「システム・アプリ内製化」に、「守りのIT」として「管理部門DX」「店舗業務の効率化」「セキュリティ外部認証取得」を行うとしています。
また、長期的な成長のためにM&Aを積極的に活用していくとし、特に優先順位の高い「Ⅱ.デジタルの顧客接点、サービス」に対応するM&A方針として「自社EC拡大のための機能や顧客を獲得すること」を目的とする企業の合併買収を推進するとしています。
具体的には、自社事業を補完するECサイト運営会社や、小売領域で実績のあるシステム開発会社を買収することを検討しています。
アダストリアでは2022年12月、コーポレートサイトに「DX戦略」を掲載しています。「攻めのDX戦略でアダストリアの成長を加速」として、大きく2つの取組みを行うとしています。
「顧客体験を変革」の取り組みでは、3つの施策を展開。「①デジタルを通じて店舗とECの融合を加速」では、OMO型店舗「ドットエスティストア」でデジタルサイネージを活用した新しい接客体験を提供。EC在庫と連携し、1店舗で複数ブランドの商品を1度に受取れる「Multi Pick」(マルチピック)などを開始しています。
「②自社EC .st(ドットエスティ)をもっと楽しい“グッドコミュニティ“へと進化」では、「スタッフボード」に4,300名以上のスタッフが毎日スタイリングを投稿。さらに「スタッフボード」を他企業のスタッフに開放し、相互送客にトライアルしています。
「③地域、風土に合わせた「グローカル」な新たな顧客体験を提供」では、上海旗艦店ではwechatプログラムと連動し、ポイント付与やニュース配信などを実施するなど、中国市場への対応強化を図るとしています。
国内DX人材90名と海外エンジニア100名の確保目指す
「働き方の変革」の取り組みでは、ITプラットフォームの構築により社内業務プロセスを最適化し、セルフレジの展開拡大や店舗アプリの強化、RPAなどのデジタル技術の導入で業務の生産性向上を図るとしています。
また、DX戦略の組織体制として、全社的にDXを推進すべく、取締役直下にDX戦略部を設置し、DX推進に必要なIT知見やデータ活用に精通した人材を増強・育成し、企業の成長を支えるDXを加速するとしています。
具体的には、EC拡大とビジネスのデジタル化を推進するため、2026年2月期に国内DX人材70~90名と、海外エンジニア50~100名の確保を目指すとのことです。