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会社が打ち出す新たな人事制度が、必ずしも社員のモチベーションアップにつながるとは限らない。
投稿を寄せた東京都の40代男性(事務・管理)は、製造業の生産管理に携わっている。勤務先で新しい人事評価制度が発表されたことで、「この会社で頑張るのをやめよう」と悟ったのだそう。その新しい制度とは、
「賞与は全社員一律。昇給は市場価値に基づく」
というものだった。男性はこれを聞いた当初は「時代に逆行する、随分と思い切った制度に感じた」と明かしている。(文:篠原みつき)
「必要最低限の業務をこなす指示待ち社員も、賞与の“ヶ月数“は同じ」
男性は、発表された制度の実態についてこう指摘する。
「血眼になって前年比150%を達成した営業も、必要最低限の業務をこなす指示待ち社員も、賞与の“ヶ月数“は同じ。薄給の当社では、ボーナス=インセンティブという概念ではなく、生活の運転資金として重要ということで固定にするということだろうか」
頑張っても頑張らなくてもボーナスが同じなら、真面目に働くのがバカバカしくなるのは当然だ。しかし、男性がよく考えてみると「この制度は成果主義をやめるという話ではなさそうだ」と気付いた。
「なぜなら実績は来年の昇給に反映させることが、交渉次第で出来るからだ。むしろ会社は、給与は従業員自身の市場価値で決める、という思想へ舵を切ったのである」
市場価値とは、その人が労働市場でどの程度の評価や報酬を得られるかという事だ。転職活動でもしないと分かりづらいもので、それが社内の評価に使われるとは、にわかには飲み込みにくい。
しかし男性によれば、人事からの説明にはこんな「斬新」な方針が含まれていた。
「人事総務部の説明で斬新だったのは、市場価値の指標の一つとして、他社から提示されたオファーが給与交渉のエビデンスになりうるということだ」
自社の社員の評価を他社に委ねるのか
他社からの内定やオファー金額を示さないと適正に評価されないのだとしたら、もはや自社で社員を評価する機能を完全に放棄していると言っていい。男性もこの丸投げなスタンスに不信感を募らせている。
「市場価値と言えば聞こえは良いが、自社の社員の価値を一番理解しているのはまぎれもなく会社ではないのか。自社の社員の評価を他社に委ねることを業務の効率化という風に捉えているのだろうか。ビッグワード過ぎて、定義がぼやけて感じる」
男性は、人材の育成には時間がかかることや、企業風土の理解や人脈構築など、数字に表れるまで1年以上かかる仕事も珍しくないと語る。その中で、それを毎年「市場価値」で測ろうとすれば、短期的な成果ばかりが重視され「経営の狙いと現場の認識に齟齬が生じる危険性は否定できない」と指摘する。
「社員一人ひとりが自身の価値を意識し、自立したキャリア観を持つことは重要だ。しかし、それを会社が主体的に育てるのではなく、市場・他社に実質委ねるというやり方は、腹落ちしない」
「会社は、従業員をなんだと思っているのだろう」
一見すると今風の合理的な制度に見えて、実態は会社としての評価責任から逃げているだけなのかもしれない。男性は会社への失望をこう綴った。
「制度は変わった。会社の決定である。しかし、本当に変わるべきなのは制度ではなく、従業員をどう見るかという会社の姿勢ではないか。この制度が成功するか失敗するか、正直見当もつかない。ただ一つだけ確かなのは、人事制度はエクセルで作れても、信頼は築けないということだ」
「会社は、従業員をなんだと思っているのだろう」
と疑問を口にする男性は、従業員が会社に抱く不信感は、いずれ事業の低迷に直結する可能性が高いと危機感を書き、こうまとめた。
「新たな人事評価制度に経営の思想が透けて見えた気がした」
他社からのオファーが給与交渉の材料になるのなら、優秀な社員からそのまま他社へ流出しても文句は言えないだろう。
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