「AI採用」で得をするのは、頭はいいけど暗い人? 印象評価からデータ重視の選考へ
今、人事の世界に「革命」が起ころうとしています。
これまで、人の素質や組織運営の方向性などについては、「目利き」と呼ばれる人がその神秘的な能力で的確に判断していた、ということになっていました。ところが、世界中の様々な研究から、生身の人間が人間を見ることは、極めて曖昧で精度の低い手法であることがわかり、それらが広く知られるようになってきました。
その結果、「これからは明確なデータから人や組織を判断していこう」という機運が高まっています。適性検査を重要視したり、自然言語処理のAIを用いてレジュメやエントリーシート、果てはSNSの投稿などを分析したりして、選考情報に利用しようという企業が増えています。
ただし、選考手法が変われば、得する人も損する人も出てきます。今回は、採用におけるAI選考導入によってどんなことが起こり、それに対してどんなことができるのか考えてみたいと思います。(文:人材研究所代表・曽和利光)
これまで評価されていた「多少頭は悪くても、明るい人」
私たち人間は、社会性の高い生物です。そのため、出会う人をその都度できるだけ早く印象などで評価することがプログラムされているようです。米国の人気ビジネス書作家であるマルコム・グラッドウェルの著書『第1感』(光文社刊)によれば、「何かへの評価は最初の2秒で決まる」とのことです。
そこで判断されているものは、採用面接でも最終的な評価に大きな影響を与えることがわかっています。そうなると、「印象評価」と言われているものがどんなことを評価しているのか、もう少し具体的に知りたくなります。
日本における採用面接研究の第一人者であるリクルートマネージメントソリューションズの今城志保主幹研究員の研究によれば、「外向的で情緒が安定している人は、一般的に面接評価が高くなる傾向がある」「知的能力は、常に面接で評価されるわけではない」ということでした。
つまり、印象評価が結果として最終評価に大きな影響を与えてきたこれまでの面接選考では、日常的な言葉でわかりやすく言うならば、「多少頭は悪くとも、明るく、緊張しない人」が高く評価されてきた、得してきたということです。影に隠れていた「知性」が評価される好機
このことは、裏を返してみれば「頭がいい」(基礎的な知的能力が高い)人や、「テンションが低く、やや暗く見られがちな穏やかな人」「緊張感の高い、危うげな人」などは、これまでの面接で割りを食っていたと言えるかもしれません。
「構造化面接」など面接の精度を高める方法はありますが、ほとんどの会社で行われているフリートークに近い「ふつうの面接」において、このような人たちは、あらゆる会社でマイナス評価を受けてきたわけです。
ところが、AI選考などのデータ分析重視の採用にシフトしていくことで、今よりは適正な評価を受けることができそうです。なぜなら、暗さや緊張感という要素は、対人サービス業など仕事上それらが極めて重要であるというところを除けば、本来はさほど問題にしないところも多いからです。
彼らにとって、データ重視採用へのシフトは好機です。特に、知的能力が重視される職務においても、面接ではあまり知的能力は評価されないことが多いということを合わせて考えれば、暗さや緊張感の影に隠れていた知性をきちんと評価してくれるチャンスです。つまり、これから得するのは、「頭は良いが、暗く緊張感が高いために、これまで低評価だった人」とも言えます。
もう「愛嬌」だけでは生き残れない
まとめると、採用選考、特に面接選考という場において、これからは「明るく、緊張しない」といった、いわゆる「愛嬌」的なものの価値が下がり、今よりも「知性」が問われるということでしょう。
「愛嬌」だけで様々な場面を乗り切ってきた人にとっては大変ですが、日本の各産業において年々知性というものの価値が向上してきていることを考えれば、社会的観点からも良いことだと言えるでしょう。
また、面接において相手に好印象を与えようと、変に媚びたり、愛想を振りまいたりする必要は徐々になくなっていき、一方でこれまで努力して磨き上げてきた自分の能力をきちんと見てくれるということにもつながるでしょうから、この流れは就職や転職を考える人の観点から考えても良いことなのではないでしょうか。
ですから、AI選考時代に大切なことは、結局、当たり前の話なのですが、面接を乗り切るための小手先のテクニックや印象操作などに頼らずに、ちゃんと経験して勉強して、自分の能力を高めましょう、ということです。
面接に合わせた「偽りの自分」は見抜かれる
さらに言えば、これまでは選考結果にかなり大きな影響を与えていた面接官との相性なども、AI選考などのデータ重視採用が進むにつれ、関係がなくなってくるかもしれません。
これまでは「類似性効果」といって、面接官と似たパーソナリティの応募者は高く評価される傾向があったのですが、それもデータ重視の選考によって是正されることになっていくでしょう。面接で無理に相手に合わせる演出も必要もなくなっていくということです。
その代わり、「素の自分」しか評価されないという、ある意味恐ろしい時代でもあります。面接に合わせて作った「偽りの自分」は見抜かれる可能性が高くなっていき、そういう対策はどんどん意味がなくなります。
むしろ、自分でも自分のことを知らない、自己認知の低い人は多いのですが、勇気を出して、認めたくない自分の負の側面なども含めた「素の自分」を見つめ直すことが重要になっていくでしょう。
そうすることで、自分に適した仕事や業界や会社を、きちんと選んで受けていかなければ、人間のようにごまかせない相手であるAIによる採用選考では、絶対に受からない社会になっていくということでもあるのです。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/