「危険、きつい、帰れない」? 人手不足に拍車がかかる運送業界の労働実態まとめ
Amazon等のインターネット通販サービスの普及が進み、私たちの生活は随分と便利になった。今や即日発送も当たり前。一方で、数百億円規模と言われるヤマト運輸の残業代未払いが明るみに出たかと思えば、そのヤマトがAmazonの当日配送から撤退し、Amazonでの注文品が指定日時に届かない事態が多発するなど、運送業を巡っては何かとネガティブな話題が絶えない。
“危険、きつい、帰れない”の新3Kとも揶揄される運送業のブラックな労働実態とは、どのようなものなのだろうか。
本来ドライバーの仕事でない「荷物の積み下ろし」が長時間労働の原因に
一般的な労働時間が1か月約174時間であるのに対し、トラックドライバーの労働時間ははるかに長く、239~273時間にも達すると言われる。こうした長時間労働の原因の一つが、本来はドライバーの仕事ではない荷物の積み降ろしだ。
テレビ東京の「ガイアの夜明け」で紹介された33歳の運送会社ドライバーは、1箱10キロのキュウリを全部で1200箱、およそ11トンを農協からトラックに1人で運び込んでいた。この日は2時間以上かけてようやく積み込んだが、届け先でも同じように降ろす作業が待っているというのだから、積み下ろしがいかにドライバーへの負担になっているのかがわかる。【→詳しく見る】
運輸・郵便業は脳・心臓疾患に関わる労災件数最多
厚生労働省が2017年10月に発表した過労死等防止対策白書では、トラック運送事業者が荷主から、契約外の荷役作業や検品・商品の仕分け等の附随作業などを取引慣行として請け負わされていることが明らかにされている。
白書では、2016年度に過労死や過労自殺等で労災認定された191人のうち、脳・心臓疾患に関わる請求件数や決定件数は運輸・郵便業で最も多かったとも報告されている。また、トラック運転手の業務関連のストレスや悩みの原因は「仕事での精神的な緊張・ストレス」が最多と、運送業界で働く人々が肉体的にも精神的にも過酷な環境に置かれている実態が見えてくる。【→詳しく見る】
残業代を請求するとクビの対象として扱われる現実
2007年頃からヤマト運輸の下請け会社で貨物自動車運転手をしていたある男性は、日給1万2000円で働き、残業代が出たことはなかったという。男性は2015年6月、時間外労働・深夜労働・休日労働の割増賃金約420万円の支払いを求めて、他6人の運転手らと共に東京地裁に賃金等請求労働審判を申し立てた。
2カ月後男性は、冷凍保管しなければならない荷物を冷凍庫に入れずに帰宅してしまった。下請け会社はこれを理由に、男性を懲戒解雇にする通知を送付。男性はこれを不当解雇とし、地位確認を求めて労働審判の申し立てを行った。
男性の弁護士は、大手運送業社では労働環境の改革が進んでいる一方、下請け会社ではドライバーが「業務請負」として扱われているため、「請負契約書」への署名を強要されたり、残業代を請求したことで契約を解除される状況が続いていると明かす。【→詳しく見る】
日本ではサービス品質が高くても価格に反映されていない
日本生産性本部は米国滞在経験のある日本人と日本滞在経験のある米国人それぞれ500人に調査を実施し、2017年7月に結果を発表した。日本ではサービス品質の高さが価格に反映されない傾向が強いと明らかになったが、それが顕著な分野の一つに、宅配便が挙げられている。
これは、労働者の立場から見れば、質の高いサービスを提供しても、その分が報酬に反映されないということに他ならない。サービスを受ける側である私たちが、安い値段で質の高いサービスを受けられるのを当然のことと思っているとすれば、それも運送業の過酷な労働環境を生み出してしまう一因なのかもしれない。【→詳しく見る】
運送業界の労働環境改善には、サービス利用者の心がけも必須
より安い値段でより便利なサービスを利用したいと思うのは自然なことだ。そういう欲求が、新しいサービスや製品開発の原動力となってきたのは間違いない。しかしながら、サービスの背景に労働者がいることを忘れてはならない。安く質の高いサービスを提供するために、不利な労働条件で酷使されている労働者がいるかもしれないのだ。
記事でも紹介した厚労省の過労死等防止対策白書は、「トラック運送事業者、荷主、行政が一体となり、取引環境の改善を図るための取組みを進めていくことが必要」と指摘している。
ネット通販等を利用する人であれば、誰もが「荷主」だ。私たち利用者が、例えば、指定した配送日時には確実に家に居るよう心掛けることで、再配達による負担を減らすことができる。こうしたちょっとした行動が、運送業界で働く人々の労働環境を改善する第一歩になるのではないだろうか。