ダイバーシティの観点からLGBTフレンドリーを掲げる企業も出てきているが、実際にどのような取り組みを行っているのか。P&Gジャパンは5月26日、同社が取り組む”アライ育成研修”の概要を説明する記者発表会を開催した。「アライ」とは、LGBTQ+当事者に限らず当事者に共感し、支援する人のことを指す言葉だ。
同社では、経営戦略の中で「平等な機会とインクルーシブな世界の実現」を掲げ、社員一人ひとりが等しく機会を得て、能力を最大限に発揮する組織づくりに取り組んできた。アライ育成研修の実施もその一環だ。
なお、同社では”アライの考え方”は人種差別や子どもの貧困、障がい者差別など、LGBTQ+以外の社会問題にも通ずるものがあるとし、さまざまなマイノリティに対する理解・支援者においてもアライと定義している。
「人口の1割がLGBTQ+ですが、8割がその事実を知りません」
アライ育成研修では、性の多様性についての知識を身に着け、インクルージョン(誰にでも仕事に貢献する機会があり、仕事の機会が誰にでも平等に与えられた状態)の重要性を学ぶ。もちろん当事者の声も聞くことができる。
その上で参加者同士のディスカッションを通して、アライのスキルを身につける。例えば、飲み会でLGBTQ+差別を目にしたらどう対応するかなど事例を通して、”自身はどう行動するか”を一人ひとりが考える。
住友聡子・執行役員広報渉外本部シニアディレクターが同研修の開発背景を説明した。多様なバックグランドを持った人が働きやすい環境を実現するためには、「当事者だけでなく、いかに周りのメンバーが理解し、それぞれが正しい行動を取ることができるのかが大事だと思っています」と話す。
そこで鍵となるのが、マイノリティの存在を認め、積極的に協力する支援者(アライ)の育成だ。ただ、「ここに来るまで非常に時間がかかっています」という。
2016年にLGBTQ+インクルージョンに取り組もうとした際、社内では「本当に今必要?」といった声も挙がった。しかし、2019年にジェンダーをめぐる議論が社内で起きたことがきっかけとなり、2020年に本格始動した。今年5月末からはアライ育成研修プログラムを社外にも無料で提供していく。
社内ではアライのコミュニティ「GABLE」も立ち上げられた。当初は数人だったが、現在では約200人が所属しており、「最初はアライとして参加して、活動していく中で実は当事者だと話す人もいました」という。
また、同社は同日、LGBTQ+とアライに関する調査の結果も発表した。調査は15~69歳の男女5000人から得た回答をまとめたものだ。自身がLGBTQ+だという人は9.7%。「アライ」という言葉の認知率は7%に留まっているが、その考え方に共感する人は過半数となった。
ただ、アライとして「性指向・性自認に関する嫌がらせを止める」「周囲への理解を広める」など具体的に行動している人は2割で、アライの考え方に共感した人でも3割に留まっている。その理由で最も多かったのは「身近に当事者がいない」(35.2%)だった。
住友氏は「人口の1割がLGBTQ+ですが、8割がその事実を知りません。身近に当事者がいないと答えた人が4割ですが、いないのではなく見えていない、自分の周りにいると気づいていないのではないかと思っています」とコメントした。
「男なのに女々しい」規範の押し付けはマジョリティーでも”生きづらさに”に
トークセッションでは、LGBT関連の運動に取り組む一般社団法人fairの松岡宗嗣代表理事と、NPO法人東京レインボープライドの杉山文野共同代表も登壇。今回の調査結果をもとに、LGBTQ+当事者目線で語った。
調査によると、LGBTQ+層の悩みの上位2つは「差別や偏見」「当事者は周りにいないと思われている」だが、ストレート層にLGBTQ+層の悩みだと思うものを聞くと「男女分けされている場所の使用」「結婚・パートナーシップ」が挙げられた。
松岡氏は、「(ストレート層が挙げた問題も)課題の一つではあるけど、報道されていたり、わかりやすかったりする問題がより認識されています。隣にいる人の悩みは想像できておらず、ギャップがあると言えます」と指摘する。
ちなみにLGBTQ+層の約半数が「自分らしく生きられない」と答えており、10代では65.7%にのぼる。自分らしく生きるのに苦労を感じる人間関係・コミュニティを聞くと、10代(学校)以外のすべての年代で「職場」が最も多かった。
松岡氏も「職場の差別には、ひどいものからライトなものまである」と話す。
「トランスジェンダーだと明かしたらその場で面接を打ち切られたとか、飲み会でのホモやおかまとネタにされ笑われたり、レズビアンだというと『男を知らないだけだろう』と体を触られたり」
ほかにも「週末どこ行ったの? 彼女と?」とヘテロセクシャルであることを前提で話かけられて、言うべきか否か迷うこともあるという。また、「男なのになよなよしていて女々しい」などといった性規範を押し付けられることもあるというが、こうした差別があるとLGBTQ+だけでなくマジョリティーも生きづらさを感じてしまうと指摘する。
杉山氏は自身がトランスジェンダーであり「そもそも男と女、どっちに丸すればいいの?と就活を諦めた時期もあります。オープンにすると面接で落とされたり」という過去があった。
「ベッドの上の話だから職場に持ち込まないで、と勘違いされがちですが、性行為の話ではなくアイデンティティの話です。『異性愛者は自身を異性愛者だとカミングアウトしない。同性愛者もそうすべき』という声もありますが、普段の会話で『妻が、子どもが』というのは明かしているのも同じ。LGBTQ+は普段の会話も制限されているんです」
また、トランスジェンダーは性別の移行期がある。当事者として「女子高生から(今の)ヒゲが生えるおじさんになるまでいろんな段階があり、対応が変わってきます」と語る。現在も戸籍上は女性であるため、職場などで「学校どこだった?と聞かれ、日本女子大学の附属ですと答えるとバレます。身近に(支援者が)いないとやりづらい」と明かした。
職場でアライがいると答えた当事者は3.6%に留まっている。ただ、アライについて学ぶことがさまざまな社会問題にも役立つと思うと回答した人は全体の50.7%にもなった。
職場のアライについて、杉山氏は「キーワードは心理的安全性。当事者からすれば『いつだって言えるんだ』と『バレたらどうしよう』は違う」と説明。当事者が”安全を保たれている”と感じられることが、個人としてもチームとしても能力を発揮しやすいとし、「アライの存在があると能力発揮しやすい」を話した。
例えば、身の回りでLGBTQ+を差別する発言があれば、注意をしたり、会話を変えたり、あとでフォローをしにいったりと方法はさまざまある。アライを広げるために、住友氏は「自分らしいアライになりましょう」とコメントした。