「シゴキ文化は非効率、部下を潰す上司はNG」 パワハラの新定義は「法制化すべき」と識者が意見
先月、公立福生病院で働いていた50代の男性が、勤務先を相手取り550万円の損害賠償訴訟を起こした。職場で上司から「お前何様なんだよ!俺より上司か?そういうところがバカだっつってんだよ!」など、人格を否定するような暴言を毎日浴びせられ、精神疾患を患い休職に追い込まれたという。
厚生労働省の調べによると、職場のいじめ・嫌がらせ(パワハラ)の相談件数は増加する一方で、年間6万6566件(2015年)にも及ぶ。そんな中、厚労省は3月16日「職場のパワハラ防止対策の検討会」を開き、パワーハラスメントを定義する新しい基準案を示した。同日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)がこれを特集し、経営コンサルタントの梅澤和明氏がコメントした。(文:okei)
「不満を全てパワハラで訴える人もいる」企業は法制化に反対
これまでパワハラは、「具体例」として次の6つが示されていた。
・身体的な攻撃
・精神的な攻撃
・人間関係からの切り離し
・過大な要求
・過小な要求
・個の侵害
同じハラスメントでもセクハラや妊娠出産に関わるマタハラは、男女雇用機会均等法などの法律で定義されている。企業には「防止策」が義務づけられており、違反すると企業名が公表される。しかし、パワハラに関しては法律による「定義」も「規制」も無かった。
今回示された新しい基準案(定義)は次の通りだ。
・優越的な関係に基づく
・業務の適正な範囲を超える
・身体的・精神的な苦痛を与える
新定義では、仮に具体例にあてはまっていても、この3つ全てに当てはまっていなければパワハラとみなされない。
法制化には企業が反対しており、今回の検討会では義務化の結論は見送られた。経団連の担当者は反対する理由をこう話した。
「(自分の中で)意に沿わないような指導や指示、不満に思っていることを全てハラスメントだとくくり訴える人もいるので。法律に基づかなくても、できることがあるかなと」
つまり、社員の言いがかりを懸念しているのだ。厚生労働省は、今月中に報告書をまとめて制度化に向けて議論を進めていくとしている。
「そのシゴキって指導として効果的ですか?という話」
これに対して意見を求められた番組コメンテーターの梅澤高明氏(A.T.カーニー日本代表)は、
「せっかくやるのなら単なるガイドラインではなく、法整備まで踏み込むべきと思います」
と見解を述べた。梅澤氏によれば、論点は2つあるという。
1つ目は、「そのシゴキって指導として効果的ですか?」という話だ。冒頭の50代男性の訴えは露骨にパワハラだったが、現実的にはグレーなケースが多い。特に徒弟制度的な職場で「シゴキの文化」があるようなところだ。例えば「千本ノックしろ」「俺の背中から盗め」のような指導は、どう考えても出来る人と出来ないがいるし、一人前になるにも時間がかかる。
そうではなく、「身に付けて欲しいスキルを可視化・マニュアル化し効率的に指導していったほうが、はるかに人材育成の効率も高い」とコメントした。
2つ目の論点が、「組織の持続性」だ。「仕事が本当にできるよね」と評価されている上司でも、実は”部下をすり潰しながら自分の業績を上げている”ケースもある。今までの日本企業は、そういう上司の方を大事にしてしまうケースも少なからずあったという。
しかし、「組織の持続性」を考えると、「やっぱり部下を潰す人はNGだよね」「ちゃんと部下を育てながら、チームの業績を出せる人を大事にしようよね」という組織にならないと、「組織として持続的に成長していかない」と指摘した。
確かに、パワハラで若手社員が育たず次々と辞めてしまうようでは、会社組織として立ち行かなくなっていく。若者がたくさんいた時代ならそれでも行けたのかもしれないが、周知の通りの状況である。現在求められているのは、チーム力を生かすマネジメント能力というわけだ。
梅澤氏は、「人材不足の今だからこそ、そういうブラック企業は撲滅をし、逆にちゃんと人材を育てられるような企業を後押しをすることが大事」として、「社員の意識改革を一気に進める上でも、法制化というのは強いメッセージになる」と考えを語った。