就職氷河期世代とは、バブル崩壊後の景気後退に巻き込まれ、厳しい就職活動を強いられた世代を指す。現在は30代半ば~40代半ばになった彼らだが、今も非正規雇用や引きこもりとして生活する人も多い。では、なぜ団結してデモなどの行動を起こさないのだろうか。
1月中旬、有志20人が「就職氷河期世代当事者全国ネットワーク(氷河期ネット)」を発足した。こうした取り組みは、現状に一石を投じるきっかけになるだろうか。就職氷河期世代の筆者が、団結できない理由とともに考えてみた。(文:ふじいりょう)
数々のITバブル成功者を輩出も 突き放される同世代
就職氷河期世代というと、不安定な仕事に悩む人々を想像する人も多いだろう。だが、実は数々のスター経営者を輩出している世代でもある。
例えば、ZOZO創業者の前澤友作氏は1975年生まれ。ライブドアを創業した堀江貴文氏も1972年生まれだ。さらに、サイバーエージェントグループを率いる藤田晋氏は1974年生まれ、『mixi』を創業した笠原健治氏、はてな創業者の近藤淳也氏も1975年生まれと、2000年前後のITバブルで成功した企業家が多数現れている。
このように成功している人は、大きな業績や実績を上げている一方で、低賃金にあえぎ、心身を壊してひきこもりになってしまう人も大勢いるというのが就職氷河期世代の実態といえる。つまり、そこには平均値では読み取れない格差が広がっている。
これがもし欧米ならば、成功者は財団を作るなどして社会貢献に務めるようになるだろう。しかし、成功者の中には、同世代であるはずの就職氷河期世代に対して、むしろ批判的な見方をする人すらいる。前述の堀江氏が以前『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)で失業者に対して
「自己責任」
「本人たちに原因がある」
などと述べたのがその典型といえるかもしれない。
1990年には約半数が大学不合格に
日本でもこれまでに比較的小規模なデモ活動はあったものの、欧米の”それ”には遠く及ばない。やむを得ず非正規雇用で働いたり、引きこもりとして生きている就職氷河期世代は100万人もいるというのに、どうして団結できないのだろうか。
筆者の感覚では、この世代のたちは「よい大学を出れば、よい就職先に入れる」と信じ、言ってみれば”偏差値至上主義”の学生時代を送ってきた。文部科学省の学校基本調査によると、1990年の大学不合格率は44.5%と受験者のおよそ半数が落ちている。
筆者が入試を迎えた95年には35.2%とやや下がっているものの、2008年以降は10%を割り込んで右肩下がりとなっている現状と比較すると、まだまだ競争は激しかったといえる。
皆が高校だけでなく、予備校にも通い、模試を月2回受けてその結果に一喜一憂。とにかく、テストの成績を上げることに躍起になっていた。こうして全員が偏差値を上げるゲームに駆り立てられていたのが”偏差値至上主義”といえる理由だ。
競争心をあおられたのは大学入試にとどまらない。就職活動では、大勢で限られた内定を取り合う”いす取りゲーム”を経験するはめになった。94年以降、大卒採用の求人倍率は1.5倍を割り込み、2000年にはとうとう1倍を割り込んだ。
この年の就職率は55.8%で、それから数年は55~60%で推移した。同時に大学院への進学率や、非正規など一時的な職に就いた人の割合が増加している。
以降も就職氷河期世代の間では、転職などで少ない求人を取り合うことが常態化している。筆者も大学卒業後にフリーター、派遣社員を経験した一人だ。こうした経緯から、同世代で競争する風潮が根強く刻まれた可能性が高いのではないだろうか。
前述の氷河期ネットでは、氷河期世代の起業、就職を相談する「ロスジェネ食堂」を開くという。だが、同世代で競争を強いられてきたマインドが刷り込まれた人の中には、気軽に相談に行けないケースもあるのではないだろうか。「競争」を「協力」に塗り替えるきっかけがない限り、就職氷河期世代が団結し、自らの権利を主体的に訴えることは難しい。