外川さんは、キャリコネニュースの取材に「『顔採用をやっています』と発表する企業はありません」と話す。採用担当者以外は、履歴書の写真によって差別を受けているかどうかを知る手段がない。それでも、見た目で差別を受けていると感じる人もいる。
「学生アルバイトの話ですが、いくらコンビニやファストフード店を受けても、落とされてしまう人がいます。中には『キッチンならいいですよ』と言われて、接客というと落とされる人もいました」(外川さん)
履歴書のみによる”お祈り”を経験するうちに、求職者は自然と工場作業などの裏方の職種を選ぶようになるという。結果的に、自らのキャリアの可能性を狭めてしまうことにつながりかねない。
遺伝子疾患アルビノのため、自身も金髪に生まれた矢吹さんは、見た目の症状が履歴書の顔写真で見て分かる人ほど理不尽な経験をすることが多いと明かす。
「中には服に隠れている人もいますが、顔にアザや傷、それから変形があるという人もいます」
「円形脱毛症の人ならばウイッグを被ることも多いです」と続けた矢吹さんだが、問題はそれだけでは解決しない。履歴書の入口をクリアしても、その後が問題になることもあるのだ。
「過去には『面接でひどいことを言われた』という人もいました。アルビノであるために、髪を染めることを採用の条件に求められた人もいます」(矢吹さん)
差別のフィルターは履歴書、面接に限らない。外川さんは「入社後の社員旅行でも、温泉に入ることがありますよね」と付け加え、当事者にとっては働き始めてからも常にぶつかる問題の煩わしさを指摘した。
「これまでの就職活動にムーブメントをもたらすきっかけにしたい」
活動開始からわずか2週間で1万2000人の賛同を集め、10月8日には厚生労働省に署名を提出した。矢吹さんによると、普段から見た目問題に関心があるわけでない、普通の就活生からも反響があったという。ツイッターでは、
“今まで考えたことなかったけど、確かに必要ないよね”
“履歴書に付けるために写真撮るのって面倒くさい”
といった反応もみられ、「カジュアルに注目してもらえたことは良かった」(矢吹さん)と印象を語った。
履歴書の写真に限らず、就職活動に求められるリクルートスーツや髪型に疑問を持っている人は多い。矢吹さんは「就活はよく”画一的だ”と揶揄されますよね。いかに個性をなくすかを求められるのに、採用側は個性を見ようとする。ならば、なおさら写真なんていらないはずです」と持論を述べる。外川さんも
「履歴書の写真から何を見ているか、ですよね。活動を始めてみて、強く反対されないことが分かりました。これは日本独特の文化かもしれませんが、今までずっと続けてきたものはやめづらい。でも、なんでやめないのかは疑問です」
と履歴書で必ず顔写真が求められる理由が分からないとした。
2人は活動を続ける傍ら、履歴書から写真欄をなくすことは第一歩にすぎないとする。外川さんは「就職活動の現場においては、見た目にとらわれずに能力やスキルで採用不採用を判断されることが大切」と強調する。その上で、矢吹さんは
「履歴書の写真欄の件は、大きな意味で、これまでの就職活動にムーブメントをもたらすきっかけにしたい。これですべて解決するとは思っていません」
とコメントした。新卒採用では現在、必ずしもJIS規格の履歴書は使っておらず、企業が独自にエントリーシートを設けているケースも多い。そういった企業に向けても、顔写真の不要論を伝えていきたいとした。
履歴書の写真は”記憶のキー”という役割を果たしていたが……
では、実際に履歴書から顔写真がなくなったらどうなるのか。採用の現場に詳しい人材研究所の曽和利光代表は、キャリコネニュースの取材に「履歴書から写真欄がなくなることは今後あり得ると思うし、私も賛成です」と回答した。
「写真欄があることで『顔ジャッジがあるのでは』などという都市伝説が生まれて採用側も嫌ですし、私も(履歴書の写真欄撤廃が)実現すればいいと思います」
現在の履歴書の顔写真は”記憶のキー”という側面があるという。「顔写真があると『ああ、この人はこんな人だったね』と記憶を引き出せるので、もし顔写真がなくなったら『この人、どんな人だったかな……』と記憶が混乱することが増えるかもしれません」と話す。ただ、それでも影響は一時的にとどまるという見方をしている。
一方、顔写真をなくすと、採用時によりフラットに能力を判断できるというメリットもある。
「いわゆるハロー効果という特筆すべき美点を持っている人がどんな観点でも高い評価を受けるという心理的バイアスのうち、”美貌”によるものがなくなることは確かでしょう」
と話し、「ルックスと関係のない業務の場合は”美貌”に惑わされずに必要な能力を判定できるのではないでしょうか」と利点を述べた。